第18話 向かう先は……
《登場人物》
長宗我部 博貴 警部 (長さん)
入船 宗次郎 警部補 (ボウラー)
河瀬 憲仁 巡査部長 (和尚)
古村 俊 巡査部長 (シルバーマン)
夏目 真彦 巡査長 (先生)
田中 悠 巡査長 (アンジェリーナ)
佐藤 蒼太 巡査長 (ブラッド)
ペイン 爆弾犯
八嶋 寛人 松谷大学電子学部教授
― 同刻 松谷大学 電子学部 八嶋教授室 ―
長と先生が爆弾解除やペインの相手をしている頃、和尚とシルバーマンの2名は、再び、八嶋のいる教授室に来ていた。
「また君達か。今度はどうしたんだね?」
八嶋は少々、警察官である2人に嫌だと感じている。
教授である彼に対し、気をなだめさせようと、動く和尚がいた。
「すいません。どうしても、お伺いしたい事ができてしまいまして、是非とも八嶋先生ではないと解決できない問題なのです」
和尚の言う相手への心の入れ方はやはり、何処か仏家の出身の空気を漂わせている。
八嶋は椅子の背もたれに体重を預け、顔をしかめた。
「なんだね? 手短に……」
「坂本遼馬はあなたのゼミ生ですね?」
八嶋は、和尚の質問に対し、笑顔で答える。
「ああ、私のゼミ生だよ。それが?」
しかし、心はこもっていない低めの声。教授に対し、シルバーマンは頷きながら、反応する。
「なるほど。深い関係はそこまでお有りではないと……?」
「彼と私の関係は、ゼミの人間であり、先生と学生というぐらいだよ。それで、坂本君がどうかしたのかね?」
和尚が軽い笑顔を示している八嶋に向けて告げた。
「彼が2件の爆破事件に大きく関わっているのをご存知ですか?」
和尚の言葉の中に、八嶋の表情を厳しくさせる単語がこもっている入り、態度が変わる。
「……知らない。それは本当かね?」
2人の刑事は、同時に頷き、和尚が中年初老の男に、告げた。
「彼が、残してきた連絡網や所在を辿った結果、ペインは坂本遼馬という男が浮上したわけです」
八嶋は話を聞きながらあごひげをさする。しかし、彼の表情はとても厳しい。
「その上、先ほどここの情報管理課のサーバーが何者かによるサイバー攻撃を受けて、ダウンしました」
依然として八嶋の表情はとても厳しい。
シルバーマンは言う。
「八嶋教授。我々が一度ここに来る前に話された内容は何です?」
和尚も語気を強めて放つ。
「教えてください! 先生」
沈黙が流れる。空気はとても澄んでいるが、心は晴れない。
八嶋は沈黙を破り、2人に告げた。
「『私は人を恐怖に陥れます。先生には、分からないでしょうけど、今まで、経験してきた恐怖を陥れてやるんです。今の愛媛県民に……』彼が私の研究室から出た時に言ったセリフだよ。私は注意した。『何を言っているんだ』と。でも彼の目は本気だった。私はそれ以上何も言わなかったんだ。まさかそんな事になるなんて……」
和尚とシルバーマンの表情はさっきより厳しくなった。それに対して八嶋の表情は沈み始めている。
「どうしてあの時、言ってくれなかったんです?」
「話を聞いて、最初はおふざけかと思っていた。単なる冗談だと思っていた。今を返せば、全力で止めなかった私は教育者として失格だよ」
八嶋は頭を抱え、顔を隠していた。落胆。今の八嶋の様子にふさわしい2文字熟語だろう。
机をはさんで、目の前に立つ2人の刑事も八嶋の落胆する様子は、同情せざるおえないが、今はそんな場合ではない事を心の中で悟っていた。
シルバーマンは溜め息をついて、落ち込んでいる初老男性に言葉を投げる。
「今更、悩んでいても遅いです。とにかく、彼が行きそうな所はありませんか? 彼をできるだけ罪を増やさない様に確保する必要があります」
八嶋は、重くなった口を開ける。
「彼はよく、大街道に行ってるよ。あそこは最近、ネット、電気専門の店が立ち並んでいる。彼ならそこにいるかもしれん。私もよく行くから見かけることはよくあった。もしかして……」
2人の刑事の表情と空気で八嶋は悟った。
シルバーマンは頷いて答えた。
「彼が爆弾を仕掛けた場所は、大街道です。制限時間は今夜の午後7時までです」
再び教授室に重たい沈黙の空気が立ち込めた。
「河瀬、古村。彼は、坂本君は本気だ。気をつけてくれ」
引き出しから一枚の紙を取り出し、和尚に手渡す。紙はしっかりと封がされてあり、まだ開けていないのが明確だった。
その紙には、坂本が八嶋に宛てたメッセージだった。
「私には怖くて、開けられなかった」
和尚は思い切って封を破り、中身を取り出す。そこには1枚の手紙と地図があった。地図は、長宗我部、電子警察のメンバーも知っている見覚えある形の地図、赤い円で囲まれた地図だった。
《どこかで爆破の大きな炸裂音を聞いたら僕だと思ってください。で、それが終われば、次は県内の人が集まる所を片っ端から吹き飛ばします。先生、テレビの画面越しでお会いしましょう》
「彼はもはや、自分の欲を抑えきれていない。彼を止めてくれ。おそらく向かってるはずだ。大街道に……」
2人の心には一つ共通した思いがあった。
それは、《警部や市民の命》が危ない事。
「急いで、向かおう。和尚」
「ああ、大街道だな」
「失礼します」
2人の刑事は教授に一礼し、そのまま研究室を足早に出て行く。
八嶋は静かに2人を見送った。
窓から見える外の景色はちょっと黒い色をしている雲。教授にとっても、坂本遼馬という一人の学生に対して不安は持ち、それと同時に、警察の動きについても不安を持っている。
ただただ平穏に解決する事を願っていた。
― 同日 電子警察 職場 ―
「まだか。まだか!?」
ブラッドは自分の能力を信じながらパソコン前で祈っている。現時点、彼は、商店街のカメラをハッキングし、カメラが写す場所を見つめていた。
理由は、先生に頼まれ、ペインこと坂本遼馬を見つけ出す事。しかし、未だ、見つかってはおらず。時間が一向に過ぎているのが間違いなかった。
アンジェリーナは、ペインの拠点を特定し、入船に連絡する。
「見つけましたよ。ボウラー」
『ありがたいね。位置情報を送ってくれ』
「喜んで。それと、この情報の近辺の工場で火薬を大量に盗まれているようです。もしかしたらその火薬と因果性があるかもしれません」
アンジェリーナは、キーボードを触りながらそう告げた。
ボウラーはハンドルを握り、安全運転で、ペインの拠点だった場所へ向かう。
『わかった。それも送ってくれ。一課の部下に連絡して向かわせるよ』
「長警部は大丈夫なんでしょうか? 今は連絡がないみたいですし……」
アンジェリーナの通話の隣で、ブラッドが入船に聞こえるように大声で答える。
「長さんは大丈夫だよ! 多分」
入船もその声がよく聞こえているのが分かり、頷いている
『ああ、そうやな。多分、大丈夫やろうな』
入船はハンドルをきり、車を操作していく。カーナビに表示されている坂本のアパートはもう少しで到着できる。彼はアクセルを踏み、坂本の拠点へと進行させていった。
タイムリミット 19:00まで ―2:51―
第18話です。だいぶ投稿までに期間が空いてしまいました。申し訳ありません。
さて、話もだいぶ進んでまいりました。 どうなっていくのでしょう。次回に続きます!




