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サイケデリック・モノクローム ~異能学園成り上がり計画~  作者: ポテトギア
第六章 サイバネティック・テセウス
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接続・虚空:万象を握る知恵の異能

 天薙(アマナギ)恵乃刳(エノク)

 全ての能力者の始まりである波界にいる存在は、そう名乗っていた。ついさっき繋がった時に、確かにそう聞いたのだ。


 そしてその名を、俺達を守るために前に出た天刺(あまざし)さんが口にした。

 まさにその存在――『エノク』へ向けたような小さな呟きののち、天刺さんを中心に力の渦が発生した。


 その光景に、思わず目を疑った。

 水色だったはずの天刺さんのボブカットが、あらゆる色を取っ払ったかのような純白に変わっていく。渦巻くエネルギーの一部が頭上に集まり、灰色の輪を形作った。


 (ひかり)(やみ)の両方に染まり、その両方を受け継ぐための灰色。

 そんな大袈裟な表現も出て来るくらいに、その輪の色は神秘的だった。


「こ、これだぜ、ルッキー」


 彼女の変容を唖然として見つめていた俺の肩を、同じくらい驚いた様子の呼詠(こよみ)がゆすった。


「色は違うけど、さっきのお前、まさにあんな感じだったぞ……!」


 白い髪に頭上の赤い輪。

 俺が波界と繋がった時、俺の外見がそんな風に変わっていたらしい。


 波界からの干渉を受け付けるのは異能力者だけだと『ゴーストタウン』は言っていた。

 俺以外の異能力者も波界の力を借りるだろうと、波界の中でエノクは言っていた。


 という事は、答えは一つだろう。


「天刺さんも、異能力者なのか……!」


 天刺さんの右手が持ち上がり、正面にいる蜂型と蜥蜴型の巨大機械に向けられた。敵は今まさに、雷撃と火炎の能力を放とうとしている所だった。


「2131、4215……」


 うわ言のように数字を呟く天刺さん。聞き取れたのは最初のそれだけだった。

 恐らく彼女にしか分からない文字列。しかしそれは、この場を一変させた。理屈じゃ説明できないが、そう肌で感じたのだ。


 まるで風に吹かれる紙切れのように、俺達を飲み込むはずだった炎と雷が上に逸れた。敵の能力が制御を失ったかのように見えたが、違う。

 上空でひとまとまりになる炎と雷の渦を見て。そして静かに手のひらを突きつける天刺さんを見て、悟った。


 この瞬間、敵の能力は()()()()()()()()()()


「……っ!!」


 そして、爆発。

 炎と雷の塊が一瞬にして消えたと同時に、巨大機械の中から溢れ出た。まるで炎と雷が奴らの体内に転送されたかのような一瞬だった。

 自らの能力で焼き尽くされた三体の敵は爆散し、バラバラになってコンテナターミナルに散らばった。俺達の方に飛んできた破片さえも、天刺さんのバリアによって全て弾かれる。


 突然の襲撃は、天刺さんの反撃によってあっさりと幕を下ろした。


「みんな、怪我は無い?」


 背を向けていた天刺さんがくるりと振り向く。ふわりとなびく髪はいつもの水色を取り戻しており、頭上の光輪や渦巻く灰色のエネルギーも霧散した。何事もなかったかのような切り替えの早さを見るに、少なくとも俺よりはよっぽど波界のチカラを使うのに慣れてるんだろう。


「ええ、天刺さんのおかげで何とか」


 と、無事を報告した途端、タイミング悪く左手がズキリと痛み、反射的に右手で押さえた。


芹田(せりだ)君、その傷……!」


 もちろん天刺さんには見つかってしまった。

『レッドカーペット』の攻撃で刃に貫かれた左手は簡単に止血して包帯を巻いただけなので、痛みは全然引いてない。傷も開いてしまったのか、包帯はすでに赤くにじんでいた。


「あー、まあこれは今の傷じゃないので、心配するほどでも……」

「どう見てもかすり傷って程度じゃないでしょ。病院に行ってちゃんと診て貰わないと」

「いやそんな、病院に行くほどじゃ――痛っ」

「まだ痛むんでしょ? ちゃんと治してもらいなさい。芹田君は治癒能力での応急処置も出来ないんだからなおさらよ」

「はい」


 強めに言いつけられ、俺は素直に頷いた。あまり大ごとにしたくなかったし親にも心配かけたくなかったんだけど、隠し切れない怪我をしてしまったのなら諦めるしかないか。


「それから、後ろの二人も一緒に来てもらうわよ。話を聞く前にきちんと治療しないと」

「や、アタシらはホントにかすり傷なんで」

「駄目よ。女の子なんて特に肌を大事にしないと。傷でも残ったら大変よ」

「……う、うっす」


 奇類が一瞬で手懐けられた。こんな性格だしあんな戦い方だし、女の子扱いされるのは慣れてないのかもしれない。天刺さんに気遣うように言われ、奇類は反射的に頷いていた。


 かくして俺達は、天刺さんが呼んだタクシーに乗せられて、三人仲良く病院送りになってしまった。





     *     *     *





 プリズム・ツリーの現メンバーにして、今回の件で一度も表に立っていない人物が一人だけいる。

 その者はコンテナターミナルの端、海に面するガントリークレーン上部にある機械室の上に立ち、一部始終を見守っていた。


「……火は消えた、か」


 鍵霧(かぎり)輪音(りんね)

 大きなコートやロングパンツで全身を隠しており、機械の仮面をつけているせいで顔も見えない少女だ。


 彼女の目的は、コンテナターミナルでの出来事が無事に終わるまでの観察。また、周囲に邪魔をする不審者が居ないかの監視だった。鍵霧の能力は呼詠達とは違って正面戦闘に向いていない能力であるため、『ゴーストタウン』からこの役割を与えられたのだ。


 そして眼下では、ちょうど駆け付けた管理局員が新たな巨大機械を破壊し、脅威を退けた所だ。


「予想だにしない広がりを見せた炎も、消えてしまえば同じか」


 いつものように不可解な事を口にする彼女の言葉を聞くのは、彼女の背後に浮かぶ一体の霊だけ。機動力に長けていない鍵霧の移動手段として、『ゴーストタウン』が渡したテレポート能力を持つ霊だ。もっとも、その霊が聞いた音を誰かが拾う訳でもないため、結果として鍵霧の言葉は誰にも届いていない。


 ここで起きた戦いを高みから全て見ていた鍵霧は、コンテナターミナルの外へ向かって歩き出した芹田達を一瞥する。さすがにこれ以上イクテシアによる悪足掻きは無さそうだ。これで本当に、この事件は終幕だろう。


 そんな事よりも。

 彼女の頭に残っているのは先ほどまでの戦いの光景だった。

 芹田と管理局員の女性が見せた、『白髪と光輪』という共通点のある変異。それも興味深かったが、彼女の関心はもっと基本的な所にあった。

 彼らの能力についてだ。


「能力を打ち消す能力……」


 考えを巡らせながら、鍵霧は黒い手袋をはめた手をそっと顔に持って来る。そして、仮面を外した。

 強い風がコートの裾やフードをはためかせる中、彼女の口から洩れる()()()()()()()()()()、真夏の蒸し暑さと海辺の涼しさが混ざり合うコンテナターミナルの空気に溶けた。


「それに、能力を操る能力、か」


 誰にも見えない高所で素顔を晒した彼女は、誰とも合わせる事の無い暗い紫(マルベリー)色の瞳で、二人の『異能力者』を見下ろしていた。その姿と先ほどまでの戦いを、目に焼き付けるように。


「あの能力なら、私を……」


 その一言だけは、いつもの彼女とは違い、着飾らず零れ落ちた本音のように聞こえるものだった。その呟きに続く言葉は無く、それは彼女しか知らない。

 再び機械の仮面をつけ直した彼女は踵を返す。背後で待機していた霊に近寄り、そのテレポート能力で消えた。


 大きな爪痕を残したコンテナターミナルには、もう誰も残ってない。

 深層機関とプリズム・ツリー。社会の裏に潜む二つの組織がぶつかり合ったこの戦いは、すぐに闇へ捨て去られるだろう。


 ――同じ闇に染まった手が掴み、拾い上げるその時まで。

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