8話
それぞれ別の馬車に乗り、四人は公爵邸へと着き、早速その場で話し合いが行われた。
伯母様には、私がこの公爵邸にいる理由を包み隠さずに話した。
すると、従兄のジェフリーお兄様が
「アリシア、君は《戦利品》という名目で連れて来られたのか?」
と聞かれ
「はい、《戦利品》という名の人質だと聞いています」
と答えた。
それから
「公爵様、嘘をついて申し訳ありませんでした。実は先日申し上げたお父様からの手紙というのは、全て嘘だったのです」
と言うと
「それはどういうことだ?」
と聞かれたので
「バーデン辺境伯から聞かされたのです」
と言って、先日公爵様が不在なのを知って訪ねて来た辺境伯から言われたことを、全てお話しした。
すると、公爵様は物凄い形相で
「今後、奴とは一切の関わりを断つ」
と仰ってから、公爵様のお話しが始まった。
まず、私を公爵様のお屋敷に迎える代わりに、今回の戦争で得た領土の一部をバーデン辺境伯の領地として認めてもらうよう、陛下への進言を頼まれたこと、そして一度は進言したが、その領土を調べてみると中に金鉱山が含まれており、それを隠していた辺境伯に陛下が大層お怒りになり、その領土は辺境伯の物にはならなかったと聞いたいきさつを話した。
すると伯母様は
「全く呆れた話だわ。領地を手に入れ、その上アリシアまで手に入れようだなんて、どれほど欲深いのかしら」
と仰った。そして、今度はお兄様が
「まあ、結局どちらも手に入らなかったわけだがな」
と言って鼻で笑った。
伯母様に
「それでアリシア、貴女はこれからどうしたいの?」
と聞かれたが、私はすぐに答えることができなかった。しかし、しばらく考えてから
「取りあえずは両親に会いに行きたいです」
と言うと、公爵様が
「それは私から陛下に話してみよう」
と仰ってくださった。
するとお兄様が
「じゃあ母上、アリシアを連れてこれで帰りますか」
と言うと、公爵様が
「彼女にはここに居てもらわなくては困る」
と言われた。お兄様は
「まだアリシアを《戦利品》扱いするおつもりですか?」
と聞くと、公爵様は
「私は彼女を《戦利品》扱いなど一度もしたことはない」
と言って、憤っている。
するとお兄様が
「アリシアにメイドの仕事をさせていたのだから、それは同じことです」
と言うと、公爵様は
「確かに初めはバーデン辺境伯に個人的なメイドではないと分からせる目的で、普通のメイドとして働いてもらったのは事実だが」
と言ってから
「今はもうそんなことはどうでもいいと思っている」
と言われた。そして、俯き加減に何かを考えている様子だったが、急に
「とにかく彼女にはこの屋敷にいてもらいたい」
と仰った。私はどうしたらいいのか分からず、ただ黙っていた。
するとお兄様が私の手を引っ張って連れて行こうとし、公爵様が間に入ってそれを止めた。
そんな様子を見ていた伯母様が
「アリシア、貴女の好きになさい。どちらを選んだとしても、私は貴女の味方ですよ」
と仰ってくださった。
私は
「お兄様、ごめんなさい。私は取りあえずこちらに残り、公爵様から陛下にお願いをして頂いて、両親に会いに行こうと思います」
と告げた。
「それに今、こちらでの仕事は、私がお父様のお仕事のお手伝いをしていた頃と同じことをしているだけですから、心配なさらないでください」
と伝えた。
そうしてこの日、伯母様とお兄様は二人でお帰りになった。
後に残った私に、公爵様は
「私の頼みを聞いてくれてありがとう」
と言ってくださった。
その後、公爵様は屋敷の使用人たちを集めて私の素性をお話しになり、これからの私の扱いを変えられた。
執事のジョンソンさんやメイド長は優しく微笑んで
「本当に良かったです」
と言ってくれた。




