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衝動  作者: 角砂糖
7/8

少しだけ開けてある窓から、ひんやりとして気持ちいい風が部屋に入ってレースのカーテンを揺らす。


クロエが今日のために、編み込んで纏めてくれた髪の後れ毛が、風に揺れる。


艶の戻った銀髪が、煌めく。

カレンは、ゆっくり瞬きする。


キッチンのクロネをちらっと見て、勇気をもらう。


視線を戻して、カレンは一度唇を強く引き結ぶ。


微笑を浮かべて口を開き、穏やかで柔らかな口調で伝える。



「....フリーデン伯爵子息さま、私はもう大丈夫ですわ。あなたとクロネに救い出してもらいましたから」


「どうぞ、あなたの口からお聞かせくださいませ。本日はそのためにおいでになったのでしょう。噂で知る方が辛ろうございます」



アズールが目を見開き、困ったように笑った。

「モンテロ、クロネ席を外してくれ。覚悟を決めた」


モンテロがカレンに席を譲る。

カレンはアズールの対面に座った。


それを見て、モンテロとクロネが静かに退出した。


カレンがテーブルに置いてある新しいグラスに手を伸ばすと、アズールがぶどう酒を注いでくれる。


アズールがぶどう酒のボトルの底を掴む骨張った手と、長い指と、腕に浮き出た血管に、カレンは見惚れていた。


大きな手に、繊細な仕草...


カレンがゆっくりとした仕草で、グラスに口付ける。

二口ほど飲み、視線を上げるとアズールと目が合う。


恥ずかしい。見ていらしたの...


カレンがテーブルにグラスを置いたのを見計らって、アズールが口を開く。


「君の継母が計画的に、君を男たちに襲わせたことを白状した」


「継母が雇った、君を襲った男たちは私が捕まえた。未遂だったという言質もしっかり取ってある。__それから、君がダレルの店に行く途中で....君を襲った男たちは__3人、だね?全員、私が始末した」


1分ほどの()をとって、躊躇(ためら)いがちにカレンを気遣いながら口にした。


「それと、君の母親にも_執拗な嫌がらせをしていたようだった...君の母親はサラが、その...人を使って手を下していた」


お母さまが...継母に...


カレンの瞳が曇る。

奥歯を強く噛み締めた。


これは想定外だったわ...こっちの話を聞く覚悟まではできてなかったわ。


「アズールさま、言い辛いことを伝えてくださりありがとうございました」


まだ取り乱しては駄目よ、カレン。


アズールさまにこれ以上の負担はかけたくないでしょう。

私のために、仕事の合間に動いてくださったに違いないわ。


涙は、一人になってからよ。


カレンは、自分に言い聞かせて冷静さを装い、アズールに視線を戻す。


アズールの深い青い瞳が揺れる。カレンの手を握ろうとして躊躇して、続きを伝える。


「...結論から言うと、王家とアルバニー子爵と私で話しをして、君の継母は今後は王家の監視のもと王宮で過ごすことが決まった」


カレンが息を呑んだ。

わかっていたけれど...なんの罰も受けないのね。


「体面上、サラは病死にするとこちらも条件を付けた。_そして義妹の方は、事件に関与している証拠が上がらなかったんだ。不甲斐なくて済まない」


アズールがカレンに頭を下げた。


「アズールさま!そのように私に軽々しく頭を下げないでくださいませ。....癒やしの魔法の使い手を勝手に処断するなど王家が許すはずないですものね」


「...彼女は条件を付けてきた。一つ目が、オーリオと私の婚姻だ。それに、生まれた子が癒やしの魔法の能力を継いでいたら、罪の罰として毒を呑むと。王家も継承者が誕生したあとなら、サラをアルバニー家で処断して良いと...」


能力の継承は、かなり確率が低い。


「その条件は、継母が窮余の一策で出したのでしょう」

オーリオとアズールさまを確実に婚姻させてあげたいのね。




「私は、サラのこのくだらない取引には端から乗るつもりはない。君の継母の身柄は王家が引き取るんだ、今までのように好き勝手しにくいだろう。しかも病死で処理する以上、表も歩けまい」


「オーリオと婚姻もしない。当初の契約どおり君と婚姻するさ。私たちの視界から彼らを追い出してしまおう」


カレンは目を見開いた。


「そんなに、うまくいくのですか...」


「問題は父上だ...乱暴されたと噂のある、アルバン子爵家から一度追放された君と婚姻するのに、難色を示している。このままでは爵位を譲ってもらえないかもしれない」


「え...」


「ということで、君は私の子を生むんだよ。認めざるを得ないだろう。今やっている事業は、私を抜きではどうにもならないようにしてあるし、母上は、私しか生んでないからね。母上の実家の方は脅しておいたから、私のバックに付く」


「君は私が欲しいのだろう。もう欲しくないの?」


「...喉から手が出るほど、欲しいわ」


「良かった。では約束してほしい、もう私のそばから離れないと」


アズールの手が、カレンの首を這い意味ありげな視線でカレンを絡め取る。


いつかの逆だわ...でも私と違って、その時だけじゃなくて先のことも考えてくれた。



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