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第二十話 道中 part 2


 ぼくがリュクルゴス隊長、ヴァシリス隊長率いるルイーズ救出隊に加わってから、三日が経った。

 今日は草原の真ん中で野営だ。ぼくは料理の人に頼まれて、近くの茂みの枝を拾っていた。

 ここでの生活は、想像以上にハードだった。ぼくが寝泊まりするテントは兵士たち二十人ほどのすし詰め状態で、朝は鍋を叩く音で起こされる。それから配膳をして、水汲みをして、テントを片付けて出発。膝が悲鳴を上げるほど歩いたあと、再びテントを張り、食事の支度をする。

 主な仕事は兵士が持ち回りでやっていたから、ぼくのすることは言われたことを手伝うくらい。それでも一日の終わりには、たいていへとへとになっていた。

 目的地まで一週間というから、まだまだ先は長い。とはいえ、このキャンプ生活に内心わくわくしてもいた。

「ピピッ」

「あ、デューク!」

 枝を集めかごに詰め終わったとき、デュークが何かに気がついたように鳴き、茂みの中に飛んでいってしまった。

 ――あんまりのろのろしていると怒られるんだけどな。

 彼を放っておくわけにもいかず、ぼくはかごを持ったままデュークを追いかけることにした。

 茂みを掻き分けると、思ったより早くデュークを見つけることができた。

「なんだよデューク、この忙しいのに……」

 しかし彼に文句を言う前に、ぼくはいやなものを見てしまった。茂みの五十メートルほど先に、山のようにこんもりと大きな「何か」がいたのだ。いや実際にはもうすこし離れているかもしれないが、とにかくとてつもなく大きいので、距離感がよくわからない。

 その大きな山は、猛烈な勢いでこちらに迫ってくる。

 ぼくはわけがわからないまま急いでキャンプに戻り、そこらにいる兵士たちに知らせた。すぐさまみんなは戦いの準備を始める。

 ほどなくして、そいつはぼくたちの前に姿を現した。


 ひと目でわかった。――牛だ。

 といっても、普通のやつじゃない。普通の牛の二、三倍の大きさがあり、それにふさわしい巨大な角まで生えている。大きなひづめが地面を蹴るたび、地響きがした。闘牛の牛だって、こいつに比べたら可愛いもんだ。

 近くにいた兵士が叫んだ。

「タウロスだ!」

「タウロスって!?」

「牛のモンスターだよ!」

 ぼくは森で出会った銀髪の少年、シーアの言葉を思い出していた。モンスターとは、自然の動植物が月の光を浴びて変化(へんげ)したもの――魔物と違って、自分の縄張りが侵されたときだけ襲ってくる。たしかそんなふうに言っていたっけ。

 この一帯は、きっとこいつの縄張りだったんだ。牛のモンスターは、頭から湯気が出そうなほど怒り狂っていた。

 しかしそこは歴戦の戦士たち。こんなモンスターごとき、とでも言うように全くひるみもせず、猛然と立ち向かっていった。

 まるで打ち合わせたように綺麗に広がり、あっという間に牛を取り囲んでいく。彼らは牛にしがみつき、頑丈そうな筋肉を次々に突き刺していった。牛は激しく抵抗し、まわりの人間を踏み潰そうとする。しかしみな機敏な動きでそれをかわす。

 あんな大きいものと互角に戦うなんて、本当に強い人たちなんだな。

 しばらく呆然と見とれていたぼくだったが、だんだんと牛が押されてキャンプから離れていくのを見て、ほっと息をついた。見れば、戦っていた兵士たちも何人かキャンプに戻り始めている。ぼくも仕事に戻ることにした。

 そのとき、近くに作りかけのシチューの鍋が置いてあることに気がついた。

 さっき拾った枝もあるし、火にかけておいてあげようかな。牛を倒して疲れたあと、すぐにご飯ができたらきっとみんな喜ぶだろう。ぼくはふとそんなことを思いついた。

 この世界には、マッチやライターはないらしい。火をつけるのは、いわゆる「火打ち石」ってやつだ。

 石を金属に打ち付け火花を起こし、それを上手く繊維質の火口(ほぐち)に点火する。後はフーフー。

 何度か火のつけ方を教えてもらっていたので、ぼくはすっかり火打ち石のプロになっていた。

 ――帰ったらみんなに見せて自慢しよう。記念にひとつ持って帰ってもいいかな……。

 くだらないことを考えながら、ぼくは火をつけた。

「わっ、バカ!」

 誰かがひどく慌てた声で、そう叫んだ気がした。

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