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第3話「村人との交流と、広がる噂」

市場の熱気が冷めやらぬ午後。ハルトは村の商人・農民たちと交わした小さな会話を反芻しながら、空の荷車を押して牧場への帰路を歩いていた。




「なあシエル、今朝のあの親子……どこか懐かしい感じがしたな」




「ふうん、そう?あんたの前世、子どもと接する機会、あまりなかったんじゃないの?」




「それが……そうなんだけど、あの子の瞳、どこか……心を突かれたんだ」




ハルトはふと立ち止まり、視線を遠くにやった。吹き抜ける風の中、草の香りが鼻をくすぐる。ペットたちの命に向き合ってきた過去。救えなかった命。心に刺さったままの棘。それが、今日の“ありがとう”の言葉で少しだけ溶けていく気がした。




「今日のこと、忘れないようにしよう。俺の原点は、ここにあるって思った」




牧場に戻ると、ロシュがすでに待っていた。珍しく、彼は真面目な顔をしていた。




「ハルトさん。実はね、ちょっと困ってるって人がいて……相談に乗ってくれない?」




「俺でよければ、なんでも」




ロシュが紹介したのは、村の端にある小さな花農家の女性──ティナだった。彼女は小柄で控えめな雰囲気をまとい、話し始めるときも伏し目がちだった。




「その……飼っていた家禽が、突然元気をなくして……卵も産まなくなってしまって……」




「どんな飼育環境ですか?エサや、水の状態、寝床は?」




ハルトの目つきが一変する。プロの獣医としてのスイッチが入った瞬間だった。シエルが肩の上で「おっ」と口を開ける。




「エサは近くの雑穀を混ぜてて……でも最近、井戸水のにおいが変なんです」




「井戸水か……ちょっと調べてみましょうか」




ハルトはその足でティナの農場を訪れ、鶏舎や水の状態を丁寧に確認した。そして、やはり水質に問題があることを突き止めた。




「水を一時的に止めて、こちらの新しい井戸から汲んでみてください。それから……この薬草を煮出した液を、餌に混ぜてみるといい」




ティナは目を潤ませながら、何度も頭を下げた。




「ありがとう……ありがとう、ございます……!」




「いえ、鶏の元気が戻ることが一番ですから」




その出来事は、すぐに村の中で話題になった。『新しい牧場主は、ただの畜産屋じゃなく、動物に詳しい獣医らしい』という噂は、瞬く間に広まっていった。




翌日、牧場には見知らぬ村人がやって来た。




「すまん、うちの山羊の様子を見てほしい」「仔牛が夜になると鳴き止まなくてな……」




小さな依頼が少しずつ積み重なっていく。牧場は、単なる卵の供給地ではなく、村と動物たちを繋ぐ“命の相談所”のような場所になり始めていた。




夜、シエルは木の枝で毛繕いしながら言った。




「あんた、結局忙しくなっちゃってるじゃん。スローライフって言ってたのに」




「うん……でも、なんだろう。忙しいけど、充実してる。前世ではできなかったことが、今ここでやれてる」




ハルトは夜空を見上げた。月明かりが牧場を照らし、動物たちの気配が穏やかに広がっていた。




「この牧場、きっともっと賑やかになるな」




「そうね。ふふ、私もそろそろ本気出してサポートしてあげよっかな」




「頼りにしてるよ、シエル」




それは、静かに、でも確かに歩み始めた“再生”の物語。




ハルトの牧場には、今日もまた小さな命の声が響いていた。

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