第二章 盗賊オルフェ〈5ー2〉
まもなく、セラムの寄留する部屋に、オルフェとフローディア、セルフィナとアルフレッドを伴ったマリッタが次々と入室した。
「どうだった?」
セルフィナが収穫の内容を急かしたが、「お待ちなさい」とフローディアにぴしゃりと窘められた。
みなが聞く体勢になったのを見届けると、オルフェは一覧を取り出した。
「何かの一覧だ。セラムと、アルフレッドの名前が書かれていた。セラムは大臣と面識はないだろ?」
紙を広げて、その正体を明かすと、男二人はまじまじと一覧を覗き込んで自らの名前が書かれていることを確かめた。
「本当だ、確かに、僕の名前です。後ろの数字は、僕の誕生日ですよ」
セラムはそう言って一覧の自分の名前の部分を指さした。
彼の言葉に、一度は姿勢を戻したアルフレッドが改めて一覧を見た。そうして、「本当だ」と一覧に禍々しい物を見るような眼差しを向けた。
と、そこで、横から遠慮がちに覗いていたマリッタが小さく「あっ」と声を挙げた。
「横線の引いてあるこの二人は、あの紙切れに書かれていた名前です」
ちょうどセラムの上に書かれていた二人の名前を彼女は指し示した。記されていた誕生日の日付はセラムと同日と一日後だ。
一同がもう一度、一覧を観察してみると、上部の方が日付が遅く、線引きの他に名前の前に印が付けられている行があった。印はセラムの名前の前にも付けられている。半分より下の方には、まだ線引きも印もされていない。
フローディアは先だってマリッタが作成した一覧を取り出した。二枚の一覧を交互に眺める。
「まさかとは思いましたが、やはり……」
彼女は言葉尻を濁した。
「やっぱりなんだよ」
セルフィナは伯母の手から一覧をひらりと奪うと、同じように内容を見比べた。言葉の続きを知った彼女は「殺された人に線が引いてあるな」と濁された部分をはっきりと言葉にした。つまりは、この一覧は、凶行の結果を管理しているものということだ。
それを聞いたセラムの青白い顔から一層、血の気が引いていった。さながら血の巡りの悪い娘のように立っているのもやっとの様子で、二、三歩、足元をふらつかせていた。
「俺も対象になってるってことか」
片や、おおかた予想が付いていたのか、アルフレッドはあまり動じた様子は見せなかった。セルフィナの手から一覧を攫い、ぎっしりと書き込まれた名前を見ているうちに、彼はもう一つのことに気が付いた。
「みんな誕生日が夏の終わりから収穫祭あたりにかけてだな」
セルフィナは、フローディアの様子を視界の端で観察してみた。だが、特に反応を示してはいなかった。
大臣は王子が誕生した事実を知っているということは、生まれた時期も知っていてなんら不思議ではない。
男子のみとはいえ、ラリンス中の二十一歳なら相当な人数だ。それらを全て狙っていては、時間も掛かるし、大臣の差し金であると露見する危険も高くなる。ひいては国王さえも暗殺しようという男が、そのように非効率的な行動をするとは考え難かった。
この一覧は、大臣にしてみればかなり標的に近いものなのだろう。
「これを大臣に突き付けてやれば……」
意気揚々とセルフィナが言ったが、「いいえ、これは大臣の部屋から見つからなければ意味をなしません」とフローディアがそれを制した。
この一覧と実際に被害にあった人物との整合性を考えれば、大臣を追求する種になるのはフローディアも分かっていた。しかし、誰にも知られず、勝手に持ち出したものでは効果が薄い。大臣の部屋にあったものだと立証することは、まずできない。しらを切られてしまえば、ただの出所のわからない紙でしかないのだ。
「ひと芝居打ってみようか」
そうオルフェが提案した。
その横でマリッタが少し考えるように人差し指を口元に寄せていた。
城内のことはこの二人に任せた方が良さそうだと判断したセルフィナは、大人しく彼女たちの考えがまとまるのを待った。
「では、どうでしょう。まだ城内に不慣れなオルフェは、私が頼んだ用事の途中で迷ってしまい、大臣の部屋に入ってしまう。そこで、これを見つけたことにするのです」
「そうだね、あたしなら通用するね」
一覧を回収し、再び袖の中に戻してオルフェは頷いた。
確かに、彼女はこの中で一番不審に思われずに済む位置にいる。
「私は出来る限り大騒ぎするようにしますから、オルフェは適当に合わせてくださいね。私たち以外の誰かに、その一覧が大臣の部屋にあったことを知らしめましょう」
話がまとまったとみて、フローディアは「では、二人に任せます。しっかりと、頼みましたよ」とマリッタとオルフェを順に見て、二人の手を取った。
「はい、陛下。では、すぐに実行します」
マリッタは頷き、そういってオルフェを連れて部屋を出た。
「俺とアルフはここでセラムと一緒に見物といくかな」
「そうだな」
全員で、二人の出て行った扉を祈るような気持ちで見遣ったのだった。




