第1話「新学期と、高嶺の花」
これといって特別なこともない高校生活も、今日から二年目。
早速、新しいクラスの新しい席まで来た俺は、隣の席の女子を目にして――そのまま視線を奪われた。
「――――住吉君、ですよね? 今日からよろしく、お願いいたします」
少しだけぎこちない日本語の発音。
けれど、そんなことも気にならないくらい綺麗で上品な声。
いいや、声だけじゃなく――目に入るもの全部が美しかった。
耳の上の辺りが三つ編みで結ばれた、長く艶のある黒髪。
サファイアを思わせるようなブルーの瞳。
学校の椅子が高級なテーブルチェアに見えてくるような、気品に満ちた座り方。
見慣れているブレザーの制服さえ、着る者次第でこんなに貴やかに映るのかと見入ってしまう。
それに、なにより――――、
「わたしは、シュファです。シュファ・カートレットといいます。ぜひ、シュファとお呼びください」
まるで異国の王女さまが、国民に優しく微笑みかける時のような眼差しを、とても美しいと感じた。
「名簿で見ました、あなたのお名前。下のお名前はなんと読むのですか? 分からなくて、すみません」
そう質問されて、見蕩れていた俺はようやく我に返った。
「えっと、奉太っていうんだ。住吉奉太」
「ホータ?」
「奉仕するの、奉だから」
俺の方こそ、よっぽどぎこちない説明だった。
たぶん、彼女に向けてる笑顔もぎこちない……というか、笑顔を作れているかも怪しいくらい。
「なるほど、理解しました。教えていただき、ありがとうございます」
「いや、別に……」
相槌もそこそこに、スクールリュックを机の上に下ろしながら席に着く。
――ったく、なにが『別に』だよ。
クールぶってるわけじゃない。緊張して、ただ上手く返事ができなかっただけだ。
こんな時、社交的な奴というか、いわゆる陽キャなら、仲よくなるチャンスだってガツガツいけるんだろうさ。
でも、俺はそういうキャラじゃないし。
こんな絵に描いたような美少女が俺なんかと釣り合うはずがないって、早々に諦めてしまう。
運よく隣の席になれたところで、それ以上の関係なんて望むべくもない。
……まあ、隣を見ればいつでも眼福なわけだし、それだけでも嬉しいけど。
なんて低レベルな満足感に浸っていた時だった。
「――――あっ」
隣の席から、鈴のような声が転がってくる。
振り向くと、青い瞳とまた目が合った。
いや、厳密には俺じゃなく、その視線の先には――――俺のリュック?
「えっと、なにか……」
問いただそうとしたが、ほどなく隣の席はぞろぞろとなだれ込んできた女子勢に囲われ、俺の声が届く余地はなくなっていた。
――この時は俺は深く考えなかったが、たとえ熟考していたとしても、答えにはたどり着けなかったと思う。
そりゃそうだ。誰が想像できたっていうんだ。
学園一の美少女、高嶺の花だって思われている彼女――シュファ・カートレットがこの時、まさかあんなことを俺に言おうとしていたなんて。
絶対に、分かるはずがない――――。
この度はお読みいただき、ありがとうございます!
励みになりますので、続きが気になる、キャラが可愛いなど思っていただきましたら、
ぜひご評価(下記の☆)やご感想の投稿、ブックマーク登録をしていただけると幸いです(*´▽`*)