13話
次の日の朝、私は朝食を終え公爵様のお部屋へと向かった。
お部屋に入ると公爵様は
「まさか君がこんなところまで一人で駆けつけてくれるとは思わなかった、ありがとう」
と仰った。
私は
「命に別状がなくて本当に良かったです」
と言うと
「君の答えを聞く前に死ぬことなんてできないよ」
と言って、微笑まれた。
私は
「今、ここでその答えをお伝えしてもよろしいですか?」
と聞くと
「んー良い答えなら今聞きたいが悪い答えなら今はまだ聞きたくないな」
と仰った。
その言葉に私は思わず笑ってしまい
「でしたら今、お伝えします」
と言うと、驚いた表情で
「もしかしたらそれは良い返事なのか?」
と聞かれるので、私は黙って頷いた。
すると公爵様は突然、ベッドから起き上がり、隣に座る私を抱きしめた。
思わず私は
「公爵様、まだ起き上がってはいけません」
と言うと
「こんなに嬉しいのにジッとなどしていられないよ」
と言いながら
「痛い!」
と叫んだ。私は
「ほら、まだちゃんと寝てて
下さい」
と、宥めた。
そんな幸せな時間を過ごしながら私は公爵様に
「あの日、私を助けて下さりありがとうございました」
と言うと
「私の方こそこんな幸せな時間をありがとう」
と言って下さった。
そう、全てはあの日、公爵様が私を助けて下さらなかったら今、私はどうなっていたかわからない。そんな二人の出会いに何か運命的なものを感じ
「こうなることはずっと前から決まっていたように感じます」
と言うと
「実は私も同じことを思っていたんだ」
と仰ってから話が続けられた。
あの日はそのまま私たちの住むお屋敷の前を、馬に乗って通り過ぎようとしていたところ、腰に付けていたお父様の形見の懐中時計が落ちてしまい、馬から降りて拾い上げて、ふと目の前を見ると大きな窓ガラス越しに、バーデン辺境伯と私の姿を見つけて、嫌な予感がして中に入って来られたという。
それを聞いた私は
「亡くなったお父様が会わせてくれたのですね」
と言うと
「曲がったことが大嫌いな優しい人だったんだ」
と呟いた。そして
「きっと今頃は、母上と一緒に天国で喜んでくれてるよ」
と言った。
それを聞き私は
「公爵様が歩けるようになっら是非、ご両親のお墓参りに連れて行って下さいね」
とお願いした。
それから随分と経ってからバーデン辺境伯が拘束されたと聞いた。
貴族の命を狙ったのだから、いくら自分も貴族といっても軽い刑では済まされない。
陛下からの信用も失っていたのでそれなりの罪になるだろうと公爵様は言われた。
そして従兄のお兄様は
「公爵の存在が無くても僕のことは断っていたのだろう?」
と聞かれ
「はい、やはりお兄様のことは本当の兄のように感じますから」
と言うと
「まあ、だったら公爵に負けたわけではないから潔く諦めるよ」
と言って笑ってくれた。
その後私たちは公爵様の身体がすっかり良くなってから挙式を挙げた。
この短い間に色々なことがあったと、改めて考えていた。
余りに運命的な公爵様のお話に『やはり私たちは出会うべくして出会ったのね』と呟きながら、これから先はどんな運命が待っているのか分からないけれど、もしそれが不幸なものだとしたらその時は運命に逆らってでも幸せになってみせるわと心に誓った。
これからは一人ではない、二人で力を合わせればどんな不幸も跳ね除けられると信じてる。
私は隣で、静かな寝息をたてている公爵様にそっと口づけをしてから、眠りについた。
完