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サイケデリック・モノクローム ~異能学園成り上がり計画~  作者: ポテトギア
第六章 サイバネティック・テセウス
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アマナギエノク

 意識を取り戻した俺が最初に見た景色は、深紅の衝撃波に跳ね返されバラバラになるコンテナだった。その衝撃波は全て、俺の体から放たれていた。


芹田(せりだ)、くん……?」


 後ろから真季那(まきな)のか細い声が聞こえた。振り向こうとしたが、体が動かない。そこでようやく、体の操作が『彼女』に委ねられているという事に気が付いた。


 テロリストに攫われた時は意識すらなく一瞬の出来事だったが、今回は視覚や聴覚などは共有されている。まるで映像として体験しているかのように、見えているのに何も感じない。不思議な感覚だ。

 まだ定着が浅いと言ってたし、何度も波界と繋がっていれば、そのうち体も自由に動かせる日が来るのだろうか。


 まあ、今はそんな事はどうでもいい。

 目の前で浮遊しているクラゲに似た巨大機械を、破壊するんだ。


 巨大機械の十数本ものアームが一斉に動いた。念動力や重力操作などの能力で俺を直接止める事は出来ないと判断したのか、人間の胴体ほどの太さがあるアームを直接振るって潰しにかかった。


『俺』は一歩も動いていなかった。体中から能波が溢れるのを感じながら、氷細工を叩き割るかのようにあっさり砕け散るアームを視界に入れていた。

 次々とアームが迫るが、ことごとく破壊されていく。『俺』の立つ地面が衝撃に耐えかねるようにひび割れ、周囲の空気が渦巻いているように感じる。破壊の性質を付与された能波が吐き出されているのが分かった。


 俺のものではないチカラを振るう『俺』は、目の前の何かを捕まえようとするように右手を持ち上げる。

 直後、赤い閃光が目の前の巨体を貫いた。


 雷撃や光線なんて貧弱なものじゃない。形を持った『破壊』そのものを直接押し付けたかのような、重なる全てを吹き飛ばす光だった。それは巨大機械の本体を貫き、大きな爆発を生んだ。


 数多の機械部品が降り注ぐ中、俺はある物を見つけた。体の自由が効いていたなら、目を丸くして驚いていてだろう。

 骨のような白い管や神経のような細い糸が根のように無数に生えている、人間の脳が入った円柱形の容器。それが三つ。あれこそ、イクテシアの手によって無理やり巨大機械にされた能力者たちの『本体』なんだろう。


 ――彼らの事も、俺が終わらせてあげないと。


 同じことを考えたのか、操られる『俺』が纏うエネルギーの渦が膨張する。

 粉々になった機械の残骸を飲み込むそれは、辛うじて『生きている』状態の脳を、完全に破壊した。機械と生命の狭間に取り残された命を、俺の手で断ち切った。


 消滅。

 そう呼ぶに相応しいくらいの、跡形も無い破壊だった。


 ――全部、終わったんだな。


 荒れ狂う力が霧散した。波界との接続が切れたんだろう。『俺』を支えていた全ての力が消え、自然と体が後ろへ倒れる。


「っとあぶねぇ。大丈夫か?」


 頭を打ち付けるより先に、倒れる俺の体が支えられた。こちらを覗き込むのはピアスを付けた青年の顔。


呼詠(こよみ)……?」


 声が出た。体の制御は俺のもとに戻って来たらしい。

 ぼんやりしていた意識が戻る数秒の間で、呼詠と奇類(くるい)が降り注ぐコンテナに潰された映像が、俺の脳内にフラッシュバックした。


「え? 呼詠? 大丈夫だったのかお前!?」

「おいおい、そっちからはどう見えたんだよ。俺もソラっちもピンピンしてんぜ?」


 そうは言ったものの、顔や腕にはかすり傷程度の怪我をしており、肩には僅かに血が滲んでいた。だが、重傷ではなさそうだ。

 コンテナの陰から両腕の無い男を引っ張て来る奇類も、同程度の状態だった。二人とも無事だったんだ。


「つーか、今はそれより……」

「……っ!!」


 呼詠の顔に影が差したのを見て、俺は状況を思い出した。

 支えられていた体をどうにか起こして、すぐに真季那のもとへ駆け寄る。右半身が破壊された体を仰向けにして、頭に手を添えて少しだけ持ち上げた。


「大丈夫だ真季那、もう終わった! すぐに博士の所に行こう!」


 薄っすらを目を開けた真季那は、弱々しく被りを振った。むき出しになった機械の小さな駆動音に混ざって、消え入りそうな声が零れる。


「私はもう、だめだよ……機械だからね、ハッキリと、分かっちゃうんだ。もう助からないって……」

「そんな事言うな! まだ生きてるんだ、いくらでもやりようはあるはずだ!」


 口ではそう言っても、残酷なほど理性は正しく働いていた。重要な部位が壊されたら動けなくなるのは、機械も人間も変わらない。

 彼女はもうすぐ死ぬ。


「さいごに、博士と会えなかったのは、残念だけど……ひとりじゃないから、いいかな。六年ぶりに、きれいな空も、見れた……」


 こんな時にも、真季那は笑っていた。

 薄い桃色の瞳を青空へと向けて、ずっと探していたものを見つけたかのように微笑んでいた。


「芹田くん……それから、みんなも、ありがとね。こんなにたくさん、味方がいてくれて、うれしいよ」

「当たり前だろ。俺たちは困ってる能力者の味方だ」

「オマエも凄いぜ。アタシらが来るまで逃げ切ったんだからな」


 呼詠と奇類も、どうにか明るく振る舞っているのが、声だけでも分かる。


 俺はひとつ誤解していた。

 プリズム・ツリーにとって真季那のような能力者は、救うべき者の一人でしかないのだと思っていた。けど、そうじゃないんだ。『一人でしかない』のではなく、彼女も『大切な一人』なんだ。


「それと、芹田くんには、ひとつ謝らなきゃ」

「謝る……?」

「このお洋服。せっかく買ってくれたのに、ダメになっちゃった。似合ってるって、言ってくれたのに」

「何言ってんだよ。服なんてまた、いくらでも……」

「でも、これは無事でよかった……お気に入りだからね」


 桜模様のホログラムが浮かぶ、バッジのついた帽子に左手を添えて、真季那は脱力したように顔を綻ばせた。


「やっぱり、芹田くんは優しいね。今日会ったばっかりの人と、お別れするだけなのに……そんなに、悲しそうな顔を、してくれるなんて」

「馬鹿言え……お前はもう他人なんかじゃねぇって言っただろ。大切な、友達だ」


 駄目だ。やっぱり駄目だ。

 真季那はここで死んじゃいけない。俺とほとんど同い年の彼女が、潔く死を受け入れて良いはずがない。最期まで笑顔を絶やさないような強い彼女を、ここで死なせていいはずがない。


「諦めてられねぇよ……」


 人の都合で理不尽に巻き込まれ、人生を台無しにされた少女の最期がこんな形だなんて、絶対にあってはいけないんだ。


「絶対に、死んじゃ駄目だ。駄目なのに……」


 俺は、彼女の助け方が分からない。明らかに修復は困難な怪我。もう長くは持たない事は、見れば分かる。

 動かす事もままならない様子の左手を、優しく握った。まだ微かに温もりが残っている。この手が冷めるまで、俺には何もできない……。


「君の言う通りだよ、芹田流輝(るき)。ここに無くなっていい命なんて一つもない」


 声は背後から。

 穏やかであり芯のある声が、スマートバンドからの通信ではなく、直接耳に届いた。


「『ゴーストタウン』……」


 振り返ると、白髪を肩まで伸ばした青年がそこにいた。


「助けてあげられなくてすまなかった。念波遮断機のせいで霊も近付けなくてね」


『ゴーストタウン』は横たわる真季那を挟んで俺と反対側の位置まで歩き、片膝を突いた。


「あなたは……?」

「『幽霊の人』だよ。直接話すのは初めてだね」


 いつもの柔らかな笑みを真季那へ向ける『ゴーストタウン』。

 彼の傍には二体の霊が浮いていた。そうか、こいつの霊なら真季那を救えるかもしれない。


「なあ、今すぐ真季那の傷を治せないか? ここでは無理でも、どこか設備の整った所に……」

「延命は出来るけど、完全に修復する事はできない。僕も機械に詳しい訳じゃないからね。それに設備のある場所と言っても、深層機関に追われているうちは、まともに休める場所なんて無い」

「そんな……何か方法は」

「あるよ。ひとつだけ」


 いつもの柔和な笑みを引っ込めた真剣な表情で、『ゴーストタウン』は真季那を見下ろした。


「アイナ――いや、真季那愛依(あい)、だったね。君を助ける方法がひとつだけある。けれどそれは……人として生きる君にとっては、とても辛い道かもしれない。今以上に、人として生きられない道だ。それでも、生きる事を望むかい?」


『ゴーストタウン』は静かに問いかける。真季那はゆっくりと頷いた。


「叶うなら……もっとみんなと、一緒にいたいな」

「分かった」


 その短い答えに詰まっている彼女の想いを聞き届け、彼は微笑んだ。


「しばらくは不自由すると思うけど、必ず元に戻してみせるよ」


 真季那の頭に手を置いて、そっと目を伏せる『ゴーストタウン』。

 彼の体から、じんわりと光が零れた。それに連動するように、真季那の体も淡い桜色の光を発し始めた。


 そして、その光が()()()()()


「これって……」


 横たわる真季那の上に現れたのは、霧のように揺らめく人型の影。

 桜色の『霊』だった。

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