プロローグ 王
「陛下、いかがなされました」
ゆったりとしたローブを羽織った青年が、怪訝な顔で尋ねる。
白大理石の柱に囲まれた室内。立ち並ぶ柱の隙間という隙間から、春の日差しがほしいままにふるまう。
床に整然と敷き詰められたタイルも、青年の衣服も、全て白一色――その中にあって、紅や碧の宝石の散りばめられた玉座だけが、唯一強烈な色彩を放っていた。
「この国に闇が迫っている」
返ってきたのは、言葉の内容とは裏腹に、淡々とした女の声。
青年の眉が、わずかに歪む。
玉座を見上げたその顔は女性のように繊細で、玉座の上の人物とよく似通っている。腰の位置まで伸ばされ、先端で緩く束ねられた髪は、空と同じ水色をしていた。
「闇、とは?」
謎めいた言葉の真意を求め、彼はさらに尋ねた。
青年の問いかけに対する答えはない。玉座の主は掌に水晶球を浮かべ、穿つような眼差しを向けている。薄絹のベールがふわりと揺れ、青年と同じ、空色の豊かな髪が覗き見えた。
その髪よりも深い青を湛えた双眸に、やがて人物の影らしきものが映り込んだ。
「闇を祓えるのは、新たなる王のみ。――アイオロスよ。ここに映し出す者をこの国へ導きなさい。この国の新しき王となるべき人間を!」