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サイケデリック・モノクローム ~異能学園成り上がり計画~  作者: ポテトギア
第六章 サイバネティック・テセウス
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闇は煌めき、極彩色となりて

真季那(まきな)!!」


 何の前触れもなく、真季那の右半身が消滅していた。右腕や右足、胴体も半分ほど無くなっており、あまりに広すぎる傷口からは血の代わりに黒い液体とショートした機械部品の電流が溢れ出ていた。

 彼女の傍には粉々になった部品が転がっているが、彼女の消えた体積とは明らかに一致しない。まるで見えない力で根こそぎ吹き飛ばされ、残骸がいくらか零れ出たかのようだ。

 その惨状を目の当たりにし、周囲の音が遠ざかり、耳鳴りだけが頭の奥に響いていた。


 敵の攻撃……念動力か? 敵は奇類(くるい)呼詠(こよみ)に気を取られているふりをして、真季那の動きをずっと待っていたのか。どうしてこうなるかもしれないと思い至らなかったんだ。敵の目的は最初から真季那だったはずなのに。


 突然の出来事で足が動かず、思考だけが回転し続ける。だが、うつ伏せに倒れたままゆっくりと顔を上げた真季那の物悲し気な微笑を見て、我に返ったように足を動かした。


「しっぱい、しちゃったな……」

「真季那! しっかりしろ!」


 体を起こそうとする真季那に手を伸ばすも、抉れた肩口から弾けるスパークが皮膚を焼き、反射的に手を引っ込める。

 生身の人間だったらほぼ即死であろう重傷だが、まだ意識はあるようだ。だが、機械の体と言えどもこの損傷だ。すぐに処置を施さないと長くは持たないかもしれない。

 すぐにでも博士と合流すればどうにか……。


「ぐっ……!」


 頭が割れるような甲高い音が耳をつんざいた。さっきから聞こえていた耳鳴りは気のせいじゃなかったのだ。

 まさかあの巨大クラゲ、音響兵器でも載せてるのか?


 音に釣られて眼前に浮かぶ巨大機械を見上げる。いびつな本体の頂点に、黒い杭のような機械が顔を出していた。大きな杭は花弁のように表面を広げ、耳障りな音を響かせていた。

 音は徐々に小さくなっていくが、頭の隅で奇妙な不快感がずっと残り続けている。この感覚に、俺は覚えがある。


「なんで、あれがここに」


 間違いない。星天学園を襲ったテロリストが使っていた、広域念波遮断装置だ。音の不快感や装置のシルエットまで、何から何までそっくりだ。

 どうして国家直属の研究機関がテロリストと同じ装備を使っているんだ? それも管理局すら持っていないような、改造された最新式の遮断装置を。


 いや、違う。正確には、あれは『パレット(テロリスト)』の物ではない。

 テロリストのリーダーと通信していたボイスチェンジャーの人物が、彼女らに支給したような口ぶりで会話していた。通信の向こうにいた人物を、リーダーの女性はなんて言ってたっけ。


 確か、『スターダスト』とか――


「おい芹田(せりだ)! 何突っ立ってんだ!」

「っ!」


 巨大機械の向こう側から奇類の切羽詰まった大声が届き、俺は現実に引き戻された。そうだ、今は戦いの最中なんだ。考え事をしている場合じゃない。


「どういう訳か知らねぇが能力が使えねぇ! 作戦は中止だ!」

「分かった! 一旦退いて――」


 俺達の会話は、浮いていたコンテナが地面に激突する音で遮られた。

 巨大機械の念動力によって空を漂っていたコンテナが雨のように降り注ぐ。それらは全て、能力が使えない状態で逃げる奇類と呼詠がいた場所へ集中的に襲いかかっていた。


「……っ」


 言葉が出なかった。血の気が引いて行くのが自分でも分かる。いくら能力が強く戦闘に長けた二人でも、能力が奪われてしまえば逃げる事すらままならないはず。


「大丈夫、だよな? 二人とも……」


 息つく暇もな無かった。

 目垂れ下がるアームが地面を穿つ。追い打ちをかけるように地面を覆う氷は急速に広がっていく。

 アームを中心に均等に広がる氷のフィールドは、俺と真季那の方へも向かって来た。


 立ち尽くす俺へ、生きたように広がる氷が襲い掛かる。

 だが俺の体に触れた直後、氷はそれが当然であるかのようにあっさりと砕け散った。目を瞬かせた俺は、一瞬遅れてその事実に気が付いた。


「能力が、発動した……?」


 どうして俺だけが、いつもと変わらず能力が使えるんだ。念波遮断装置が動いているのに。俺は奇類たちとは違うのか?


 ――そうだ。明確に違う存在だ。


 狼狽する俺の意識を叩きつけるかのように、瞬間的に記憶が蘇る。


『ゴーストタウン』は言っていた。

 俺やあいつは特殊能力者とは一線を画す、全く異なる能力者――異能力者であると。特殊能力者と異能力者の違いは様々だと言っていたが、その一つが念波遮断装置の信号を受け付けないという物なのだろうか。


 それに、違いはもうひとつある。俺も実際に体験した事だ。


 東京西部を消し飛ばした『裂け目』、その奥に広がる波界。

 異能力者は、その中にいる存在(ナニモノカ)の干渉を受け付けるくらいに、強い繋がりを持っているという。


「……聞こえてるか」


 俺は小さく呟いた。自信は無い。成功する確証も無い。けれど、これしか道は残されていない。


「波界の中で、見てるんだろ?」


 最後の手段に手を伸ばす俺の声は徐々に大きくなる。俺と真季那を潰そうと浮かび上がるコンテナを見上げながら、俺の意識はここでは無い場所へ向けられていた。


「見てるんなら、もう一度力を貸してくれよ……テロリストの隠れ家をぶっ壊した時みたいなチカラを」


 奇類と呼詠が無事なのかも分からない。真季那はもう危ない状態だ。このままでは俺も、隠れている『レッドカーペット』も、みんな殺される。人の命を弄ぶような連中の計画通りに、俺達は消されるのだ。


 そんな事は絶対に許さない。だが残されたのは、圧倒的な質量の前にはあまりにも無力な『無能力者』がひとりだけ。

 だからもう、あとは祈るしか無かった。全てを解決してくれるような絶対的な力に。


 神にでも、縋るように。


「俺達を……みんなを、助けてくれ!!」


 迫りくるコンテナの影を最後に、俺の意識は闇に閉ざされた。





     *     *     *





【この短期間で二度目か。月一のペースで接続するような力では無いんだけどね】


 何も見えない。上下の感覚も無い。ただひたすらに闇が広がるだけの空間で、俺はひとつの声を聞いていた。

 耳で音を拾っている訳ではない。そう直感する。脳内に直接刻まれるかのような不思議な声だった。


【君の言う通り、私は見ていたよ。君達が窮地に立たされているという事も知っている】

「……なら、助けてくれよ。お前にはそれが出来るんだろ?」


 返事が来るかも定かではない声と、俺は無意識に会話を試みていた。

 ここはどこか、今はどうなっているのか。そんな疑問は不思議と浮かんで来なかった。何故だか、この闇は落ち着く。


【出来るよ。私が体を動かすとはいえ、実質的に手を下すのは君な訳だけど】


 返事が来た。数多の声が重なっているかのようにぼんやりと響く声だったが、明るく歓迎されているような気がした。少女の声……?


【君の能力は生まれた後から与えられた借り物の力。定着するまでしばらくは、本来の力は自力では引き出せない。そう教わったよね?】

「お前……俺と『ゴーストタウン』の会話を聞いていたのか?」

【まあね。異能力者が二人、私の事について話していたんだ。気になるのも無理はないと思わない?】

「やっぱり。その口ぶりだと、お前が波界の中にいる存在か」

【正解】


 闇を漂う俺の前に、小さな光の粒が現れた。


【聞きたい事は山ほどあるだろうけど、残念ながら今は気兼ねなく話せる状態じゃない。波界との接続は、そう長く行っていいものじゃないんだ。それ相応のリスクと、小さいけれど決して無視できない代償が伴う】


 光の粒は次第に数を増やし、やがて星空のように闇を彩る。


【でも、異能力を全力で引き出すにはどうしても波界(わたし)の力を使わなければいけない。全ての根源たる能波を司る異能力とはそういうものだからね。君だけじゃなく他の異能力者も、必要とあらば私の力を借りるだろう。だから君も、また私に会いに来るかもしれない】


 闇に浮かぶ無数の光が耀きを増し、無限の色を映し出した。そこに見えるのは、どこまでも続く極彩色(サイケデリック)な空間。


【君は他の異能力者よりも定着が浅いぶん頻繁に、より深く繋がってしまうだろうね。だから忘れないで。力を得られるぶん、波界との接続は代償が伴う。ここは深淵。覗くだけならいいけど、決して身を投げちゃ駄目。この世に全能なんて存在しないの。君は目の前の世界を忘れないで】


 目の前に広がる極彩色が段々と白く塗りつぶされていく。それと共に意識も鮮明になっていく気がした。


【ここで聞いた全てを覚えておいて。この深淵は虚空。この舞台装置の名前は――】


 闇は極彩色に、そして白になった。俺の意識は薄れていく。いや、これから目覚めるのか。


【私の名前は天薙(アマナギ)恵乃刳(エノク)。みんなの事を、ずっと見てるよ】


 前にも感じた、魂が抜けるかのような浮遊感と共に。

『彼女』の声を聞き届けた俺は、どこかへと引きずり込まれていった。

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