第十九話 道中 part 1
「どうだ、うまいかあ?」
ペットに餌でもやっているような言い方だ。実際に今のぼくは、まるで動物のようにご飯に貪りついていた。
勝手に馬車に乗っていたのを見つかってしまったぼくは、挙句、軍の剣を盗もうとしたと勘違いされてしまった。
そこで助け船を出してくれたのがリュクルゴス隊長だ。しかも、お腹を空かせたぼくを見かねて、食事まで出してくれた。
食事といっても一切れのパンと豆が浮いたスープだけだけど、シーアと数日間旅をして、こういう質素な食事には慣れたもんだ。それにあまりにもお腹が空いていたから、この際内容はなんでもよかった。
味は……まずくはない。
それで、とリュクルゴス隊長が話を切り出した。
「なんで剣なんか盗もうとしたんだ?」
ぼくはパンを喉に詰まらせた。やっぱりそうくるか!
「だ、か、ら! 盗もうとしたんじゃないんです! 食べ物を探してたら剣があったから、手に取ってみただけなんです!」
一言一言を強調するように言うと、リュクルゴス隊長はやれやれ、といった感じで首を振った。
「じゃ、質問を変えるが、なぜ勝手に馬車に乗り込んだんだ?」
ぼくはすぐさま答えた。
「ぼくも王さまを助けたいからです」
「なぜ?」
「王さまにもう一度会いたいんです」
「なぜ?」
「王さまに聞きたいから」
「なにを?」
「それは……言えません!」
矢継ぎ早に繰り出される質問に、思わずべらべらと喋ってしまうところだった。
自分は異世界の人間で、この国の新しい王だから、ルイーズによってこの世界に連れて来られた。ぼくはルイーズに「新しい王」の意味と、元の世界への帰り方を聞きたい。
そんな話誰が信じるものか。自分だって信じられないのに。
頭のおかしい子だと思われて、警察――があるのかどうか知らないが――に突き出されたりしたら面倒だ。ここは、話さないほうが得策だろう。
リュクルゴス隊長は軽く溜め息をついて言った。
「まったく……仕方ないな。連れて行ってやるよ」
「ほんと!?」
「お前の意志が固いのはよおくわかったよ。ただし、仕事はちゃんとしろよ。そういう名目で助けたんだからな」
堂々といていいということになると、がぜん楽しくなってきた。ぼくは鼻歌を歌いながら、みんなの食事の準備をしたり、テントを張るのを手伝ったりした。
初めはぼくを奇異な目で見ていた兵士たちも、次第に話しかけてくれるようになった。そして、いろいろなことを教えてくれた。
アイオリア軍には二つの部隊があり、それぞれを、「衛兵隊」「討伐隊」という。
「衛兵隊」は主に都と王宮の警備を担当している。特徴はモヒカン頭みたいな変な兜に、サンダル。
そういえば王宮で見かけた兵士たちも、さっきぼくを問い詰めていた兵士たちも、そんな格好をしていたな。古代の王国テラスティアの服装なんだそうだ。
そしてその隊長が、先ほどの中年男というわけだ。ヴァシリス隊長というらしい。
もう一方の「討伐隊」は、地方都市の警備と、文字通り魔物の「討伐」を職務としている。
近頃はあのワイバーン以外にも、さまざまな魔物が現れては、町々を襲っているそうだ。魔物の襲撃の情報が入れば、近くの都市に駐屯している討伐隊が、それを退治しに行くというわけだ。
――ぼくはあの、ワイバーンに襲われた村のことを話した。しかし残念ながら今のところ、小さな村などには手が回らないらしい。
それから、討伐隊の服装は特には決まっていない。マントを羽織っている人が多いかな。あとはシャツやチュニックの上にベスト、あるいは革でできた鎧を着ているといった具合だ。
隊長はリュクルゴス・ヘイロウタイ。今さっきぼくに食事を出してくれた、あの人だ。彼もまた他の討伐隊の人々と似たように、シャツの上に緑色のベストを着て、マントを羽織っている。
ともかく、リュクルゴス隊長はぼくを助けてくれたうえ気さくな人だったので、ぼくは彼のことがとても好きになった。
彼がルイーズと見つめ合っていたときはひどく嫌な気持ちになったのに、今となってはなぜそう思ったのか忘れてしまうくらいだった。
戦争や大きな任務の時は、どちらの隊も駆り出されるそうだ。だから、今ここには衛兵隊と討伐隊の両方がいる。
他にもいろいろ聞いたけど、ぼくに覚えられたのはこれくらいだ。