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二十九杯目〔ほんと、ヒドいなぁ〕
「やっと名前、呼んでくれましたね(スッ)」
「おい、立っていいのか?」
「もう大丈夫です。だって、サトウさんが呼んでくれましたから」
「ハ? 名前呼んだだけでケガが治るとか何様?」
「魔王様です。そしてサトウさん、アナタが嫌いなジブンです」
「……」
「けど、やっとジブンを認めてくれました。だからもう大丈夫です」
「名前を呼んだだけで、認めたとは言ってない」
「ならジブンを見てください」
「――あれ? なんか透けてるぞ、おれ」
「はい。でも安心してください。元の世界に戻るだけです。というか、元のジブンに」
「帰りたいなんて言ってない」
「けど本人はそうするみたいです」
「勝手だな」
「ですね」
「……。――また会えるか?」
「会わないほうがいいんじゃないですか?」
「そんなのはおれが決める」
「……――サトウさん、一ついいですか」
「なんだ、早くしろ」
「帰ったら直したほうがいいですよ、言葉遣い。もったいない」
「ほっとけ、バカアホマヌケ……(消)」
「ほんと、ヒドいなぁ」




