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衝動  作者: 角砂糖
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4

馬車の止まった音で、一軒家の中から品の良い40代中頃くらいの女性が出てきた。


「アズールさま、首尾よくいったようで良うございました」

そう言うと、馬車から降りてきたアズールとカレンに、両手を胸の辺りで組んで頭を下げた。


「クロネ、急にこんなことを頼んで悪かったね」

「こうしてお役に立てることがあって、光栄でございます。さ、夜も更けておりますゆえ、中にどうぞ」


カレンは訳が分からず、アズールを見上げる。


「クロネは、私の乳母だったんだ。うちの領地で息子夫婦と同居していたのだが、今回王都に呼び寄せたんだ」

カレンが首を傾げていると、アズールがカレンを横抱きにして、クロネの後に付いて遠慮なく部屋の中に入っていく。


「何をなさいますの?!」


「君は、寝泊まりするところが欲しいのだろう?」


そうだったわ。私そう言ったわ。


じゃ、ここって...そういう場所なの?


アズール...手慣れてなさそうだったものね。オーリオとの初夜のために、私で練習をするつもりなのかしら。


それなら、それで...私も想い出がもらえて嬉しいわ。


「アズール...?」


アズールが、リビングのソファにカレンを下ろし、自分はカレンの目の前に立ち膝を付いて、カレンと向かい合う。


クロネが、二人を見て頭を下げると、自室に戻る。


テーブルには、水の入ったボトルとグラスが2つ、軽く摘めるサンドイッチが皿に準備してあった。


「君は悪漢に襲われ、その醜聞を恐れて屋敷を出たと説明を受けた。夫人は君を説得したが、君が聞き入れずに出て行くと言い張り、しょうがなく苦渋の決断で生活に困らないだけのものを渡した、と」


「私は、君を探しに君の領地に行っていたんだ。醜聞になることを恐れているなら、領地にいるだろうと思ってね」


継母はそう言っていたのね。

ずっと、私にも普通に接してくれていたのだもの。みんな信じるわよね。


カレンは、エントランスホールで『汚らしい、アルバニー子爵家の恥晒し。出て行け!』と強く叫んだ継母の姿と、そのまま使用人に門の外に引きずられていったことを思い出した。


もうオーリオと婚約しているなら、本当のことは黙っていましょう。継母の悪事が露見したところで、私はもうアズールとは婚姻できない。


「もういいじゃない、忘れましょうよ。私いろんな男性に身を任せるのが好きみたいなの、だからアズールも好きにしていいのよ」


アズールの目が冷たく光った。


「__君はさっき、屋敷から追い出されたと言った...本当は何があったんだ?」


「夫人から君の話を聞いて、すぐに領地に君を探しに行って、昨日王都に戻ったばかりで、私は集めた情報を精査する時間がなかった」


「父はアルバニー子爵家の使いの者から話を聞いて、すぐに、婚約者変更の手続きをしたからね。それで私は急いで王都に戻ってきたわけだ」



私は、ダレルの店に向かう途中で貴族女性として...貴族女性でなくとも、耐え難いほどの辛い目に遭遇してしまった。


継母の策略が未遂に終わったとしても、その後に私は本当に乱暴されたのだもの...


「知ってどうなさいますか...もうやめましょう」


「私のことは、忘れてください。その代わり今夜ここでお情けを頂けますか?」



カレンは、アズールを見上げて引き締まった鍛えられた腕に触る。



「クロネに君の世話を頼んでいる。ここで身も心も休めるんだ」

腰を上げたアズールを見て、カレンの瞳が揺れる。


もう、帰るつもりなの...??



カレンは、急に自分の中に住み始めた手のつけられない暴れ馬がまた暴れだしそうな、不安が湧き上がり、暗い闇に飲み込まれそうになる。



私、アズールからキスをしてもらってこの続きがあると期待していたんだわ...


怖い....この続きがもらえないとわかると、また嵐みたいな衝動が襲ってくるわ...



どうしてダメなの、どこまでもこの人が欲しいのに...


「お願い...アズール。もっと私に触れてほしいの...」


カレンはさっきより酷く、人肌に飢えていた。

ここで一人にされたら壊れてしまうかも...

もう貴族令嬢じゃない。見栄もプライドも、恥も外聞も、形振り構っていられない...


「本当は誰でもいいわけじゃない。アズールじゃないと満たされない...」


カレンはアズールの腕にしがみついて、懇願した。


「抱いて...」


吐息と混じり、アズールに届いたかどうかの声だった。


アズールは息を呑んだ。


「...カレン、今夜は駄目だ」


アズールがしがみついてきたカレンの指を解いて、カレンを冷静な瞳で見つめる。

アズールの深い青い瞳がより、冷静に見せた。


「どうして、今夜だけでいいのに...」

「だからだよ、今夜君を抱いたら君は私のもとから消えそうなんだよ。まだ私を欲しがる心を消さないで」


カレンはソファに置いてあったクッションを鷲掴みにして、目の前のアズールに何度もぶつけた。


「どうしてよ?!ただ、アズールが欲しいだけなのに!!」

心のうちから叫んだカレンの衝動に、アズールの深い青の瞳に熱がこもる。


アズールが目を閉じて、小さく息を吐く。

再び目を開けたときは、深い青はいつもの冷静さを取り戻していた。


「カレン、君を救いたいから自暴自棄になってほしくないんだ。君はそんな女性じゃない」


「意気地なしね!汚い私に触れるのが怖いんだわ!!いっそ...そう言って突き放してよ...未練も残らないように酷く扱って欲しい」


絞り出すような声は、アズールの脳を痺れさせる。


「カレン、私を挑発しないでくれ。ギリギリなんだよ。いい加減にあなたを扱いたくない。君の継母のやったことの証拠を掴んで責任を取らせるから」


「彼女が失脚するわけないわ。彼女はこの国の大事な癒やしの魔法使いさまよ。もし、それが証明されたとして、私はもうあなたの妻にはなれない...」


「カレン...このまま有耶無耶な状態で、あなたを抱いてしまったら、快楽のあとに、何も残らないのはあなただ」


カレンは、拙い口づけを仕掛けた。

アズールが苦しそうな表情をする。両手で拳を作り強く握りしめる。

「私は耐えるだけだ、君の好きなようにあつかえばいい」


反応のないキスの味気なさに、カレンは空虚を感じた。


「もういい...」

カレンはふらっと立ち上がった。


ここを去ろう...


アズールは、立ち上がったカレンの腕を掴む。


カレンの目を強く見つめ、抑えた抑揚のない声で脅すように告げた。

「君が、ここを出ていったらクロネを殺す。君のためにここに呼んだ。クロネにも(はな)から言ってある。君を繋ぐ鎖にすると」


カレンが目を見開く。


「....あなたも、壊れているのね」


「君が、壊れてしまう前から壊れているよ。君が怯えないように隠して、取り繕っていたからね」


アズールの狂気が、私の衝動と狂気を丸ごと引き受けてくれる__


「...あなたの考える決着が付いたら、私を抱いて。それまでここにいるわ」

「ここまで愛されているってわかったら、私自分を立て直せそうよ」


アズールが、カレンの額に唇を落として部屋から去っていった。





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