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10/12

10:10分毎に「愛してる」と

彼が悲しげに私の左手を見下ろしている事で、自分が何か、彼をとてもがっかりさせる事をしてしまったのだと、私にもわかった。

でも、しばらく経てば、この気まずい気持ちもわたしは忘れて、何故彼がそんな表情かおをしているのか、わからなくて。

また、その理由に気づいて、落ち込むのだろう。

わたしの記憶は10分しかもたない。

その事実を、わたし自身が認識する事もできないまま、記憶はぼろぼろと零れ落ちてゆく。

その零れ落ちた時間のどこかで、わたしは、彼が見つめる左手にあった、彼と私の絆を確かめる大切なものを。

失くしてしまったのだろうと。

「謙ちゃん」

うつむいて彼の目を見返せないまま、私は言った。

「別れようよ」

彼がどんな表情かおをしたのか、確かめる勇気がないまま、言葉を続ける。

「こんな私と一緒にいたって、謙ちゃんが辛い思いをするだけだよ」

落ちる沈黙。胸が詰まって、記憶以外のものが目からこぼれそうになる。

このまま、彼が黙って部屋を出て行っても構わないと、思いかけた頃。

「もう、忘れた?」

彼が問いかけてきたので、思わず顔を上げる。

「……え?」

「今言った事を、もう忘れたかな、って訊いたんだ」

眼鏡の奥の目は、穏やかにわたしの姿を映していた。

「別れないよ」

これだけは覚えている、出会った頃と変わらない、優しい笑みが向けられる。

「確かに、指輪を失くしてしまった事は悲しいけれど、そんな事だけで梨恵を見捨てたりしない」

「でも」

膝の上で握った手がぶるぶる震えて、しぼり出した声も、情けないくらいに震えていた。

「わたしは忘れちゃう。謙ちゃんがくれたもの。言ってくれたこと。全部」

その手を、ひとまわり大きい彼の手が、そっと包み込む。

「構わない」

そして、言葉が、心を。

「梨恵が忘れても、僕は何度でも言ってあげるよ。梨恵が好きだって。愛してるって」

「10分経ったら、忘れちゃうよ」

「それでもいいんだ」

彼がわたしをぎゅっと抱き締めてくれる。文科系だから、男にしてはちょっと細いかなと、ずっと思っていた腕は、予想よりはるかに力強かった。

「10分毎でも、何度でも言ってあげるよ」

そうして耳元で囁かれる、大事な言葉。

「梨恵、愛してる」

こらえていた涙はあふれて、頬を伝った。

「謙ちゃん」

彼が何度でも言ってくれるなら、私も何度も繰り返そう。

「好き。好きです。大好きです」

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