無人島で暮らす家族はポヤポヤしている
いつものように妹と競争して、うっかり木に激突してしまい、気絶した。
その瞬間、がっつり頭を打ってしまい数分意識がなかった。
生ぬるい水が口の中に入ってきてむせた。
(ワタシは、最後、そう、最後に願った)
戦い続きの世界はもううんざりだって。
そう思いながら思い切り目を開けた。
「エンカ!起きたか!」
「父さん……?」
「うわあーん!ねーちゃんんん!」
妹が大泣きして抱きついてくる。
可愛いけど汚い。
衛生的にどうにかしてあげなくては。
ではなくて!
いや、今ワタシはどういった状態なの?
最後の記憶は戦って死んだ記憶。
もう一つは穏やかな記憶。
そして、現在の姿8歳までの記憶。
全部で3つある。
穏やかな記憶ではこういうのを転生というのだと興奮して説明してくる。
現在3回目の転生であるらしい。
多分ね。
「殆ど野生じゃないのかな、これ」
原始的な生活をしている今。
原因は父が祖父から聞いた話をつなぎ合わせると、無人島に流れ着いたままそこで生きるしかなく三世代目に突入しているとのこと。
祖父も祖母もすでに他界しているらしく、私の父親は無人島育ちにより現在のこの住む星の事を一切知らないらしい。
「エルン。起きたようだ」
育ちが無人島のせいで家族の三人、父と母、妹がぽやぽやしていてワタシはとても癒やされた。
家族四人が小さな花を見て「まあ、可愛い花」「これ、花って言うんだ?」「可愛いな」「置いておこう」なんて会話を日頃繰り広げている日常なんだよ。
「か、かわいい!」
「え!」
「おねーちゃん?」
現世に染まってないうちの家族が可愛い過ぎて推しにならざるをえない。
推しの為なら何でも出来る。
2つ目の前世の記憶のせいでもっと可愛く思えるよ。
2つ目はファンタジーとSFの世界。
軍曹にまで上り詰めたものの、ストレスマッハな世界だった。
常に争いが絶えず力の強いワタシは前線にばかり行っていた。
出世欲よりも休める時間が欲しくて、威圧されまくった日々は戦死によって幕が降りる。
原因は仕事疲れだろう。
でも、近世はどうにも休めるらしい。
8年の記憶を思い起こしたところ、妹と常にジャングルをかけまわることや、4人で浜辺を散歩する時間しか内容が出てこない。
スーパースロースローライフ。
今日もキャッキャ言いながら森の間を駆けていた。
そして、彼らが知らない間に私のバフ魔法を受けて身体能力を得ていたコトを今知る。
どうやら、父も母も物心ついて直ぐに親をなくしているのでこちらのかけたバフに気付かなかったらしい。
駆けていたといってもチーター並みの速さで走り回っていた。
だから、突撃された木がへし折れていたのだ。
父も母もそれを見ても不思議に思わないくらい常識を知らなくて安堵。
「こほん。心配させてごめんね」
このバフは軍曹と呼ばれる原因になった余計なもの扱いをしていたものだ。
それがこの世界にあるということは、この世界には魔力のような原子が存在していると見て良い。
「よかったよー。死んじゃったかと思ったあ」
祖父世代は普通に現代の社会に生きていたので必要最低限の知識は父と母にあるが、それでも口伝だ。
それを聞くことしか出来ない彼らからそれを教えてもらう私達の世代になるとさらにシンプルかつ、実物もないので、想像と聞いたことがあるけど無くても死なないのでそういった言葉や単語も姉妹の頭から殆ど無くなっていた。
ほら、英語を習っても日常的に使わねば覚えることは無理だっていうのと同じ。
「ごめんね。コルメ」
そして、我らが生き残れた理由はこの島にあるらしい。
私の8年間の記憶には、ダンジョンらしい建物があった。
父と母は変な生物が暮らす洞穴と思っていて近付いてはいけない所となっている。
祖父母らもなんの穴かよく分かってなかったので、20年以内に出来たか、世界になにか起こったと思われた。
祖父らが漂流した原因もそれにある気がする。
前世の記憶にファンタジーだけど現代の世界といった本はごまんとあったし。
魔力が急に満ちたことによってダンジョンが生まれたのかは定かではないが、今は目の前に迫ってきた母を抱きしめよう。
おぶ!
胸が大きい人らしく、顔が埋まる。
「よかった、よかった」
少女のようなぽやぽやさの母だが、無人島生まれ無人島育ちなら、当然だ。
情操が育まれる余地がなさ過ぎる。
親というより年の離れた姉と兄だ。
実際、彼らは親だからと偉ぶらないし、前世の知識と違う親子の形を成している。
「とーさん、かーさん、ねーちゃんもう大丈夫?」
「どうだろう」
「あー、大丈夫。私、石頭だもん」
「頭を石に例えるなんて、ねーちゃん凄い」
「うちの妹がかわいすぎる!」
「「「え?」」」
三人がきょとんとした顔でこちらを見る。
「あのね、聞いてほしいことがある。私ね、不思議な力を使えるようになったの」
と、手の平を前にやって、水の魔法を発動。
ぷかりと水の塊を手のひらで浮かせる。
「な」
三人はあんぐりとしていた。
「へ、へ」
もしかして、異端として追放されるかも……と思わなくもないんだよね。
「「「凄い!!」」」
杞憂だった。
うちの家族が全員ピュアなせいか。
気絶した時に貴重な水を飲ませてくれた。
なので、水を確保している木彫りの桶に水を入れる。
コップ(木を掘っただけのなにか)に水を入れて三人に渡す。
「飲んでみて」
三人は恐る恐る順番に口をつける。
「お、美味しい!」
「まあ」
「凄い!ねーちゃん凄い」
ぴょこぴょこ跳ぶ妹。
可愛いよ妹ちゃん。
「これは一体なにかな」
「これは、魔法。不思議な力を魔法と呼ぶ」
「魔法……私の両親からはなにも聞いてない」
「私の考えなんだけど、祖父達の時代にはなかったと思う」
「そうなのか?」
「うん。ほら、変な奴らが住む洞穴があるでしょ?そこがダンジョンと呼ばれる、魔力が生まれて出来た場所かも」
「変な人たちが住むあそこね」
母は気味悪そうに俯く。
挨拶しようとしたら石を投げられた事があったと聞いたので、良い思い出はないだろう。
「緑色の生物は多分、ゴブリンとか、小鬼とか呼ばれるモンスターだろうね」
「ゴブリン」
「物知りなおねーちゃん凄い」
妹が居ると自尊心がバベルになる。
「別に狩らなくても良いけど、狩れば狩る程強くなる」
前世の2つにはダンジョンはなかったが魔法があるのは最高である。
「あと、魔法のおかげでワタシは賢くなれたから皆んなの質問にとてもたくさん答えられる」
「ほんと!?じゃあ、じゃあ!空が青いのは?」
「んっうう」
調子に乗りすぎていきなり1つ目でつまづいた。
「わ、分からない。ごめん」
「じゃあ!じゃあ!おねーちゃんが歳上なのは!?」
「妹と競争して母のお腹の中に一番最初に入ったからかなあ」
「おねーちゃんやっぱりすごい」
「私もいいかしら?私達にも魔法は使える?」
「使えるよ」
「「えっ」」
予想していたことと違った反応ににこり。
「素養とか才能とかは関係ない。皆等しく使えるようになる」
三人は目をキラキラさせだす。
「今すぐに好きに使えるようになるんじゃなくて、色々しなきゃいけなくなるんだけど、必ず使えるようになるから」
三人ははしゃいで喜ぶ。
父や母は生活面、妹は面白そうという感じか。
生活はまるっきり原始人だからカツカツだもんね。
ツリーハウスなんて技術もなかったので洞窟の暮らし。
服だって着てない。
誰も見てないし、存在しないから。
父も筋肉質に見えて痩せ気味。
食べ物が少ないから。
「今日は色々整理したい……そうだ!ボール」
無意識にスキル、アイテムボックスを使いサッカーボールを出す。
「トツゼン現れた」
妹コメルは声を震わせそれを見る。
「これはボール。足を使って遊ぶ」
皆に外に出るように足す。
皆ピュアだから素直に行動してれる。
外へ出ると開けた場所に四人で広がる。
サッカーボールを足で蹴る。
何度かレクチャーして4人でで蹴る。
たん、と音が響く。
三人は夢中になって遊ぶ。
ただ、素足だからバフを足にかけて怪我をしないようにコーティングしておいた。
素足で蹴ると痛い。
挫くとここでは死活問題である。
医療などこの島に存在しえない言葉。
「たのしーたのしー」
三人は喜ぶと蹴り続ける。
私はその間にせっせと畑を作る準備をする。
「土魔法。耕す」
感覚を早く取り戻してこの無人島をテクノロジーで埋めたい。
最初はこんなもんだろうと畑を耕し終えた。
「ねーちゃんなにかしてる」
声が聞こえて振り返ると三人共、こちらを見ていた。
「食べるものを育てるところ、作ってる」
「食べ物!?」
ろくなものを生まれてから食べてないもんね。
「なになに?」
「さつまいも」
種ならアイテムボックスに入っている。
美味しいよね。
焼くのも良いから、単純なものを選んでみた。
「食べたい食べたい!」
「流石に今すぐには育たないから」
苦笑して落ち着くように述べる。
家族達が自分たちもやりたいと頼まれて、今や家族にデレデレなエンカはアイテムボックスからニュッと魔法のクワを取り出す。
なぜクワがあるのか。
それは幼い頃に作ったから。
色んな人生を想定して作ったけど、使う事はなく終わったらしい。
死ぬ時の記憶がないのは良く分からん。
クワを渡された三人はクワをこれはなんだろうといった顔で見ている。
鉄で出来たものなんて初めて見たのだから初めての出会いだ。
この島には木しかない。
服も着てないから、硬いものも木だ。
葉っぱはつけない裸族タイプ。
8年間過ごしたからもう羞恥心などない。
獣もロクに居ない。
小動物をちまちま食べて、きのみを口にし凌いできた。
それでもここまで生きてこれた理由はこの島に膨大な魔力があったからだと予測している。
ここまで濃厚な魔力は感じたことはなく、普通なら死んでしまう濃度だが、生まれてからこの島に居る私達は平気になっている。
この島が異常なのかは追々調べたい。
「クワだよ。それは」
「クワ」
「クワ……!」
「硬い!」
妹が楽しそう。
「これでこうやって畑を耕す」
「耕す!耕すってこうか?」
レクチャーを始めて土を叩く。
魔法で耕したから耕す必要はないが、教えておく意味ではやっておこう。
種は埋めておいたし水もやっておこうと水の入ったジョウロを手にする。
「なにそれ!私やりたい」
「ここを持って傾けるんだよ」
仕草を真似して妹はわくわくした顔でやる。
横を見ると父と母もやりたそうにそわそわしていたので同じものを渡す。
「良いのか?」
年長者として譲ることをしてきた父は少し躊躇した。
彼だってゼロの状態で生まれてなにも知らずに育ったのに、譲らねばという気持ちだけ生まれてしまうとはあまりにも不公平だ。
「私達は4人で協力して生きてるんだよ。全員が同じことをするべきだから」
「!、そ、そうか!確かになあ」
父は嬉しそうに笑う。
(私、この人達の為にママになる!!!)
年齢は低いし、彼らの子供だけど精神年齢に関しては誰よりも年上で、教えられるくらいには色々経験している。
教えたいと私は燃えた。
「母さんも。はい」
父と母をそう呼称しているが、彼女たちは単に親をそう呼んでいたからそう呼ばせているだけなんだと思う。
「私にも出来るのかしら」
「出来るよ。軽量化されてて重さなんてないから」
私は自分の言葉が半分も理解されてないことを知っていて説明する。
こちらの言葉がこの世界であっているか不明なので下手に教えられない。
不便だ。
伝われば良いや。
「たのしー!」
「本当ねえ」
水を撒くだけなのに楽しそうだ。
娯楽なんてないもんなあ。
色々したいが、娯楽も同時に行おう。
先ずはシンプルなものだ。
ケンケンパ。
古き良き遊びである。
地面に丸を書いて足を動かす結構体力のいるものだ。
三人が畑に水を浴びさせている間に棒でくいくいと丸を書き込む。
うむ、よし。
丸をたくさん書いて出来栄えに納得する。
「またなにかしてるー!」
「今日は楽しいことがいっぱいあるな」
ニコニコが止まらない3人。
「これは遊び。こうしてこう!」
ケンケンパ、と足を広げて縮めて、片方に跳ぶ。
3人分用意しているので先程のように待たせる事はない。
「面白ーい!キャハハ!キャハハ!」
母も口調はおっとりしているが誰よりも俊敏に動いている。
ステータス的に速さが高そう。
狩りも父と同じくらいしているし、私達と普通に走り回れている。
まだまだ若いもんね。
伸びしろ的には妹だろうけど、この島の魔力濃度が可笑しいので差分なんて無いようなもの。
(さて、次は……水を常に出せるようにしておこう)
家の中(洞窟)に行くと三人は遊ぶのをやめてついてくる。
またなにかやるのかと目をキラキラさせている。
まあ、やるんだから否定はしない。
(それにしても不思議な世界になってる)
戦いの絶えない前世の世界ではダンジョンもなかったのに、この世界にはぽんと出来ている。
それだけ魔力がこの地に溢れているという証だろう。
この世界に私達以外の人類って生きてる??
不安になってきた……。
祖父母達が早くなくなったのはこの魔力も無関係でない可能性があるから、尚更不安だ。
洞窟(我が家)に移動してやったのは水をいれた入れ物を用意することだ。
よっこらせとアイテムボックスから蛇口付きのサーバーを設置した。
ザワッと三人が前屈みになる。
「これは水が出る箱だよ。ここをこうして捻ると」
コップを置いておいたのでそこへシャーッと水が出てくる。
コップもアルミ製品なので割れることはない。
ガラスとかが割れたらだれか怪我をするので。
(上手く動いている)
本来は電気を使うものだが、これは魔力を糧としている。
前世でも魔力濃度の濃い石を嵌めて使っていたが、この空間はそれが必要ないほどの濃度が漂っているので自動で魔力を吸い取って動いているみたい。
「これで好きに飲めたりするよ」
「いつでも飲めるの?」
「うん。好きに飲んで良いよ。なくならないようにしておくから」
「凄い!たくさん飲めるなんて!」
さて、水を飲めるようにしたので次は食べ物だ。
魔力を使えるようになったときからうるさい声が聞こえて、ずっと無視してきたものを振り払い、スキルの1つ目、宇宙ショップへアクセス。
【いらっしゃいませ。こちらは宇宙ショップです。貴方の生活を豊かにしたいです。只今のショップポイント……500万80ポイント】
この宇宙ショップ。
スキルではなく、前世の世界の必需品を得るためのアプリだった。
のだが、今やアクセスも断線されていて使えないはずなのに今でも残っている。
「アイテムボックスが使えているから使えても不思議じゃないか。食べ物食べ物」
水も環境も揃えたい。
食べ物ならば、アイテムボックス内にあるから直ぐに出せる。
「今から美味しいものを出すから皆で食べよ」
先ずは最初にフルーツだ。
最初から豪華なものをだしても困らせるだけかも。
少しずつグレードを上げていこう。
我ながらナイスな判断だ。
鼻高々にフルーツを皿に盛る。
「これなに?黄色い」
黄色でお馴染みのバナナくんだ。
バナナはかなり良いフルーツである。
柔らかくて美味しくて甘い。
というわけで3人にどでんと渡す。
勿論食べ方もレクチャーします。
皮ごと食べかねないと思いながら想像してしまった。
家族に黒歴史を作る事を阻止したい。
「これはねバ、ナ、ナ、っていうの」
「バナナあ」
「バーナナ」
「長くて、くんくん。甘い香りがする」
「ここを剥くと、実が出てきて、そこを、こうして食べられる」
もぐもぐと食べてみせると全員同じ仕草をして食べて開口。
「「甘い!!」」
良かった。
口からビームとか出さなくて。
「甘くて口の中で溶けた!おいちー」
「妹よ。それがフルーツだ」
「フルーツ好き。もっとだべたい」
「食べさせたいのは山々なんだけど、先にご飯でお腹を満たしてからの方が良い」
「ご飯はお腹一杯にならない」
しょんぼりと3人は落ち込む。
きのみとか、リスのような生活をしていたのでひもじい思いを長年していた。
いくら貧乏だからってここまで酷い生活はなかなか類を見ない。
地球の部族だってもっと美味しいものを食べている筈。
魚も何故かモンスターみたいに強いので釣り糸でどうにも出来ない。
しかし!
今は私がいる。
魚でもなんでも捕まえて捌けるんです。
「まっかせて!私が美味しいご飯をお腹いっぱい食べさせるから!」
10号だきの炊飯器をどでんと取り出してご飯を炊き込みご飯の素と共に入れる。
これらも宇宙ショップの商品だ。
買えないのはゴッドだけと散々言われていたのも遠い思い出だ。
なら生命も買えるのかっていうと、買える。
宇宙に倫理観も倫理もない。
キッパリ。
というわけで、倫理観の存在しない宇宙ショップはこの無人島(有人だけど)にとって都会の街よりも品揃えがお化け並みなのだ。
「じゃん!!ごはん!白飯!漬物!」
「おおー」
「白飯って?」
「漬物?黄色いな」
何か知らないからテンションも上げられないのだろう。
しかし、今後は絶対にテンション上がるよね。
いやあ、食べ始めってやつかな。
揃って、みんなは食べる。
ぱくっと恐る恐る口にする様子をニマニマした顔で見守った。
「「「!!」」」
3人とも目を開けたまま固まり、やがて勢いよく食べ出す。
和食のスタートラインに立ったのだ。
ようこそ、この世の美食大国ツアーに。
⭐︎の評価をしていただければ幸いです。