第十四話 予想外の結末
「あっ、落ちる!」
ローブの男がひるんだため、ルイーズを縛り宙に持ち上げていた糸が緩んだ。当然ルイーズの体は重力に従って落下し始める。
ぼくの声を聞くやいなや、リュクルゴス隊長は剣をしまいすばやく体の向きを変えると、落下してくるルイーズをしっかりと抱き止めた。
思わず歓声をあげたぼくにつられて、ワイバーンと戦っていた兵士たちまでが歓声をあげた。
「感心している場合か! さっさとあいつを縛り上げろ!」
隊長に怒鳴られて、兵士たちはワタワタと傷を負って倒れているローブの男を縛りにかかった。
ワイバーンもようやく数が減り始めたようだ。
「う……」
そのとき、隊長に抱きかかえられていたルイーズが目を覚ました。
「陛下。ご無事ですか?」
「リュクルゴス!?」
ルイーズは、はっとして隊長を見た。
「あなたが助けてくれたのね、リュクルゴス……ありがとう」
ぼくは、彼女が隊長のことを「リュクルゴス」と名前だけで呼んだことに、どきりとした。王さまである彼女にとって、部下の呼び捨ては当然のことなのかもしれないけど……。
隊長は心底申し訳なさそうな表情で言った。
「いえ、申し訳ありません。これほど見張りの兵が殺されていたというのに、気づくのが遅すぎました。そのせいであなたを危険な目に……」
ルイーズはあわてて首を振った。
「いいえ! こうして助けてくれただけで充分よ。よくぞ来てくれました」
リュクルゴス隊長はくしゃっと笑った。
「そりゃ、あなたのためなら地の果てだって助けに行きますよ」
隊長の言葉は、忠義心では片付けられない重みをはらんでいるように聞こえた。
彼はルイーズを優しく下ろすと、服が焦げ、白い肌があらわになってしまった彼女に、慣れた様子で自分のマントを着せた。
隊長を見つめるルイーズの目は、母さんがロバートを見るときのそれに、よく似ていた。
なんだ、そういうことか……。
ぼくは、わかってしまった。そう、この二人は……。
そう思った途端、さっきまで興奮していたのが、なんだかモヤッとした気持ちになった。
それから、胸がチクチクしてきた。
所在なくて、二人の側を離れようとしたとき、ルイーズに声をかけられた。
「ありがとうエンノイア」
「そんな。ぼくはなにもしてないです」
「なにもだなんて。あなたはわたしを見捨てなかった。そして、リュクルゴス……隊長を呼びに行ってくれた。すべてあなたのおかげよ」
ぼくは首を振った。彼女がわざわざ「隊長」とつけて呼び直したことが、無性に腹立たしく感じられた。
「そんなの全然大したことじゃありません。ぼくは……その……隊長さんみたいに強くないし……」
「え?」
ルイーズはなぜそこで隊長が出てくるのかわからないといった感じで、小首を傾げた。突然引き合いに出されて、隊長も驚いているようだった。
ぼくはなにを言ってるんだろう。
なんだか恥ずかしくなって、ぼくはそそくさとその場を離れた。
リュクルゴス隊長はルイーズをかばうようにして立つと、兵士によって縛られたローブの男に再び剣を突きつけた。
「きさま、何者だ? 陛下を傷つけた罪、万死に値するぞ!」
隊長は毅然として言い放った。
こんな状況になっても、ローブの男は不敵に笑っている。血が出ているというのに、痛がる様子もない。
「なにがおかしい!」
すると、ローブの男が言った。
「わたしが何者か……。王さまのほうがよくご存じなのでは?」
そこにいた人々が一斉にルイーズを見る。ルイーズは厳しい顔でうなずき、説明を始めた。