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プレシア  作者: 南条祝子
〔大臣の陰謀編〕第二章 盗賊オルフェ
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第二章 盗賊オルフェ〈5ー1〉

 マリッタから借り受けた衣装に着替えたオルフェは、彼女の後に付いて城内を歩いた。ラリンスに着くまでに、あらかじめ城内の間取りを図解で知らされてはいたが、それを実際に見るのが目的だった。


 途中、挨拶をせねばならない相手に何度か出くわしたが、申し合わせ通り、ヴァルカスの第一王女から王妃への依頼で短期間行儀見習いとしてやってきた侍女として紹介された。


 女官長に挨拶に行った折りには、

「王妃陛下は本当に品の良いお方です。多少の粗相などお咎めになることはありませんが、陛下の品位を貶めることのないよう」

とやんわりとした口調で厳しい言葉を掛けられた。


 オルフェの印象としては、おしなべて、表立って王妃フローディアを悪く言う者は皆無に近かった。


「元一家臣の王妃陛下の方が、正真正銘の王女より品がいいなんて、滑稽な話だね」


 控えの間に戻ったオルフェは、履き慣れない靴でくたびれた足を片方ずつぶらぶらさせた。


 すると、すぐに「滅多なことを口にしてはなりません」と、マリッタのお小言が飛んだ。ついでにスカートの裾をはためかせている足まで注意をされ、オルフェはその場で縮こまった。フローディアとよく似ているが故に、まるで本人に怒られているような錯覚すら覚えていた。


 恐らくは、王妃が彼女と入れ替わって侍女たちの中に混じったとしても、気づかないだろう。


 そんな感想を抱きつつ、「申し訳、ありません」とオルフェは詫びた。言い馴染みのない言葉に感情を込めるのは、彼女には難しい芸当だったが、男勝りなヴァルカス第一王女の侍女、という設定もそういったことを踏まえているのだと得心した。


 一度、控えの間に戻った後で、オルフェはマリッタに連れられて、これから暫く寝泊まりをする部屋へと連れて行かれた。


 たいして荷物のないオルフェの為に、当面必要なものを確認していたマリッタだったが、大事なことを思い出したとばかりに顔を上げた。


「明日、大臣は議会で昼から夕方まで部屋を空けますよ」


 着いた翌日から既に絶好の機会だとオルフェは思った。


 だが、「城下で若者ばかりを狙った殺傷事件が起きているという投書をしておいたのです。王妃陛下にお渡しした一覧の件は国王陛下のお耳にも入れてありますから、まあ、そういうことです」とマリッタはにこやかに微笑んだ。


 如才なく仕事をこなしていく彼女にオルフェは感心した。


 王妃の影武者であるマリッタが国王の側近くに行くことなど、他の侍女たちに比べれば造作もないことだ。彼女自身、そういった己の位置と役割をしっかりと把握し、最大限に活用して立ち回っているのだ。


「随分と王妃に尽くすんだね」


 交換条件で仮初めの自由を得ている身のオルフェにしてみれば、自ら進んで役に立とうとする彼女が不思議でならなかった。


「実は、私の父は強硬派の人間だったのです」


 マリッタは微笑みを穏やかにすると、そう言った。


 オルフェは耳を疑った。強硬派がどんな連中であったか聞き及んでいただけに、その驚きは隠しきることが出来なかった。


「内乱終結後、父は罪人として捕らえられ、これまでと悟った母は私と兄弟たちを道連れに自害を試みたのです。が、どういう訳か私は一人、生きながらえてしまいました」


 それならば、王妃や国王を仇としてもおかしくない、そうオルフェが心の中で感想を述べていると、それを見透かしたようにマリッタは続けた。


「孤児となった私は、回復した後、城下の孤児院で暮らすことになりました。そこで、私は慰問で訪れた王妃陛下に出会ったのです。それから、父が間違っていたと知るのに時間は掛かりませんでした。あの方は、捕らえられた強硬派の家族の末路にも心を痛め、私などはこうして侍女としてお側に置いて下さっているのです」


 彼女の口振りから、その忠心が嘘偽りでないことがはっきりと分かった。


 そして、「王妃陛下のご心労も案じるところですが、再び国が乱れ、私のように一家もろともとなる子供が出るのを食い止めるお手伝いができるのです。娘として、父たちの蒔いた遺恨を晴らしたいのですよ」と再びにこやかな笑顔を見せた。



 翌日、午前中からマリッタについて侍女見習いをこなしていたオルフェは、昼を過ぎて、侍女頭の元へ連れて行かれた。


「王妃陛下から仰せつかった用事があるのですが、重ねてご用があるようですので、先の用事をオルフェに任せてみようと思うのですが」


 オルフェの教育係に任じられているマリッタが目を離す旨を、侍女頭に報告をした。


 侍女頭はゆっくりと首を縦に振り、「わかりました。では、まだ不慣れでしょうが、城内で迷わぬよう気を付けるように」と承諾した。


 迷わぬように、という部分にひときわ、力を込めた辺り、この侍女頭も王妃に協力的な人物なのだとオルフェは判断した。


「わかりました。気を付けます」


 そう返事をすると、侍女頭は全てを知っている者の笑みでオルフェを見送った。



 投書の内容を元に緊急に予定された会議は、前日からの予定通り、昼から始まっていた。かれこれ四半時も経ち、大臣が部屋に戻るような気配は微塵も感じられなかった。


 部屋の少し手前から、用心深く辺りを見回していたオルフェは、用事で言い遣ったと称する偽の手荷物の中から、マリッタが何らかの方法で入手した合い鍵を取り出して、大臣の部屋へと滑り込んだ。


 大臣は城下に住居を持っているが、そこへは多くて週に一度、少ないときでもひと月に一度帰宅し、それ以外は殆ど、事務室を兼ねた部屋で寝食しているという話だった。


 部屋の奥の方から順に探りを入れていく。


 本棚、暖炉、装飾机など、つぶさに調べたが、これと言ったものは出なかった。


 最後に、事務机を探り始めてみると、一カ所だけ鍵の掛かった引き出しがあった。見られては困るようなものをしまってある場所として定番すぎるが、個人的に小細工のできる場所でもない。


 結われた髪に挿している細身の飾り櫛を引き抜くと、オルフェはそれを鍵穴に差し込んだ。櫛の先端から伝わる微かな感覚を頼りに、慎重に鍵穴の奥を探った。


 やがて、かちりという音に解錠の手応えを得ると、取っ手を引いた。


 中には書類が整然と収められていた。紐で綴じられたその紙束を、上から順にめくっていく。そして、一番最後に、一枚だけ綴じられていない紙があった。まるで、上の書類で目隠しするように収められている。オルフェはそれを書類の下から引きずり出した。


 他の書類に比べ、明らかに様子が違っているのが彼女にもすぐに判別できた。何かの一覧のようだ。一行ずつ、文字と数字が並んでいる。


 習ったばかりの法則で、たどたどしく文字を追っていくと、どうやら、人の名前が記されているらしかった。上から順に見ていくと、時々、その名前の文字に横線が引かれているものがあった。


 どういう意図か首を傾げながら、更に紙の下の方へ視線を移していくと、見覚えのある文字列が目に飛び込んできた。


 まさかと思い、もう一度文字の始まりから読み直してみる。それは間違いなく、セラム・キロバードと書かれていた。


 二の腕が冷たく痺れるほどの薄気味悪さに、オルフェは恐怖した。


 それでも最後まで見ていくと、ずっと下の方には、アルフレッドの名前を見つけることができた。


 大臣と彼らを繋ぐ証拠だ。瞬時にそう判断して、オルフェはそれを袖の中に忍ばせた。


 他にめぼしい物がないか、引き出しを漁ってみたが、特に何も出なかった。



 そうなれば、長居は無用。オルフェは注意深く大臣の部屋を出て、マリッタの元へ急ぎ取って返した。


 控えの間には、生憎ほかの侍女たちの姿があったが、マリッタの姿を見付けると、目配せで収穫を知らせ、そそくさと部屋を出た。


「私は隊舎へ行ってまいります。予定通り、陛下と一緒にセラムさんの客間へ」


 廊下を足早に移動しながら、マリッタは小声でそう告げて騎士団の隊舎方面へと身を翻した。オルフェは声なく了承を示し、彼女と行く道を分かれた。

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