第27話 シルバーマンの提案
《登場人物》
長宗我部 博貴 警部 (長さん)
入船 宗次郎 警部補 (ボウラー)
河瀬 憲仁 巡査部長 (和尚)
古村 俊 巡査部長 (シルバーマン)
夏目 真彦 巡査長 (先生)
田中 悠 巡査長 (アンジェリーナ)
佐藤 蒼太 巡査長 (ブラッド)
ペイン 爆弾魔
爆弾魔ペインが籠城を始め10分が過ぎようとしている。多目的広場のステージに、人質の少年と爆弾ベストを着けた男。
その対面には長。2階のホビーショップフロアにボウラー。エリアを支えている大きな柱の裏で身を潜めているシルバーマンそれぞれが重く危険な空気に飲まれつつある。
それまで煙たく感じていた少年の泣き声に対して、ペインは感じる事もなくなってきていた。
焦る様子もなく、ペインは子供に話しかけた。
「坊主。これを持て」
右手に持っている爆弾のリモコンを持たせようとさせるが、子供は反応する事なくずっと泣いている。
「おい! 聞いてるか!? このリモコンを持つんだ!」
湧き出る苛立ちを爆弾魔は隠そうとしているが、全く隠しきれず声と態度で苛立っている事が長は理解した。
ペインは泣いている子供の手に、無理やりリモコンを握らせる。
「お前、人質に起爆装置渡すのか? つくづく正気じゃないな」
「何とでも言ってくれ。俺にはそれが褒め言葉さ。お褒めいただき感謝致します」
「……にしても不思議だよ。お前、なんで最初の標的にあの車にしたんだ? いくらなんでも、おかしい。狙うには目標の規模が小さすぎるのだが……」
「わかってないなぁ。全然わかってない。恐怖に落とす為には段階というものがあるんだよ。わかるかい? あれは小さな恐怖だ。そして段階を重ね恐怖を増幅させていく。実質、見てみろ。この施設の状況を……」
爆弾魔の演説の様な叫びを聞いて、シルバーマンは、辺りを見渡す。
お店やコーナーにいる店員や客は既にいない事を知る。店の入口前で野次馬と化しているのが見えた。フラッシュやカメラの赤いライトが光っている。
彼の狂気じみた言葉に、慣れていたせいか長の心には全然響かない。
長は、笑いながらペインに向けていた銃口を下ろし、グロッグを自分の足元に置いた。
「馬鹿馬鹿しいな。これも全ては小さな恐怖というわけか?」
「いや、これは完全系。今がピークの恐怖だよ」
「そうか? 店の外で面白がっている野次馬の馬鹿が、君の活躍を撮っているが……」
ペインはゆっくりと施設の窓の方に目をやった。野次馬のフラッシュが大量に光っている。
ゆっくりとグロッグを、窓の方に構え、気持ち悪い笑顔を見せた。
「注目してくれているという事は、もっと恐怖に落として欲しいという希望だと俺はとっているんだ」
ゆっくりと野次馬たちが見える窓の上に向けてペインは、引き金を引いた。
彼が持つグロックの銃口から独特な炸裂音を立てて、施設の壁に向けて着弾する。野次馬達は自分に当たらない様に窓から離れようとした。悲鳴が外から聞こえるのが中にいる人間には分かった。
ボウラーは、下にいるペインに声を聞かれない様に、所轄の部下に連絡する。
『おい! 野次馬を施設に近づけさせるな! あいつが爆弾を押しかねなくなる!』
シルバーマンはゆっくりとペインに見られない様に隠れながら移動し、天井照明が良く見えるポイントに移り、外の様子をもう一度確認する。
外は夕から夜の景色とゆっくりと変化し、オレンジから深い藍色へと変わっていき、アスファルトの部分が黒くなっているのがシルバーマンの目に写った。
「これは、もしかしたらチャンスかもしれないな……」
自分の無線で電子警察のメンバー達に伝える。
「提案があります! このエリアの照明を消せば、もしかしたら奴を錯乱させないですかね」
ボウラーは、耳越しに響く彼の提案に、頭を悩ませる。
『大丈夫か? 今の状況だと、人質がいて、照明を消しても、あまり効果はないぞ!』
「でも、今の現状では、爆弾が爆破してしまうだけです。奴が爆弾を止める様な事はしないはずです。これまでも見てきたとおりだが、おそらく奴が止めることはないと思います! まずは、少年を解放しなければ、捕まえる事も爆弾を止める事はできない!」
『一か八か賭けるのか? 無茶すぎるぞ』
「何もしないよりかはマシです!!」
長はシルバーマンとボウラーの会話を黙って聞き、ペインと人質となっている少年の状況を間近で感じ取っている。
シルバーマンは、まず、人質を如何に解放させるかを考える事にしたが、手立ては見つからない。長はインカムをつけたまま、シルバーマンの位置とボウラーの位置を見つめていた。
ペインの手によってスイッチが押されてから、15分が経つ。
何名もの捜査員を連れて、先生は、爆弾が入ったゴミ箱に辿り着き、ゆっくりとゴミ箱から、容器を取り出していた。
「慎重に! 慎重に! ゆっくり取り出してください」
先生と捜査員の2名が、容器を、それぞれ白い手袋をつけた手で触れ、ゆっくりと運び出す。
「そこに置いてください」
爆弾をおいて解除するために使う銀色のマットが敷かれ、先生達はそこに爆弾を置き、先生が持っていた爆弾も一緒に並べていく。
タイマーは作動してから、残り時間約45分を切っていた。
無情にもデジタル数字版が時間を1秒1秒ずつ告げる。
《00:42:45》
《00:42:44》
《00:42:43》
先生は上着を外し、防弾チョッキを外した。
「今から解除します。皆さんは、ここから離れる様にしてください。一般客の避難誘導もお願いします」
捜査員達は、先生の命令を耳に受けすぐに行動に移す。
「了解!!」
すぐさま1つ目の爆弾解除作業へと先生は、取り掛かる。
「さぁて、ここからは私の見せ場ですね」
タイムリミットまで ―42:00―
第27話です。話は続きます。
遅れました。大変申し訳ありませんでした!!
完結に向けて頑張ってまいりますのでよろしくお願い致します!!