10話 無自覚エリートキラー
ーー月日は過ぎて、正月休み。
耀は、兄や姉とお菓子を食べながらまったりと、くつろいでいた。
「耀ちゃん、学校での評判、後輩経由で聞いたわよ〜、投資同好会が利益の一部を使って、6月と12月にもノートセットと消しゴムを3年生全員に配布したそうじゃない。頑張ってるわね」
「何か困っている事はないか?同好会以外の人とも話せているのか?」
「はい、クラスメイトにも恵まれていますよ。他にも、白石先輩が優しく接してくださっていてーー」
その名を聞いて、姉は大きな声を出した。
「ちょっと待って!…白石先輩ってもしかしてあの、老若男女を虜にする、<無自覚エリートキラー>の白石晴夏!?」
「…むじかく…えりーと…きらー…!?」
兄は壊れたロボットのような声を出し、スマホのように震え始めた。
「お兄ちゃん、落ち着いて!お茶がこぼれる!」
「耀が…。可愛い耀が、悪女の…じゃなくて、無自覚エリートキラーの…餌食に…!?いや…餌食にならなくても、悪い影響を受けてしまう…!?」
姉は兄の肩を手のひらでトントンしながら続きを暴露していった。
「大丈夫よ、お兄ちゃん。あの子、性格は悪くないのよ!…ただ、対人用の笑顔が恋人に向けるような笑い方をするから、勘違いしちゃう人達が出てきちゃうのよ」
兄は震えながら呟いた。
「それのどこに安心できる材料が…?」
「まあ確かに、ガリ勉くん達だけじゃなくて他校のアイドル級に可愛い女の子や、少女歌劇団の男役みたいなイケメン女子からも告白されていたわ。全部断っていたみたいだけど。でも、彼らの気持ちは分かるわ。彼女、綺麗すぎるもの!」
コップが倒れて、お茶はテーブルに広がった。
「…すぐに保護者会で共有しないとまずいレベルじゃないか!」
「ボランティア部の活動で老人ホームに行った時にはね、認知症のおじいちゃん達が昔の恋人を思い出して泣き出しちゃったりしたわ。気難しいおばあちゃんに晴夏が部活動で何度か訪問して話しかけていたら、これでお菓子でも買いなさいとお金を渡された事もあったのよ。…それは流石に顧問の先生に相談して、部室の常備おやつ代になったけどね」
兄は頭を抱えて声を絞り出した。
「耀が…。耀が、告白を断られた人々の、死屍累々の1人にされてしまう…!?」
「…時々図書館でレオも一緒に3人で勉強してただけですよ?」
耀はタオルでこぼれたお茶を拭きながら、兄をやや冷めた目で見ていたが、最後の姉の言葉に胸がざわついた。
「あの子、年々綺麗になっていくタイプだわ」
(先輩が大学生や社会人になったら、ますますモテモテになってしまう…。自分では、きっと、追いつけない)
タオルを持つ手が震えていた。




