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第4話「御守りと、とっさの勇気」



 そのアニメ――『アラシは敗ケズ!』は、俺がまだ小学生の頃に放送されていた。

 原作は少年漫画だったが、可愛いヒロインがたくさん登場する学園ものだったせいか、子供よりも大人からの人気が高かったらしい。


 事実、周りの子供でそのアニメのことを知っているのは俺だけだった。

 当時は王道のバトル漫画やカードゲーム題材の作品が大流行中で、『アラシは敗ケズ!』のような学園ラブコメにハマる男子はそれほど多くなく、いたとしても好きなことを公言できる雰囲気ではなかった気がする。


 たぶん俺もその一人というか、そのせいで周りと話が合わず、友達を作りづらかったという過去がある。


 それでも、俺にとっては思い出深い作品で、子供向けや国民的なものを除けば初めて本気で好きになったアニメだった。

 アニメも原作の連載もとっくの昔に終了していたから、長らく忘れかけていたけれど――、

 まさか、こんな形で思い出す日が来るなんて。


「君も、好きなの? このアニメのこと」


 俺が黙り込んでいたせいか、カートレットさんがもう一度問いかけてくる。

 なにかを期待するような眼差しを向けたまま。


「好きだけど……どうして分かったの?」


 正直な気持ちを答え、訊ね返す。


 すると、カートレットさんは嬉しそうに目を細めた。

 でも、嬉しそうだけど……どことなく寂しそうな笑みにも見えるのは、俺の思い違いだろうか。


「答えは、住吉君のかばんです」

「かばん? スクールリュックのこと?」

「はい――御守りに貼られている、シールです」


 言われて、ようやく合点がいった。

 俺のリュックには子供の頃からずっと持っている御守りをさげている。確か母さんが交通安全祈願にと、どこかの神社で買ってきたものだ。


 その御守りの裏に、『アラシは敗ケズ!』の主人公・アラシ君のシールを貼った覚えが確かにある。

 あまりも昔過ぎて、シールのこと自体忘れていたけど……というか、もう剥げるかかすれるかして、なんのキャラクターかなんて分からなくなってると思っていた。


「そっか、御守りに貼ってたシールを見て……じゃあもしかして、カートレットさんも」

「はい。わたしも、大好きなアニメです」

「大好き……」


 意外、と言えるほどこの子について詳しいわけじゃないけど。


「確かに日本のアニメって、海外で凄く人気があったりするよね。アニメが理由で日本に来たりとか」

「そうですね。わたしは、アニメで日本語を覚えました」

「えっ、カートレットさんが?」

「はい。だが断る、とか」

「あー……」


 確かにアニメだ(原作は漫画だけど)。

 にしても、清楚の塊みたいなお嬢さまの口からこんなセリフが聞けるなんて。

 なんとなく、というか凄くレアな気がする。


「でも、わざわざ俺がこのアニメを好きかどうか確かめるために家まで来るなんて……そんなに気になってたの?」

「あっ――ご、ごめんなさい。迷惑、でしたか」


 途端に申し訳なさそうな顔をされる。いたたまれなくなるほどに。


「いや、そういんじゃないけど……びっくりはしたけど、迷惑ではないよ」

「ほんと、ですか?」

「うん。正直なこと言うと、嬉しいというか。まさかこんな共通の話題があるなんて思ってもみなかったから。悩んでたのがバカらしいっていうか」

「悩んでた?」

「えっ、いや――こっちの話だから。全然、なんでもないから」


 なんで誤魔化してるんだろ、俺。

 素直に言ってもよかったはずなのに――ずっと話しかけてみたかったけど、きっかけや話題に悩んでたって。

 向こうだって、ずっと気になってったって打ち明けてくれたのだから。


「わたしも、嬉しいです。このアニメの話は、できる人少ないです。だから」

「そっか……最近はアニメ映画とかは結構人気だけど、このアニメはちょっと前だしね。同世代では中々分かる人いないかも」

「はい。だから、住吉君が初めてです。わたしの、初めてです」


 ほのかに顔を赤らめて微笑まれ、俺も思わず頬が緩みかける。

 カートレットさんにとっての初めて――初めてのアニメ友達ってことだろうか。

 それほど大それたことじゃないはずなのに、どうしてか堪らなく嬉しい。

 誇らしいというか、なんというか。


「あの……カートレットさんさえよければ、だけど」


 ――この時、本来であればとてつもない勇気が必要なはずの言葉を、俺はごく自然に言い放っていた。


「俺の部屋、寄ってかない? このアニメのDVDとか、コミックもあるし」


 それがどれだけ大胆な行動だったのか。

 自覚するよりも早く、カートレットさんが身を乗り出して答える。


「――――はいっ、ぜひ!」


 普段の気品さとは違う、子供みたいに無邪気の笑顔だった。

 俺が呆気に取られていると、その笑顔にほどなく赤みが差し始める。

 そして今度は、はにかむような笑みへと変わっていった。



お読みいただき、ありがとうございます!


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