秋色
隊舎の門の脇に生えている木の枝は、既に秋色を纏い始めていた。
四年前に来たとき同様、殆ど荷物のない状態でセルフィナは旅装を整えていた。
伯母夫婦とは昨夜のうちに別れを告げ、所属の隊の皆からの送別も受けた。
退団の理由は、家督を継がねばならなくなったとだけ話した。アルフレッドとは周知の仲だったのと同じくして、セルフィナが国では貴族の娘だということは気心知れた連中には広まっていたので、皆、来るべき時が来てしまったのだとともに惜しんでくれた。
本当に、良い同僚に恵まれたとセルフィナは感謝していた。
彼らがいかに情に厚いか、セルフィナは去り際になって改めて知った。
最後の見送りにやって来たのは、アルフレッドだけだった。不本意な別れをせざるを得ない二人の邪魔はしまいという気遣いが、セルフィナの胸を熱くさせていた。
「……これで、本当にお別れだな」
アルフレッドの青い瞳を見上げ、静かな口調でセルフィナは言った。
城外に出てしまえば、もう、二度と彼に会うことは叶わない。
しっかりと目蓋の裏に焼き付けようと、セルフィナはアルフレッドの顔を隅々まで観察した。
「ああ。元気でな」
アルフレッドの方もまた、セルフィナの顔をしっかりと見詰める。
「なあ、アルフ、約束してくれ。ヴァルカスまで名前が聞こえて来るくらい、出世するって。アルフが元気で頑張ってるって、俺にも解るように」
必死に堪えるものの、セルフィナの声は震えていた。
「約束するよ」
アルフレッドは力強く頷いた。
「もっと、なにか言ってくれよ。アルフの声、思い出せなくなるだろ」
寂しそうにセルフィナが哀願しても、アルフレッドは言葉少なに「いいや、忘れろ」と頭を振った。
「冷たいな」
「一国の王女の心を縛っちゃいけないからな」
「もう遅いよ。四年前のあの日から、ずっと縛られてる」
初めて会ったあの日から、互いに惹かれていた。
四年間のさまざまな思い出が、二人の脳裏を駆け抜けていた。
どちらからともなく、堅く最後の抱擁をするが、セルフィナは顔をあげなかった。至近距離でアルフレッドの顔を見てしまうと、立ち去る勇気が潰えてしまいそうだったからだ。
身を離し、更にお互いに一歩ずつ引き下がる。
「さよなら、アルフ」
アルフレッドへ別れの言葉を告げた。
俯いたまま、彼が「ああ」と返す声に背中を向け、セルフィナは芦毛の愛馬の背にひらりと上った。
馬の腹を蹴る。
歩み始めたところでもう一度蹴ると、馬は駈け出した。
その背を膝でしっかりと捉え、振り返ることなく城門をくぐり抜けた。
蹄の音に、それまでずっと堪えていた嗚咽を紛れ込ませて……。




