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オーバー・ライアー ~最弱詐欺師の俺、剣も魔法も使えないのに世界を騙せてしまうんだが?~  作者: 限界まで足掻いた人生


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第17話:【観測と虚言の相性】

新天地へと続く街道を歩きながら、俺、林玄宇リン・シュエンユーは指先で小さな石ころを弄んでいた。


「……やっぱり、おかしい」


 俺は道端に落ちていたその石を放り投げ、空中でこう断じた。


「これは石じゃない。弾けると目も眩むような閃光を放つ【魔導手榴弾】だ」


 本来なら、俺一人の認識では現実は動かない。だが、三歩後ろを歩く蘇明蘭スー・ミンランがその石をじっと見つめた瞬間、世界が変質した。

 地面に落ちた石は、パァン! という乾いた音と共に、周囲の視界を真っ白に染める強烈な光を放った。


 驚くべきは、その「滑らかさ」だ。

 以前なら、脳が揺れるような同期ズレの音や、風景が歪むようなノイズが伴ったはずだ。だが今は、まるでお湯に砂糖が溶けるように、嘘がごく自然に現実へと染み込んでいった。


「……計測終了。誤差、0.002パーセント以下。改変の暴走率は、単独使用時の約30分の1にまで低下しているわ」


 明蘭が、懐から取り出した手帳に淡々とペンを走らせる。


「おい、統計を取ってたのか?」


「当然よ。あんたという不安定なバグを野放しにするわけにはいかないもの。……客観的な事実として、私があんたの半径2メートル以内にいる場合、世界の整合性を保つための負荷が劇的に軽減されているわ」


 彼女は手帳を閉じると、冷徹な碧眼で俺を射抜いた。


「理由は不明。あんたの嘘が私の観測を補強しているのか、あるいは私の観測があんたの嘘に『器』を与えているのか……。今のところは、単なる【統計的事実】として処理するしかないわね」


 明蘭はあくまで、この現象を感情抜きの「数式」として片付けようとしている。

 だが、詐欺師としての俺の勘は、もっと泥臭い直感を告げていた。


「統計、か。……お前、俺が近くにいると『落ち着く』だけなんじゃないのか?」


「……。あんた、さっきの石でもう一度目が潰れたい?」


 殺気。

 だが、彼女の耳の付け根がわずかに赤くなっているのを俺は見逃さなかった。

 彼女は【観測者】としての責務を果たすことで自分の存在を固定している。その負荷を、俺の「嘘」が結果的に肩代わりしているのだとしたら……。


「まあいい。理由はどうあれ、これなら今まで以上に大胆なハッタリが利く。……おっと、さっそく実験台のお出ましだ」


 街道の先、茂みから十数人のならず者が姿を現した。

 ギラついた刃物を手に、こちらを品定めするように囲んでくる。


「へへ、いいカモだ。その女、高く売れそうだぜ」


 リーダー格の男が下卑た笑いを浮かべる。

 いつもなら、冷や汗をかきながら逃げ道を模索する場面だ。なにせ俺は剣も魔法も使えない「無能」なのだから。


 だが、今の俺には最強の【観測者】がついている。


「明蘭。……俺の横、空いてるぜ?」


「……言われなくても。観測、開始するわ」


 明蘭が俺の真横に並ぶ。

 彼女の体温と、微かに香る清潔な匂いが、俺の五感をかつてないほど鋭敏にさせた。

 認識の座標が、一点の曇りもなく固定される。


「おい、お前ら」


 俺は一歩踏み出し、武装した男たちに向けて優雅に手を広げた。


「知ってるか? この街道……実は、歩くたびに【重力が三倍になる】特殊な魔力地帯なんだぜ」


「は? 何言って……がはっ!?」


 男たちの言葉が止まった。

 次の瞬間、全員がまるで巨大な見えない手に押し潰されたように、地面に這いつくばった。

 

 キィィン、という澄んだ和音が一度だけ響く。

 明蘭の瞳が、彼らの屈服を「真実」として固定した。


「な、なんだ……体が、動かねえ……!」


「言っただろ。……ここは、俺がルールを決める場所なんだよ」


 俺は地面に張り付いた男たちの間を、悠然と通り抜ける。

 嘘が、暴走することなく世界を支配している。

 

 二人の能力は、もはや単なる「相性がいい」というレベルではない。

 互いの欠落を埋め合わせることで、この世界の【物理法則】そのものを書き換えるための一つの完成された回路となっていた。


「……玄宇、調子に乗らないで。今のは周囲の土壌の密度を少し変えただけ。あまり大きな嘘は、依然としてリスクを伴うわ」


「分かってるよ。……でも、お前がいれば負ける気がしないのも、一つの『統計的事実』だろ?」


 明蘭は不満そうに鼻を鳴らしたが、その足取りは、俺から離れることなく寄り添っていた。

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