第10話 爆弾捜索開始
《登場人物》
長宗我部 博貴 警部 (長さん)
入船 宗次郎 警部補 (ボウラー)
河瀬 憲仁 巡査部長 (和尚)
古村 俊 巡査部長 (シルバーマン)
夏目 真彦 巡査長 (先生)
田中 悠 巡査長 (アンジェリーナ)
佐藤 蒼太 巡査長 (ブラッド)
ペイン 爆弾犯
― 同日 ? ―
テレビの生放送で愛媛県警でのパトカー爆破のニュースがピックアップされ、愛媛県警では、トップニュースを取り上げようと各局テレビ局の報道陣が待機している。
『午後2時の爆破は、各方面で衝撃を与えるものとなりました。丁度、取材に向かっていたカメラマンが爆破までの映像を捉えています』
テレビの映像はパトカーが爆破した瞬間へと映る。
愛媛県警本部に停めてあるパトカーが勢いよく大きな衝撃と爆風を起こした映像が流れている。
パトカーが炎に包まれているが、煙やカメラの手ブレによってあまり画にはなっておらず、その上、カメラマンが必死に撮った様な演出とマイクによってカメラマンの息使いの荒さが、聞いて分かるぐらいで、良い映像とは決して言えない。
『愛媛県警はこの爆破に対して、午後4時頃に緊急記者会見を……』
ペインはリモコンでテレビの電源を切り、近くのソファーにリモコンを投げた。
「う~ん、カメラマンの写し方、最悪だなぁ。これじゃあ、せっかくの爆発と火の演出が見えなくて、ただの火事みたいになってるじゃん。本当に地方のテレビ局はダメだよなぁ」
気だるそうに、背伸びをして次に切り替えていく。
「まぁ、いいや。次だ次!」
ペインはノートパソコンを使い、各、状況について傍受していく。
「電子警察の方々は何やってるんだろう? おっ、映像がつかない」
1つだけ、映像が起動しないのを確認した。
その映像は、もともとある部屋に仕掛けておいた罠。引っかかれば、その部屋に隠してある爆弾が作動する物だった。
カメラが起動していない事は、事件とは全く関係ない大家か、親族か友人か、赤の他人の誰かが踏んだか……もしくは電子警察が入り、見事、引っかかり、爆弾が起動し、爆破したかのどちらか……
現時点で考えるとすれば、後者の電子警察の人間が踏んだ確立は高い。大家はわざわざ出かけていることを伝えているからよっぽどのことがない限り家には入ってこないだろう。友人はいないし、ましてや家族もあんなところには来ないだろうとペインは考えていた。
「踏んだんだな。じゃあ、そろそろ連絡してみようかな? いや待てよ」
ペインはパソコンとスマフォをつなげ、簡単に切り捨てなどができる簡易アドレスを作り上げていく。
その間にも仕掛けた爆弾の場所が分かるカメラ映像が流れ、タイマーが動いている事から、まだ爆弾の発見、解除に至っていない事を理解しながら作成していく。
「よーしできた!」
パソコン内蔵のデジタル時計は、午後3時になろうとしていた。
「さてと、あとは、相手に連絡するだけだが、ちょっと時間をおいてみるか……あっ! イベント戦が始まるじゃん。そっちやってからにしよう」
ペインは、急いで別のデスクトップパソコンが置かれている所にキャスター付きの椅子で移動し、パソコンの電源を押した。
「今日こそ勝たないと、爆弾使いの名が廃るぜ」
ゲームの画面が表示されている。
《フリー》
ペインはキーボードではなく、専用のコントローラーを持ってネットと巨大なゲーム会社が作り上げた世界に赴いて行く。
― 同日 午後3時 大街道前 ―
長が運転していた車は、近くの駐車場に停めて、先生と一緒に歩いて向かう。
向かう先は、爆弾処理班と爆弾を捜索する為に駆り出された県警捜査一課と所轄署の刑事達が上から指示された通り各々の自由な格好で固まり、集まっている場所。
長は早歩きで、集まっている所に向かっていく。
捜査一課の刑事が、自分達の方に、電子警察の長と先生が向かってきているのを見て、他の課員達に聞こえる様につぶやいた。
「電者《電子犯罪捜査関係者の事:ここでいう電子警察》の登場ですね」
「ああ、そうらしいな。結局はどんな事件を担当しているか。上層部しか分かってないけどな」
他の課員達も向かってくる長に視線を当てて近づいてきているのを感じ取る。軽く捜査員達に向けて礼をして、長は近づいた。
捜査員達も軽く会釈で返す。
「ご苦労様です。今から、爆弾の捜索を開始します」
先生は、集まっている刑事たちに向けて、分かり易い様に地図をスマフォのホログラム機能を用いて表示させる。
「これが地図になります。爆弾はこの円内に必ずあります」
長は説明にいくつか注意を付けていく。
「捜査課員の注意事項として、商店街の監視カメラに気をつけてください。決して警官の素振りを見せないようにお願いします。犯人は我々を監視しているかもしれませんからね」
捜査員達はそれぞれの声のトーンで反応した。
『はい!』
警部は続けて述べていく。
周りの空気がより一層、緊迫感が増し、捜査員の全員が長の顔を見つめて聞いている。
「一応、爆弾についてのサイズは不明ですが、相手からのヒントとして赤い箱と言っています。赤い箱が目印です。急いでくださいタイムリミットは今日の夜7時あと、3時間と55分しかない。カメラに気をつけて、赤い箱を探してください」
長は最後に、荒げる様な口調で告げた。
「くれぐれにも一般の人間には、気づかれないように。気づかれたらお祭り以上のハプニングが待ち構えていることを覚悟してください! 以上!!」
捜査員達は、長の言葉を聞いた後で、爆弾の捜索を開始する。
タイムリミットは刻々と近づく。捜査員達は、愛媛県民に被害が発生させない為に、松谷市の街を守る為に爆弾の捜索を開始した。
長と先生も捜査員達の後方から爆弾の捜索を開始するが、スマートフォンで画面通話連絡が入る。相手はシルバーマン。
通話ボタンを押し、画面を見つめ、マイクに声を発した。画面には和尚と住宅街の映像が流れており、その背景に数台の消防車と救急車が停まっていた。
「俺だ。どうしたんだ?」
『警部。やられました。木っ端微塵です』
長はシルバーマンの言葉にどういう意味だったのかを理解するのに10秒程使うが、背景の家屋の消防活動を行っている消防車ややじうまの様子で理解する。アパートらしい家屋が音をあげて、燃え盛り、必死に消火活動にあたっている消防士の姿が見えた。
「お前らは無事か?」
シルバーマンは答える。
『ええ、なんとか。坂本遼馬は、別の拠点に移った可能性が高いです。どうやらブラッド達が調べた住所には罠だったのではないかと……』
電話画面とスピーカー越しに聞こえる2人の刑事の声を聞いて、長は軽い安堵と共に、ペインに対する怒りが増した。
「まんまと俺達はまったわけか。クソッ! ペインめ!」
燃え盛るアパートを背景に和尚が別の所轄署の刑事に状況説明をしているのが伺え、その隣でアパートの大家が立って今の状況に困惑しているのが目に入る。
シルバーマンは、少し苦い顔をしながら地元マスコットキャラクターが絵柄になっている腕時計で時間を確認した。
時間は午後3時を過ぎ、10分を経過した。
『あと約4時間ですか。爆弾は?』
「今、捜索に着手している。赤い箱って言っていたが簡単に見つかる作りはしていないはずだ。あんな仕掛けまでするんだからな。一筋縄じゃいかない」
電話越しでシルバーマンは長が犯人に対しての怒りを言葉の発し方でよく感じている。
『ペインの奴はもしかしたら本当に、これをゲームだと考えてやっているのかも……』
シルバーマンの言葉に、どこかしら納得できる所が長にはあった。
「そうかもしれないな」
『僕らは、坂本の足取りを追ってみます』
「了解した。気をつけろよ」
長は電話を切り、ポケットにスマフォを戻す。
「くそ! ペインめ!」
拳を握り締め、長の右腕がゆっくりと力による赤みを発しようとしていた。
今、長達がいる場所は松谷市の中枢であり、市民達が一手に集まろうとしている街。それゆえ爆弾を見つけるのは容易ではなかった。
― 同日 同時刻 電子警察 ―
和尚とシルバーマンの現場が偽の拠点だった事、罠と知ったブラッドとアンジェリーナは、もう一度、電子警察のデータシステムの修復と襲撃してきた相手についての電子痕跡やID等を、くまなく探していくが、見つからず、お手上げ状態だった。
「偽のアドレスで攻撃を仕掛けてなおかつ、俺達のシステムまでぐちゃぐちゃにしてきた。本当に今までの中でもムカつく奴だぜ!」
ブラッドの苛立ちはアンジェリーナにも同感であり、伝わってくるところもあったが、彼女は常に平静を保っている。
「でも防げなかったのは私たちの責任です。とにかく奇襲をかけた者の情報について調べないといけませんね」
キーボードの独特なタイプ音が職場内に響く。
「ああ、和尚達が無事でよかった。そういやボウラーは?」
ブラッドの問いかけに淡々とアンジェリーナは、パソコンのキーボードを白く細めの指で叩きながら、返す。
「警部補なら、公安の佐久間さんと上層との話をしに向かったみたいですね」
「なるほどね。でもさ、犯人はどうして県警のパトカーを爆破できたんだろう?」
ブラッドの一言にアンジェリーナは、疑問を感じた。
「確かにそうですね。あのパトカーはクラウドではなかったですし、それにどうやって爆弾をペインが仕掛けたのかも気になりますしね」
「そうなんだよな。普通なら、和尚達が言っていた電子ロックを元にした暗号による解除連動爆破っていう考えだったけど、今回のパトカーはクラウドでなければ最近できたものじゃないし」
アンジェリーナは自分で入れた麦茶を口に注ぐ。麦の香りと味がやけに苦く感じた。
「だと考えると、他の方法で爆破した可能性があるという事ですね。ブラッド」
キーボードを叩きながら彼は頷き、捜索を介しているであろう長の事を心配している。
「ああ、そうなるな。長さん、知ってるのかな?」
「そこは本人でないとわかりませんからね。一応、調べておきましょう。何かしらのデータはあるかもしれない」
2人は、分担されたそれぞれの作業へと移っていく。
「今度は別の線で調べてみましょうか。1件目の爆弾と2件目の爆弾を」
「そうしますかね~。やれやれ」
ブラッドは気だるそうに、反応し、パソコンのとなりに置いてある、グレープミントのガムを1つつまみ、口に入れた。
隣の彼女はポニーテールの髪型をもう一度、結い直していく。
タイムリミット19:00まで ―― 残り 3:50 ――
第10話でございます。今回は状況確認とかに入りましたね。
記念すべき10話に入りました。ここまで読んでいただきありがとうございます。まだまだ続いていきますのでどうぞお付き合いくださいませ。
話は続きます!!




