9話
その後、私は公爵様の尽力のお陰で隣国にいる両親の元へと帰ることが許された。
なぜか公爵様も心配だからと一緒について来られた。
こうして私たちは半月かけて両親のいる故郷まで行くことになり、その間公爵様は私を常に気遣ってくださった。
あれほど近寄り難く、苦手意識のあった公爵様だったけれど《戦利品》という縛りが完全になくなったせいか、今は一緒にいて、とても居心地良く感じるほどだった。
そうして、ついに両親のいる屋敷へと着いた。
屋敷は私が一緒に暮らしていた頃と何の変わりもなく、とても懐かしく感じられた。
扉が開いてまず、以前からの使用人たちが
「お嬢様、よくご無事で」
と言って、駆け寄ってくれた。
私は
「皆も元気にしていた? 何か不自由はしていない?」
と尋ねると
「お嬢様のお陰で私たちは何不自由なく暮らせております」
と言ってくれた。そして皆の後ろから両親と弟のロジーが駆け寄って来て私に抱きつき
「アリシア、よく無事で、何か酷いことはされてないか」
と言って、涙ぐんでいた。
私も涙を流しながら三人を抱き締め返した。
そんな様子を黙って微笑みながら、公爵様は見守ってくださっていた。
だけど両親は一緒に来られた公爵様をとても警戒していたので、家族だけで話し、きちんと、今まであったことを全て打ち明けた。
するととても安心してくれて、
お父様が
「そうだったのか、てっきり私は公爵様がアリシアの見張りについて来たものとばかりに思っていたよ」
と、やっと心からの笑顔を向けてくれた。
その後、私たちは会えなかった間の出来事をお互い、伝え合いながら和やかに食事を頂いた。
そして伯母様たちにお会いしてから聞いた、届かなかった手紙のせいで、伝えられなかった出来事をお話しすると
「本当に心配をかけてしまったわ、まさか教皇様にまでお願いしてくれたなんて」
とお母様が涙を流されていた。
そしてお父様が
「アリシア、このままこちらで今まで通り家族一緒に暮らせるのだな」
と言うと、慌てた様子の公爵様が
「不躾なお願いで済まない、どうかこの私とアリシア嬢を結婚させてくれませんか?」
と言われた。私は何が起こったのか、その言葉の意味をすぐには理解できずにいた。
すると、お父様が
「それは本気で言っておられるのかな?」
と、とても低い声で尋ねた。
公爵様は
「勿論、本気です。ただ彼女の気持ちが決まるまで、私の屋敷で今まで通り暮らしてもらいたい」
と仰った。そして
「その間、絶対に彼女には指一本触れないと誓います」
とも仰った。それを聞いても私はまだよく理解出来ずにいた。
そして思わず
「どうしてそこまでお話しが飛躍してしまうのですか?」
と尋ねると
「私にとっては急な話ではないんだよ。もうずっと前から考えていたことなんだ。だから今回も君を失いたくなくて一緒に来てしまったんだ」
と呟くように仰った。そして
「すぐにとは言わない。時間を掛けて決めて欲しい、だけどその間も私の側にいて欲しい」
と言われて
「勝手なのはわかっているが、君なしの生活はもう考えられない、だがそれでも君が嫌だと思うならその時は潔ぎよく諦める」
と言われた。
そしてしばらく皆、沈黙していた。その沈黙を破ったのは誰でもない私自身だった。
「では公爵様、三ヶ月だけお時間を下さい」
と言って
「でもその間はこちらで一人で考えさせて下さい」
と付け加えた。すると公爵様は寂しそうに
「そうか、一人で考えたいのか」
と呟いていた。そして
「分かった、三ヶ月待つことにしよう」
と言って帰ろうとしていたので
「公爵様、今日はもう遅いのでこちらに泊まって、明日お帰りになられたらいかがですか?」
と申し上げると
「ありがとう、では明日の朝帰ることにするよ」
と答えられた。
こうして、次の日朝早く公爵様は出発された。




