第二十三話 聖地 part 1
学問と宗教の中心地ヒエラポリス。街の中心には、かつてルイーズやバイバルスが在籍していたという大学がある。大学といっても、向こうの世界でいうそれとは幾分異なる。この国でいう大学とは、政治家や士官など、将来国の仕事に携わる人々が、学問・政治・宗教・武術などを総合的に学ぶ場所である。ルイーズ以前の王は、この大学を出ていることを登用の絶対条件としたという。
学長を勤めるのは、アイオリアで最高位の司祭。
以上、ゾアの受け売り。彼はあの後もたびたびぼくに声をかけてくれて、忙しい隊長に代わっていろんなことを話してくれた。リュクルゴス隊長の部下だけあって、彼も感じのいい人だ。
ぼくたちは首都アエロポリスを出発してから、約一週間かけて、このヒエラポリスへとやって来た。目的はその学長兼司祭に、魔界への行き方を聞くためらしい。
こんなに仰々しく出発してきたのに、まだ魔界への行き方もわかってなかったなんて、なんだか拍子抜けしてしまった。リュクルゴス隊長によれば、魔界に行くのは、それくらい大変なことらしい。
全員で街に入ることはできないので、リュクルゴス隊長とゾア、数人の兵が司祭に会いに行くこととなった。
ぼくはというと、なんと司祭がぼくに会いたがっているそうで、一緒に街へ入ることとなった。
街の中に入ると、大小さまざまな神殿ばかりが立ち並んでいた。ここは、大学の街でもあり、宗教の街でもある。つまり歩いているのは将来を約束された学生たちと、神殿に仕える人たちだ。路地にはよくわからない演説をしている人や、本片手に歩く人や、大げさなローブを羽織った人――あれが神官らしい――なんかがいる。
陽気な市場の声が響く都と比べると、なんとなく厳めしい雰囲気が漂っている気がした。
リュクルゴス隊長に連れられ、丘の上に建つひときわ大きな神殿に入る。控えていたローブの神官に用件を伝えると、いそいそと奥の部屋に入っていった。
円筒形をした控えの部屋の壁には、神さまと思われる絵がたくさん描かれていた。神官を待つ間、なんとなくその絵を眺めていると、ふと、その中のひとつに目が止まった。
それは、一羽の鳥の絵だった。幾重にも分かれた尾は地に届くほど長く、広げた羽はドラゴンの翼のように、この上もなく優美だ。頭の上にピンと立った羽が、何かを思い起こさせた。
そのとき、ゾアが話しかけてきた。
「アイオロスに興味があるのかい?」
「え……アイオロス?」
「アイオロスはこの国の守護神さ。鳥の姿をした風の神なんだ」
ぼくは自分の肩の上に乗った、デュークを見た。ルイーズはデュークのことをアイオロスと呼んでいるようだった――少なくともぼくにはそう見えた。
しかしゾアは、デュークに全く気を留めていない。デュークがアイオロスだということを、まるで知らないようだ。
「その声を聞くことができるのは王だけ。しかし王でさえその真の姿を知ることはできない。アイオロスは普段、仮の姿をしているからね」
ぼくはどきりとした。またも「王」という言葉。
ぼくはデューク――アイオロスの言葉を聞くことができる。だから「新しい王」って……?
「どうぞ。奥で大司祭様がお待ちです」
しばらくして神官が戻ってきた。