第2話 ブラッドとアンジェリーナ
《登場人物》
長宗我部 博貴 警部 (長さん)
入船 宗次郎 警部補
田中 悠 巡査長
佐藤 蒼太 巡査長
― 1週間後、愛媛県 松谷市 ―
愛媛県は2018年に大規模な地方都市合併政策によって、県庁所在地の松山市が改名され、松谷市となった。
しかし実際、町並みは変わっていない。
長は空港を出て、タクシーに揺られながら、辞令で指定されたとおり、愛媛県警本部へ向かう。何分時間をかけたのだろうか? 長は振動に揺られながら、庁舎へ向かい、やっとの思いで到着した。
料金を支払ってタクシーを降り、目の前のビルを見てみる。
「これが愛媛県警か……」
ビルの外観はちょっと古ぼけているのか若干老朽化を感じる建物だった。
「行きますか」
長はゆっくりと歩いて庁舎へと入っていく。
中は、外装とは違い、しっかりとしているように見え、綺麗な内装が施されている。
「綺麗だな。意外と」
受付では警察事務の人が色々と業務をこなしているのが見えた。
長は、受付に向かい女性に事例のことを知らせようと近づいていく。彼に気づいたのか、綺麗な笑顔で受ける。
「あのー。すいません」
「はい? なんでしょうか?」
長はポケットから一枚の紙を彼女に手渡した。
「あーあなたが、長宗我部さんですね。お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ……」
受付の女性に言われるがまま長は彼女の後に付いていくことにした。
廊下を歩いていくと職場の人間の少なさに少し違和感を感じながらもあるいていく。
「いやー待っていたんですよ。現在は皆さん事件の方で出払っているんですけどね」
「事件ですか?」
「ええ、数日前に爆破事件が起きましてね。その捜査でみなさん出払っているんですよ」
「なるほど」
2人はエレベーターの前で止まり、箱が来るのを待つ。
「長宗我部さんはどうして、愛媛県なんかに?」
「いや、簡単ですよ。辞令です」
「あ、なるほど」
それからは話が続かず。
エレベーターの到着が救いだった。2人はそのまま乗り、女性が、ボタンを押した。
《B3》
「えっ? 地下ですか?」
その問いについての返答は沈黙だったらしくどうやら答える事は出来ないらしい。
「ああ、いえ。分かりました。すいません」
長は目的地にたどり着くまで黙ることにした。
エレベーターは目的地に着き、アナウンスの後にドアが開く。
「ここです。そのまま、まっすぐ進んでください。そこにドアがありますので……」
「えっ? ここまでですか?」
「ええ、ここからはあなたや関係者以外立ち入り禁止ですので」
女性はずっと《開》のボタンを押して笑顔で返す。
長は言われるがまま、エレベーターを降りた。
「では」
女性は一礼し、エレベーターのドアが閉まった。
「やれやれ、異動初日から何なんだ」
彼はため息をつく。
ゆっくりと歩き始め、女性に言われたとおり、まっすぐ進む。ある程度歩いていくと、新しく作られたような、最新型のドアが設置されてある。
長がドアまで近づくと、勝手に自動ドアが開いた。彼は開いた先へと足を進めていった。
「失礼しま……!?」
そこは、綺麗に真新しく作られた職場で、新型のパソコンやデスク、サーバーがしっかりと備われた新しい空間である。
長宗我部の刑事生活で初めて職場の綺麗さを体感した。
「そこです! 距離50m!」
「あいよ! リーダー」。
長が声のする方に視線をやると、若い男女2人が隣同士でそれぞれ机に座って、最近、流行りのオンラインゲームをパソコンで遊んでいる。
片方は赤いメガネをつけた男。もう片方は、ポニーテールの女。
長は2人の下に近づいて、訊いてみる。
「君たち……ん? そのゲームは?」
「ああ、《フリー》っていうゲームです。いわゆる戦争ゲームってやつですかね?」
「そうそう。俺達、2人は不死身のコンビ!! なんつって!」
『はははははは』
2人の大きな笑いが良く聞こえる。
「で、どうしたんですか? 我々に何か?」
ギャップの差を感じたのだろうか一気に年をとったような気が長はしていた。
「ああ、紹介がまだだったな。俺は……」
ポニーテールが長宗我部の言葉を挟む。
「長宗我部 博貴警部ですね? 話は入船警部補から聞いています」
「えっ?」
「だって、今日ここに配属になるんでしょ。よろしく。警部さん」
気づけば、2人のパソコンには自分の経歴やデータ戸籍などが写し出されていた。
「セキュリティが脆弱すぎますねぇ。あとでしっかりとした対策が必要ですね」
女の子がキーボードを高速で叩きながら軽い自己紹介を長に向けて、披露する。
「はじめまして。警部。私は田中 悠と申します。以後お見知りおきを。で隣の赤いメガネの彼が……」
「どもども。俺は佐藤 蒼太って言うんだ。宜しく!! で俺達の事は、ブラッド、彼女はアンジェリーナって呼んでるんだ。覚えてくれよな!」
「えっ?」
おいてけぼり状態の長宗我部警部。それを把握したのか、佐藤が、もう一度、繰り返した。
「俺がブラッド。で悠がアンジェリーナ。不死身のコンビってわけ」
なんとか内容を理解して、軽く反応を返す。
「あ、ああ、宜しく」
アンジェリーナは長に今の職場の事についてパソコンのゲーム画面を見つめながら言った。
「一応、この職場には他の皆さんはいますけど、今は事件現場の方に向かわれましたよ」
「もしかして爆破事件か?」
ブラッドは、続けて話す。
「うん。もしかしたらって事で、現場に向かって行ったよ。僕たちはお留守番ってわけ専門じゃないからね」
「専門?」
「俺達はウィザードってわけ」
「ヴィザード?」
警部のあまりの反応の悪さに田中と佐藤の2人は察した。
《この人、アナログだ!!》
2人は、ため息を着き、アナログ人間の長に対して、自分の専門について説明を始めた。
「警部さん。私達はハッカーという職の人間で要はパソコンに強い人って奴です。ランクはヴィザード。政府が極秘で公認された政府御用達ハッカーだったんです」
赤いメガネが長にめがけてレンズを光らせる。
「日本の為に働かないかって言われて、働いているわけ。こう見えてもちゃんと大学は出たんだよ。アメリカの飛び級だけどね」
自慢を含んだブラッドの発言を長は、軽く理解して、受け流した。
アンジェリーナは警部に尋ねる。
「あなたは辞令ですか?」
訊かれた彼は淡々と答えた。
「ああ、そんなところだ」
「警官でも辞令はでるんだなぁ」
「そんなもんさ、あ、ところで今、ここの担当責任者は? 一応、連絡は通してあるんだが、責任者交代で」
それについてブラッドが答える。
「入船警部補なら、今は県警捜査一課の方で、事件の様子を見てるよ。ああ、連絡しよっか?」
長は少々、戸惑いながら、ブラッドの言葉に甘える事にした。
「え、ああ、じゃあ頼むわ」
「そい! きた!」
ブラッドは張り切って、通話ボタンを開き、テレビ電話をかける。
3人が数秒待っていると、画面に無精ひげのアラブ人の様な男がブラッドの使うパソコンの画面から表示されている。
『はい。入船。あれ? どうしたん? なんかあったんか? あれ? 長さん?』
入船は心当たりがあった。警部は覚えていないが。
「あれ? 誰だっけ?」
「俺だよ。俺だ。入船だ。ほら、西温高校の……」
長は今までの人生の歴史を巻戻しながら確認する。
「西温? あっ!? お前ハンドボール部の!?」
正解だったらしく、画面越しで、警部補がうんうんと首を縦に振りながら頷いている。
「ああ、感動の再会と言いたい所だが、残念。今はあとにしようお前がここに異動して来た警部だったか。よし、すぐそちらに戻ろう。ちょっと待ってろ」
と入船は一方的に画面共有通話を閉じた。
通話が切られたあとで、長は思い出す。
「あ! 思い出した! あいつだ。高校の時の奴だ」
ブラッドは「やれやれ」と言って、赤メガネを掃除していた。
アンジェリーナは2人のやりとりを見ながらニコニコと微笑みながら、長に言う。
「あ、警部さん。一応、ここのメンバーについて知らない方が多いと思うんです」
「ああ、そうだな」
警部は納得している。
それを見つめているアンジェリーナ。するとゆっくりとブラッドが、ヘルメットのかぶりものを持ってきた。
説明役のアンジェリーナが、ヘルメットについて説明していく。
「で、一応、これをつけてください」
長はブラッドから手渡されたヘルメットをかぶってみる。
「これは?」
アンジェリーナは座って、キーボードを早打ちして、仕掛けを起動する。ヘルメットをかぶった長にだけ起こる仕掛けを。
ハッカーの2人は、警部に起きている事を把握しているが、映像は見えていない。
長の視線に写るのは色々な文章。
アンジェリーナがヘルメットについて説明した。
「このヘルメットは付けた人間を認識し、この職場に関する情報を全て表示し、展開していきます」
長は彼女の言葉を聞きながら、表示される経歴をどんどんと読んでいく。経歴は、メンバー表とともに証明写真が写し出されている。
―――――――――――――――――――――
電子警察……電子犯罪及びサイバーテロの鎮圧・解決における実働的特殊部隊
【電子警察 所属メンバー】
電子警察実働隊
隊長 :長宗我部 博貴 警部
副隊長:入船 宗次郎 副警部
隊員 :河瀬 憲仁 巡査部長
隊員 :古村 俊 巡査部長
隊員 :夏目 真彦 巡査長
技術係:越智 恵果 警部補
電子警察所属ハッカー
田中悠 巡査長
佐藤蒼太 巡査長
《電子警察における特例条項》
・第一条 事件捜査時の事件捜査権の優先順位
通常事件の場合は、捜査権は刑事課となり、電子警察は支援的捜査行動を取る事。
順位関係は、刑事部≧電子警察となる
電子が絡んだ事件及び電子犯罪の場合、電子警察が捜査権を取り、刑事課はその支援的捜査行動となる。
順位関係は、刑事部≦電子警察となる
また、通常テロの場合は公安部主導となるがサイバーテロ及び電子犯罪絡みの通常テロの場合は電子警察が主導で解決。または共同捜査となる。共同捜査になるかならないかは基準は、テロの規模による。
順位関係は、公安部≦電子警察となる
・第二条 事件捜査時の電子警察の特例
通常拳銃使用は勿論。ハッキング、クラッキング、潜入捜査を実行することが出来る。
状況によっては破壊行為、殲滅も可能だが、極力避ける事。
――――――――――――――――――――――
ヘルメットを外し、長はある程度だが、この職場にいる人間の名前と顔だけは認識した。
「なるほどね。大体理解できたよ」
アンジェリーナはニコニコと笑顔で長の顔を見つめている。
「これからはあなたがこの部隊のリーダーになるわけです」
「そうそう。期待しています! 警・部!」
2人のハッカーによる純粋な目が少々、怖かった。
電子警察第2話です。
今回は新キャラが一気に出てきた回ですね。どんどん電子警察の所属のメンバーが出てきますのでお楽しみに!!
話は続きます。
ではでは。