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オーバー・ライアー ~最弱詐欺師の俺、剣も魔法も使えないのに世界を騙せてしまうんだが?~  作者: 限界まで足掻いた人生


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第1話:最弱詐欺師は、英雄になれないはずだった

 この世界では――

 魔法と剣がすべてだった。


 火を呼べる者が尊ばれ、雷を落とせる者が貴族に取り立てられる。

 一騎で魔獣を斬り伏せる剣士は、平民からでも騎士になれる。


 逆に言えば。


 魔法も使えない。

 剣も扱えない。


 そんな人間は――価値がない。


「次、林玄宇(リン・シュエンユー)


 名を呼ばれ、講堂の中央へ歩き出る。

 石造りの大広間には、すでに結果を出し終えた生徒たちが並んでいた。


 炎を揺らしている者。

 風刃を発生させている者。

 試験用の鋼人形を真っ二つにした剣士。


 才能の見本市だ。


 そしてその視線が、一斉にこちらへ向く。


 ――ああ、来たな。「最後の枠」が。


「測定器に手を」


 教官が事務的に言う。


 水晶柱に触れると、適性が数値化される仕組みだ。

 魔力量、剣技適性、戦闘素養。

 この三つで将来が決まる。


 俺は軽く息を吐き、手を置いた。


 ……何も起きない。


 水晶は沈黙したままだ。


 教官が眉をひそめる。


「……再測定」


 もう一度触れる。


 やはり、光らない。


 周囲がざわつき始めた。


「おい、反応ゼロだぞ」

「そんなことあるか?」

「壊れてるんじゃないのか?」


 教官が別の測定器を持ってこさせる。

 三台目。四台目。


 結果は同じだった。


 完全沈黙。


 やがて、宣告が下される。


「……魔力、検出不能。剣技適性、基準値未満。戦闘素養――評価不能」


 言葉を選ぶような間のあと、


「総合判定――無能」


 講堂に、失笑が広がった。


「マジかよ」

「初めて見たぞ」

「学院に入れたのが奇跡だな」


 教官は淡々と書類に判を押す。


「林玄宇。本学院は戦闘者育成機関だ。君に学ぶ資格はない」


 つまり、退学。


 この世界では珍しくもない話だ。

 才能がなければ、門前払い。それだけのこと。


 ただし普通は、少しくらい光る。


 俺みたいに何もない人間は、前例がなかったらしい。


「本日付で除籍。荷物をまとめて退去しろ」


 その言葉に、誰も異議を唱えない。


 魔法も剣も使えない人間がここにいる理由など、ないのだから。


     ◆


 学院を出た頃には、もう夕方だった。


 石畳の道を歩きながら、空を見上げる。


「……ま、こうなるとは思ってたけどな」


 もともと俺は、戦士の家系でも魔術師の血筋でもない。

 裏路地で生きてきた、ただの口利き屋だ。


 要するに――

 ちょっとばかり、人を騙すのが上手かっただけの男。


 だから学院生活そのものが、分不相応だったのだ。


 そう思っていた。


「おい、あんた」


 背後から声がした。


 振り向くと、三人組の男が道を塞いでいる。

 革鎧に粗雑な剣。いかにもな連中だ。


「さっきの見てたぜ。無能サマ」

「学院追い出されたんだろ?」

「金、持ってるよな?」


 ああ、なるほど。


 落ちこぼれは狙いやすいってわけか。


 囲まれている。

 逃げ場はない。


 しかも相手は武装済み。

 こちらは丸腰。


 普通に考えれば、詰みだ。


 ――普通に考えれば。


「……やめとけ」


 俺は肩をすくめて言った。


「俺に手出すと、後悔するぞ」


 三人が一瞬、顔を見合わせる。


「は?」

「何言ってんだ、こいつ」

「強がりか?」


 そうだ。強がりだ。


 剣も魔法も使えない俺に、戦う力なんてない。


 だからこれは、いつも通りのやり方。


 ただのハッタリだ。


「忠告はしたからな」


 わざと、ため息をつく。


「俺がここで襲われて困るのは、お前らの方だ」


「……なんでだよ」


「簡単だ」


 男たちの目を、順番に見ていく。


「俺が弱そうに見えるか?」


 沈黙。


 ほんのわずかだが、空気が止まった。


 自分でも妙な感覚だった。


 言葉を発した瞬間、

 周囲の“認識”が揺らいだような――


「……いや、でもよ」

「さっき無能って」


「学院の測定が、絶対に正しいって証拠は?」


 論理としては、ただの言い返しだ。


 だが男たちは、迷い始めていた。


「もし俺が、本当に何もできないなら」


 一歩、踏み出す。


「こんな落ち着いてると思うか?」


 さらに沈黙が深くなる。


 剣を握っていた男の手が、わずかに緩んだ。


 ――その瞬間。


 確信した。


 こいつら、もう“俺が弱い”と断定できなくなっている。


「……行け」


 低く言う。


「見逃してやる」


 三人は、互いの顔を見て。


 そして、


「……ちっ、時間の無駄だ」

「行こうぜ」

「面倒なのはごめんだ」


 舌打ちしながら、去っていった。


     ◆


 一人、取り残される。


 しばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて呟いた。


「……なんでだ?」


 ただのハッタリだった。


 今までと同じ、ただの言葉。


 なのにさっきの感覚は――


 まるで。


 現実の方が、俺の言葉に合わせたみたいじゃないか。


 風が吹く。


 遠くで、鐘の音が鳴った。


 魔法と剣だけが価値を持つこの世界で。


 誰にも測定できなかった力が、

 静かに動き出していた。


 ――それが、世界を騙す力だと知るのは。


 もう少し先の話になる。

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