第十七話 アイオロス
「デューク」
椅子から立ち上がったぼくの側に、デュークがおずおずと近づいてきた。
ぼくはデュークの目を見て、静かに言った。
「いや……アイオロスと呼ぶべきかな?」
「アイオロス」と呼ばれて、デュークは少なからずたじろいだ。
もう、ぼくにはわかっていた。こいつはただの鳥じゃない。
こいつの名前はアイオロス。こいつがぼくをこの世界に連れてきた張本人(鳥?)だ。
こいつはルイーズに頼まれて、ぼくをこの世界へと導き、ときには手助けし、ときにはぼくの力を試しながら、ぼくをルイーズと引き会わせた。
今まで聞こえていた声は、こいつの声だったんだ。
「一応聞くけどさ。お前、ぼくを元の世界へ帰すことできないの?」
デュークはいかにも鳥らしく、小首を傾げただけだった。
「こんなときだけ鳥のふりするなんてずるいよ」
この世界に連れてきてしまった責任を感じてか、それとも正体がばれたせいか、今のデュークはどこかぼくにおびえているようだ。
元の世界に帰れなくなって、悲しいし、悔しい。さっきまでのぼくなら、デュークを罵って、ひっつかんで、投げ飛ばしていただろう。でも、ルイーズに聞けば元の世界に帰れるかもしれないとわかって、ぼくの心は少し変わっていた。
ぼくはデュークに言った。
「一緒に行こうよデューク。怒ったりしないからさ」
ピイッ!
デュークは嬉しそうに一声鳴き、ぼくの肩にとまった。
「で……これからもデュークって呼んでいい?」
デュークは頷くように、うんうんと首を振った。
ふふ。可愛いやつ。
そうして、ぼくはデュークと共に王宮を後にした。
リュクルゴス隊長率いるアイオリアの兵士たちは今しがたルイーズの救出に向かった。
もちろんぼくは黙ってルイーズが救出されるのを待つわけじゃない。
街の外に出ると、そこにはリュクルゴス隊長と、大勢の兵士たちがいた。長旅になるのだろう、たくさんの荷馬車も用意してある。
ぼくは気づかれないように、そっとその一つに乗り込んだ。
「よーし、しゅっぱーつ!」
掛け声とともに、馬車が走りだした。
ハアアアア。今日は本当にいろいろなことがあった。
これからぼくはどうなるんだろう。はたして本当にルイーズを助けられるのか。元の世界に帰ることができるのか。
草の上を走る車輪の振動を感じながら、ぼくは荷馬車に積まれた木箱にもたれて、心地よい眠りに落ちていった。