第二十四話 聖地 part 2
案内された部屋に入ると、まず大きなベランダが目に入った。円筒形をした部屋の半分を囲っている。
曲線を描いた壁には、たくさんの本棚が並べられていた。
アイオリアで最も権威があるというヒエラポリスの司祭は、あご全体にひげを生やしたおじいさんだった。年齢のわりに背筋が伸びていて、金糸の刺繍の入った立派なローブを着ている。
彼は袖を合わせてお辞儀をすると、威厳のある低い声で言った。
「ようこそみなさん。話はすでに伺っています」
それから、リュクルゴス隊長が中心となって司祭に魔界への行き方を尋ねた。
結論から言えば、司祭にも魔界への行き方はわからないそうだが、大学の豊富な情報を使って直ちに調べているとのことだ。
ぼくはバイバルスが現れた瞬間に立ち会っていたので、そのときの状況について尋ねられた。
大学の学長でもある司祭は、在学中のバイバルスを知っている。隊長が駆けつける前にバイバルスとルイーズが話していた内容を伝えると、司祭は複雑な表情で唸った。
「バイバルスは非常に優秀な学生でした。いつも陛下と首位を争っていましたよ。わたし自身、彼には期待していたのです。テラスティアに大変な憧れを持っていたようですから、今考えれば、強大な力を手に入れたがっていたのかもしれません。誰かに遣われているような発言からすると、魔界の何者かと手を結んだのでしょう。魂を集める、とは一体なにをしようとしているのか……」
そう言って寸刻考え込んだあと、彼は深々と頭を下げた。
「ともあれバイバルスの悪行を見抜けなかったのはわたしの不明。こんなことになってしまって申し訳ない」
みんなは驚いて、司祭に顔を上げさせようとした。ちょうどそのとき、ベランダの外から悲鳴が聞こえてきた。先ほどぼくたちを案内した神官が、ひどく慌てた様子で部屋に駆け込む。
「何事だ?」
「魔物の襲撃です。街に魔物が二匹現れました」
一同は色めきたった。司祭はリュクルゴス隊長を見て言った。
「あなたさまは討伐隊長でしたね。こんなときにたいへん面目ないが、魔物を退治していただけないでしょうか」
「ええ、もちろんです。しかし……」
リュクルゴス隊長は背後に控えた数人の兵士たちを見渡した。司祭をひとり残してよいものか、悩んでいるようだ。
「わたしなら大丈夫です。神官もおりますし。どうぞみなさんで向かってください」
その言葉に隊長はしばし考え、結局全員を引き連れ外へと向かった。ぼくも一緒に戦いたかったので、それに続く。
外に出たぼくは、度肝を抜かれた。丘の上から見下ろすと、確かに魔物らしき生物が猛威を奮っている。しかもその外見はあまりにも奇妙で、ぞっとするものだった。
顔は人間の女のようだが体は異様に細長く、ウロコがついていて、まるで蛇だ。しかもその胴体からは六本の人間の腕が生えていて、それぞれが曲がった剣を持っていた。体長は十メートルほど。
そんなやつが街の真ん中と入り口付近に、二匹もいる。
「ほらほら、しっかりしろ。稽古の成果見せてくれよ!」
ぼくが圧倒されていると、リュクルゴス隊長が肩を叩いた。
そ、そうだ。今度こそイイとこ見せなくちゃ。震える手で貰った剣を握りしめ、ぼくはどうにかこうにか丘を駆け下りる皆について行った。