16話 氷の誓い、蜜のこえ
6月。人前式当日。控え室で黒川誠は、晴夏の父・白石正治に話しかけた。
「はじめまして。黒川誠と申します。お嬢さんのご結婚、誠におめでとうございます」
「ありがとうございます。白石正治と申します」
「湊くんには、息子が大変お世話になりました。高3の秋に息子が入院した時、湊くんは受験生だったのに、毎日お見舞いに来てくれました。本当に優しい、いい子なんです」
「そんな事が……。実は私の妻が亡くなってからもうすぐ半年になります。ですがもし妻と話せるなら、晴夏の幸せを1番に考えなさいと言うだろうと、祝福する事を決意しました」
「白石さん。…どうか湊くんを見守ってやってください」
婚姻届の保証人欄を依頼されてから、異常な速さで式を挙げる事に、彼は一抹の不安を感じている。
(自身を傷付けて壊れる寸前の息子のような、危うさを感じる……)
それから会場に案内された黒川誠は、正治の腕に手を添えて入場する晴夏を見た。
(これが……息子が失った未来の1つか)
ベールで顔を覆っていても、ウエディングドレス姿の晴夏は、凛として美しい。輝く笑みを浮かべる彼女は、真っ白な芍薬の花のようだった。
今日、彼女は谷村湊の妻となる。
外科医を目指し、勉強に励んでいた頃の息子の姿を思い出す。その未来は自傷行為の後遺症により、永遠に失われた。
(湊くんは、息子への贖罪の為に、失った未来を再現しようとしてくれているのか…)
「生涯責任を持って晴夏さんと共に歩むことを誓います」
「湊さんと共に人生を歩むことを誓います」
式の進行は順調に進み、指輪交換をする。谷村はいつも通りの氷の目をして微笑みながら、晴夏の手を取り、指輪を嵌める。晴夏は内心緊張しながら谷村の手を取り、指輪を嵌めた。
谷村は、晴夏のベールを上げ、彼女の額にそっと口付けた。
(…あれ?嫌じゃ、ない。怖くなかった……)
そっと目を開けた晴夏に、彼はハチミツのような甘い声で囁いた。
「これでもう、お前は谷村晴夏だ……」
(なんでこんな、甘い声をするの…?谷村先輩)
拍手を聞きながら、晴夏は戸惑っていた。
「これをもちまして、お2人のご結婚が成立したことを宣言いたします。この後はお食事の時間となりますので、ご着席ください」
着席した谷村は隣の席の晴夏に囁いた。
「俺の父と晴夏の父の間に座っているのが、黒川の親父さんだ。落ち着いたら挨拶に行くぞ?」
黒川誠は2人の前で穏やかに微笑みながら祝福した。
「晴夏さん、おめでとうございます。
湊くんには息子が大変お世話になりました。
高3秋に息子が入院した時、湊くんも受験生だったのに毎日お見舞いに来てくれて、退院してからも卒業するまで家まで迎えに来てくれたんです。受験には失敗しましたが、湊くんが居なかったら息子は立ち直れなかったでしょう」
(黒川先輩が、入院されていた!?もしかして、あの日キスされた時に私が逃げちゃったから……)




