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イベント物短編

感謝の気持ちに想いをのせて その後

作者: 麻沙綺

 バレンタインデーの日から、先輩と付き合うことになった。

 けど、先輩は、忙しい人で、付き合うっていっても、結局はすれ違う日々。

 先輩との甘い時間なんて、有もしない。


 社内恋愛禁止って訳じゃないけど、周囲には言っていない。


 って、言うか、言ったら最後のような気がするのだ。


 それもあって、オープンに付き合ってるなんて言えないでいた。

 



「幸樹ちゃん。どうかした?」

 睦月先輩が、心配そうに聞いてきた。

「・・・どうもしませんよ。なぜですか?」

 逆に聞き返す。

「さっきから、溜め息ばかりついてるからさぁ・・・」

 自分も気付かないうちに溜め息をついてたみたいだ。

「大丈夫です。何でもありませんから・・・」

「睦月。俺の幸樹にちょっかい出すな」

 って、先輩が私の背後から抱きついてきた。

 エッ・・・。

 席外してたんじゃ・・・。

「知哉。今のは聞き捨てならないぞ」

 睦月先輩が、先輩の脇腹を小突いてる。

 って、先輩。

 そろそろ離れてくれませんか?

「神谷先輩。幸樹ちゃんと付き合ってるんですか?」

 同僚の高崎くんが、先輩に問いただす。

「何。お前も幸樹を狙ってた?こいつは俺のだから、手を出すなよ」

 先輩が堂々と宣言する。

 もう、恥ずかしいです。

 私は、顔を下げた。

「先輩が、相手じゃ敵いませんよ」

 高崎くんが、肩を落とした。

「知哉。いつまで、幸樹ちゃんに引っ付いてるんだ。いい加減、離れろよ」

 睦月先輩が、ニコニコしながら引き離す。

あっ、離れちゃった。少し、残念に思いながら・・・。

「仕事しましょ、先輩」

 私も、先輩に声をかけた。

「そうだな」

 それだけ言って、先輩は自分の席に戻って、パソコンに向かっていた。



 このやり取りを他の部署のお局様方が見ていたなんて、このときは、思ってなかった。



「高林さん。ちょっと顔貸してもらえますか?」

 就業時間が過ぎて、部署の戸が開き、お局様方の顔がづらりといならぶ。

 なんか、不気味な雰囲気が出てる。

 しかも、先輩達の不在の中を狙ってきてる。

「早くしてくれないかなァ・・・」

 うわー。

 綺麗所が凄むと、怖いです。

 私は、席を立ち、お局様のところに行く。

「ここじゃあ、話せないから、ついてきて」

 私をお局様方が囲む。

 これじゃあ、逃げられないじゃんか・・・。



 使われていない会議室に入れられて。

「あんた。神谷さんと付き合ってるんだって」

 速攻にそれですか・・・。

 でも、あれって、付き合ってるって言えるんだろうか?

 あれから、一度もデートらしいこともしてない。

 会社帰りのデートだって、したことない。

 これで、付き合ってるって言えるのだろうか?

 その答えは、私が欲しいんですけど・・・。

「なんとか言いなさいよ!」

「うーん。付き合い出したって言うのか、付き合ってないって言えばいいのか。私にもわからないんですよね」

 私の言葉に煮え切らなかったのか、お局様方が。

「何それ。いったいどっちか、はっきりして!」

 もう、そんなに怖い顔しないで欲しい。

「だから、私にもわからないんです!」

 私は、開き直ってそう言って、会議室を出ようとした。

「待ちなさい!」

 私の肩を掴む手。

「何でしょう?」

「どうやって、神谷さんを落としたの?今まで、散々アタックしてきたのに皆、断られているのよ。どうして、大して可愛くもないあなたが、選ばれたのかしら?」

 それって、何気にひどい言い方だと思いますが・・・。

「さぁ。私には、わかりかねますね」

 私は、お局様方に頭を下げて、会議室を出た。



 ハァー。

 何なの。

「よっ、幸樹」

 って、ドアを出たところに先輩が居たのだ。

「どうして、ここに・・・」

 私が慌ててると。

「ん、何となくかな・・・」

 って、誤魔化された。

「そうですか・・・。では・・・」

 私は、そう言って自分の部署に戻り、自席に着くとやりかけの仕事をやり始めた。



 仕事をしてるときだけ、嫌なことを忘れることができるから・・・。



 フー。

 やっと切りがついたよ。

 あの呼び出しがなかったら、今頃家で寛いでいたのに・・・。

 私は、パソコンの電源を落として、帰り支度をする。

「あれ、幸樹ちゃん。今から帰るの?」

 廊下に出て、睦月先輩が声をかけてきた。

「はい。睦月先輩は?」

「オレは、これから飲み会だ。って、無理矢理引っ張り出されたんだがな」

 って、苦笑いしてる。

「そうなんですか。お酒もほどほどにしてくださいね。それじゃあ、お疲れさまでした」

 私は、そう言葉をかけて、家路についた。




 家で寛いでいると、携帯が鳴った。

 見ると、メールだった。


 “幸貴樹へ。

  14日の日、必ず、定時であがる事!


  それから、何かあったら、必ず俺に言え


  知哉。


  P.S. 愛してる“


 なんて、簡素なメール。

 用件しか、書かれていない。

 それが、先輩らしい。


 “知哉さんへ

  14日の件、わかりました。


  楽しみにしてますね。

  幸貴


  P.S. 愛してます“

 と返信した。


 やっぱり、そっけないメールになってしまった。

 ハァー。

 何かあったらって・・・。

 言えるわけないよ。

 ただでさえ忙しい人に私の事で、迷惑かけたくない。

 だから、黙っておく方がいい。


 私は、自分でそう結論付けていた。




 先輩は、ホワイトデーまで、フルに働いていた。

 私は、そんな先輩が心配になった。

 大丈夫なのかなぁ・・・。

 体、壊さなければいいのだけど・・・。



「幸樹。仕事、終われそうか?」

 ホワイトデー当日。

 先輩が私に声をかけてきた。

「なんとかなりそうです」

 って、答えてると。

「あっ、高林さん。これ、お願いできるかしら・・・」

 他の部署のお局様が、何かの資料を持ってきて言う。

 ゲッ・・・。

 せっかく終わると思ったのに・・・。

「わかりました」

 って、答えてる横で。

「そんなの自分でやれ!」

 って、先輩が横で怒鳴っていた。

 そして、私が渡された資料を手にして、突っ返してました。

「幸樹。その仕事受けなくていいからな」

 先輩が、私の頭を撫でる。

 エッ・・・。

「終わったなら、帰るぞ」

「エッ・・・。はい」

 私は、パソコンの電源を落として、慌ててしたくする。

「お疲れさまでした」

 ペコリとお辞儀して、先輩の後を追った。



 先輩は、エレベーターホールで待っててくれた。

「お待たせして、すみません」

 先輩に声をかける。

「幸樹・・・。普通に話せ・・・」

 あのー。

 それって・・・。

「仕事は終わったんだから、敬語それいらないだろ」

 って・・・。

「わかった」

 私の返事を聞いて、先輩が微笑した。

「じゃあ、行くか」

 先輩が、私の手をとって、エレベーターに乗り込む。

 他の人たちが乗り込んでくるが、先輩は、手を離さなかった。




 連れてこられたのは、ホテル内にあるレストラン。

 いかにも高級そうな場所。

 なんか、場違いかも・・・。

 先輩は、慣れているのか、淡々と注文していく。

 私はというと、外のイルミネーションが凄く綺麗で、目を奪われていた。


「幸樹?」

「うん?」

 私は、先輩の方に目を向けた。

「今まで、ほっといてごめんな」

 突然、謝られた。

 なんで、謝るんだろう?

 首を横に振って。

「忙しいの知ってるから、謝らないで・・・」

 答える。

「幸樹が、理解してくれるのは、嬉しいが、もう少し我が儘言ってもいいんだぞ」

 って・・・。

 我が儘って・・・。

 言わなきゃダメなのかなぁ・・・。

「俺って、頼りにならない?」

 首を横に振る。

「じゃあ・・・」

「御待たせしました」

 先輩の言葉に被さるように、ウェーターの声が重なる。

 料理が、テーブルに並ぶ。

 そこで、会話が途切れた。



 料理を堪能した後。

「幸樹。今日は、いいだろ?」

 先輩が、私の顔を覗き込んできた。

 私は、コクりと頷いた。

 すると、先輩が席を立つ。

 私は、その後ろをついていった。



 そこは、同じホテルの一室。

「知哉さん。ここってスイートでは?」

 いくらするんだろう?

 私は、部屋の入り口で佇んでいた。

「幸樹、中に入らないのか?」

「入れないよ」

「仕方ないなぁ・・・」

 先輩に抱き上げられた。

 エッ・・・。

 そのまま、ソファーに座らされた。

「幸樹。何か飲む?」

「私は、いらないかな」

「そっか・・・」

 先輩は、そう言いながら、自分はワインとグラスを持って戻ってきた。

 ワインを飽けて、グラスに注いでる。

 私は、さっきから落ち着かないでいた。

「幸樹。俺の事、好きか?」

 突然聞かれて。

「好きです」

 戸惑うことなく答えた。

「じゃあ、結婚前提で付き合える?」

 先輩の意味が、わかりかねた。

 それは、私を試しているの?

 それとも、本当に私を・・・。

 なかなか返事をしない私に。

「俺は、幸樹を自分のものにしたい。だから・・・。その・・・」

 そっか・・・。

 先輩は、真面目だから、私を傷つけないように言葉を選んでるんだ。

「私なんかで、いいんですか?」

「“なんか“じゃないだろ。幸樹がいいんだ」

 先輩が、真っ直ぐ私の目を見る。

「・・・・・・よろしく、お願いします」

 私が、そう言うと、先輩が嬉しそうに私を抱き締めた。

「ありがとう」

 先輩の胸に顔を埋める。

 心臓が、バクバクしてる。どっちのかは、わからないけど・・・。

「幸樹。ちょっと待ってて・・・」

 先輩は、そう言って席を立って別の部屋に行ってしまった。


 暫くして、真っ赤なバラの花束と小さな箱を持ってきた。

 中を見ると、片方だけの男物のピアス。

 エッ・・・。

 どういうこと?

「それの片方は、俺が着けてるから、もう一つは幸樹が着けて欲しい・・・」

 それって・・・。

「幸樹と一緒のを着けていたいって思ったのと、他の奴を寄せ付けないためのお守りみたいなものかな・・・」

 照れ臭そうに言う先輩。

 二人で、一つのものを共有するってことだよね。

「知哉さん。ありがとう」

 私は、先輩に抱きつく。

「幸樹?」

 不思議そうな顔の先輩。

「知哉。大好き」

 そう言って、先輩に唇に自分の唇を重ねた。

「煽るなって・・・」

「あれ、そういうつもりじゃなかったの?」

「あー、もう。幸樹には敵わないな」

 先輩は、そう言って、私を抱き上げベッドへ・・・。



 その日の夜は、今までの事を埋めつくすかのように甘い一時を過ごしたのでした。

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