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第三十一話 リュクルゴスの決意

「あ、の……」

 ぼくが、新しい王。

 そう言わなければならないと思うのに、言葉が出ない。

 リュクルゴス隊長が顔をこちらに向けて、ぼくの言葉を待ってくれている。

「あの……ぼ、ぼ、ぼくは……」

 ここで名乗り出たら、ぼくの人生はどうなってしまうんだろう。それこそもう二度と元の世界に帰ることができないかもしれない。

 部屋にいる全員がぼくのほうを見ている。額から汗が噴き出してきた。足がぶるぶると震えだした。

 皆は焦るぼくの様子を見て不思議に思ったことだろう。いや、あるいはルイーズが死ぬことに対して動揺しているだけだと思ったか。

 言わなきゃ。ぼくはアイオロスの声を聞くことができる者です、ぼくが選ばれた王です、って。

「ぼくは……ぼくは……」

 永遠とも思えるほどの長い沈黙ののち、ぼくはついに――。


「……王様の救出を諦めたくないです」

 ――名乗り出なかった。ぼくが発した言葉は、ただそれだけ。

 ぼくの言葉を受けて、兵士たちは口々に「そうだ、そうだ!」と叫びだした。

 これでいいんだ。この世界の住人でないぼくが、王だなんて。そうだ、きっと何かの間違いだ。デュークが「アイオロス」かもしれない、ってことだって、ぼくの勘違いかもしれないじゃないか。

 ルイーズが自分のペットに、神様にあやかってアイオロスという名前をつけた。ただそれだけのことだ。

 魔物やモンスターがいるような世界だ。ちょっとくらい意思疎通ができる鳥がいたって、不思議じゃない。

 ぼくは肩の上にとまったデュークを見た。彼はずっと置物のように押し黙ったままで、その目からは表情を読み取ることはできない。

 きっといつか本当の王が現れることだろう。ちゃんとこの世界の住人で、大人の。

 そのころには、ぼくは元の世界に帰っているはずだ。まだ解決の糸口は見えないけれど、きっと母さんと仲直りして、元通りに暮らすんだ。


 ……本当にぼくはそう信じているのか? いいや、おそらく違う。

 しかしそう思わなければ、ぼくは心を保てそうになかった。


 ぼくの発言によって、皆はすっかりルイーズを助けるムードになっていた。

 今すぐにでも部屋を飛び出しそうなくらいだ。

「ああ。もちろん陛下を見捨てたりはしない」

 リュクルゴス隊長も、本当は初めから心を決めていたのかもしれない。納得するように、大きくうなずいた。

 しかし、それは予想外の方向の決断だったようだ。兵士たちの興奮が最高潮に達していたとき、彼はとんでもないことを言い出した。

「お前たちはここに残ってくれ。救出には、俺一人で行く」

 ぼくは耳を疑った。一人でだって? そんなばかな!

 またしても部屋中が混乱に包まれた。ゾアが皆を制するが、今度ばかりは収まりそうにない。

 隊長は声を張り上げた。

「落ち着いてくれ! 考えてもみてほしい。救出中止の命令を出したのは、執政官閣下だ。国王代理という形だが、陛下が王宮にいらっしゃらない今は、この国の最高権力者と言っても過言ではない。議会も満場一致で救出中止の結論を出した。そんな彼らの命令に、討伐隊全員で逆らうのか? ……それは、もはや謀反だ」

 謀反、という言葉に兵士たちは冷や水を浴びせられたように静まり返った。

「ですが、隊長は? 討伐隊長が命令に逆らうのも同じでは?」

 兵士の中の一人が聞いた。

「俺は討伐隊長をやめる」

 リュクルゴス隊長は皆がざわつき始める前に、急いで弁明した。

「もちろん陛下が戻られるまで、だ」

 戻らなかったら? なんて、誰も聞くことができない。彼の頭にその選択肢はないだろう。

 それから彼は深呼吸して、言い聞かせるように、一言一言を強調して言った。


「俺は、アイオリアの一市民として、個人の意思で、個人の責任で、個人の力で、陛下を助けに行く。討伐隊も、国も、一切関係ない!」


 もう誰も彼を止めることはできなかった。

 その言葉を最後に、集会は終わった。

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