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衝動  作者: 角砂糖
3/8

3

「ふふっ...アズールさま、ここの2階でいいの?」

カレンの声は、震えていた。


アズールが自分に会いに来てくれたことで、カレンは高揚していた。


嬉しくて仕方ない。



でも、こんな汚れた女をお貴族さまが相手にするだろうか。


もしかして、修道院にでも連れて行くのかしら...


それなら逃げなきゃ。


こんな激情を抱えて、発散もできず修道院なんて考えただけで恐ろしい。



でも私は、アズールが欲しい...

どうしても欲しい...


いつも冷静な深いブルーの瞳が乱れて、私を乞うさまがみたい...



カレンは、アズールの反応を伺っていた。


このまま2階に連れ込んでくれないかしら...そんな都合のいい夢みたいなこと起きないかしら。


この人に惨めったらしく縋ってみようかな...



カレンの思惑は全く外れた。



アズールは、カレンの腕を掴んで店から連れ出そうと引きずる。


「君は、いつからこんなことをして...自分を傷付けて....おいで」


修道院へ連行ってこと...?


「いや、離して!!...私はここから帰れないのよ」


カレンの声を聞いて、ダレルが奥の厨房から出てきた。


そして、アズールを見てホッとした目をした。

「アズールさま、お見えでしたか...」

「どうぞ、カレンさまをお連れください。痛々しくて見ているこちらが辛かったです」


「...私が、カレンを大切にしていると知っているのだから、お前が連絡をくれてもよかったんだ...」

アズールがダレルを責めるような口調で言った。


「私は、伯爵家に手紙を出しましたが、お手元には届いてなかったのですね」


カレンが驚いてダレルを見た。


アズールは、思い当たることがあるのか舌打ちをした。

「そうだったのか...済まない。ダレル」


深夜になっているので、客は少ないがちょうど料理の注文が入った。

「いいえ、では私は店がありますので」


アズールは半ば引き摺るように、カレンを馬車に乗せた。


シュネーが、馬車の後ろのステップに乗っていた。


シュネーと目が合って、カレンが思わせぶりな視線を送ったのを見たアズールが、馬車に乗り込んだ瞬間にカレンの体をシートに押さえ付けた。


「次、あの男に色目を使ったらあの男の目を潰す」


カレンは、いつも冷静なアズールの新たな一面に興奮した。

私が、子爵令嬢ではない無価値な女だからこそ見せてくれたのかしら。

そうよね、もと婚約者が使用人を誘惑してたらそれも醜聞になるものね。


カレンが、アズールの唇に指で優しく触れてなぞる。

「ここでしますか?一晩の宿の世話さえして頂ければ、場所はここでもいいですよ」


「カレン、やめてくれ」

アズールの悲痛な声が馬車内に響く。


「では、降ろしてください。今夜の宿代がいるんです」


まだ駄目よ...修道院なんて無理よ。



「ドレスや宝石を持ち出して、売ったのだろう?それでひと月くらいは...」


カレンの紫の瞳が潤んだ。


引き裂かれて破れたドレスには、小さいが宝石が付いていたのにも関わらず、足元を見られて買い叩かれた。


オーリオと継母はこの人になんと説明したのかしら...


「堕胎薬を買いましたの、急遽必要になって。あと着替えとか下着とか...堕胎薬は毎日服用してますわ。私で遊んでも後腐れないですわ。なんならあなたの目の前で、事前に服用しますわ」


アズールが息を呑んだ。


「強姦は未遂だったと聞いたが...」


「未遂でしたわ、継母は残念だったでしょうけどね。でも屋敷から追い出された夜に、ダレルの店に辿り着く前に...」

アズールの大きな温かい手のひらが、カレンの口を塞ぐ。


相変わらず、暖かくて気持ちいい手だわ。剣を握るから剣だこはあるけど...

大好きだったわ。この手も...


「私が汚いですか?今朝、大衆浴場できれいにしてからは、誰とも寝てませんよ」


アズールが、眉をひそめてカレンを見つめる。


そんな顔もなさるんですね。


アズールの手がカレンの両頬を挟み込んで、唇がおでこに触れた。


アズールの触れ方が以前と全く同じで、大切に触れたことにカレンは泣きたいくらい嬉しいのを、奥歯を噛み締めて我慢した。


このキスは、いつもデートの後の去り際に贈られていたものだ。


瞳が潤んで涙が溜まって、流れないように堪えているカレンを見たアズールが、目尻にもキスをした。


こんな普通の恋人に贈るようなキスをくれるの?


固まってしまったカレンの唇にも、触れるだけの優しいキスを落とす。


ああ、2万エリンくれた男が、キスを断ってくれてよかった。


「キスだけは、誰ともしてなかったの。だから唇はきれいよ、私に初めてのキスをくれてありがとう」


アズールが目を見開く。


アズールの手慣れてない感じが、今のカレンにはわかった。


アズールは、娼館も利用したことなかったのね...



ちょうど馬車が止まった。

アズールが手を差し伸べてエスコートしてくれる。

「ありがとう、アズール」




暗くてよく見えないが、目の前に小さな一軒家が立っているように見える。












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