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サイケデリック・モノクローム ~異能学園成り上がり計画~  作者: ポテトギア
第六章 サイバネティック・テセウス
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エクステンド

 巨大な地響きが俺達を襲ったのは、『レッドカーペット』との決着から間もない頃だった。

 地震のような強弱のある揺れではなく、途轍もなく重い物を引きずっているかのような一定速度の揺れが続いた。


「な、何だ?」


 不可思議な揺れに驚く俺達の耳に届いたのは、振動の終わりと同時に聞こえた大きな破砕音。音のする方を向くと、ターミナルの一画にある倉庫の一つが内側から弾け飛んでいた。大質量の『何か』が天井を突き破って飛び出したと分かったのは、それから一秒も経たない後の事。


 目の前に、全長五メートルを超える巨大機械が降りて来た。


「おいおい、改造能力者の次は巨大ロボかよ……」


 立方体と球体の中間のようないびつな形の本体から、三メートル前後の長大なアームが十数本も伸びている、クラゲのようなシルエットの巨大機械。突如として姿を現したそれは、俺達の前で()()していた。


『レッドカーペット』を打ち負かしたこのタイミングで、現代の技術じゃ到底不可能だと一目で分かる巨大機械の登場。

 コレがイクテシアからの襲撃であると勘付かない者はいないだろう。


「んだよコレ……あんなバカでかい機械が浮いてやがんぞ。イクテシアはUFOでも隠し持ってたのか?」


 クラゲのような巨大機械を見上げながら、奇類(くるい)が一歩前に出た。

 その直後、十本以上ものアームを生やしている本体の表面に、電子基板のような紋様が浮かび上がった。


 何かが来る。

 そう予感した直後。二本のアームが鋭い先端でもって地面に突き刺さり、そこを基点として一瞬で地面が凍り付いた。

 それも、ただ凍っただけじゃない。人の胴体よりも太い氷の棘が地面から突き上がったのだ。それらは俺達へ向かって急速に伸びている。


「これは……能力!?」


 直感的にそう感じた俺は、奇類の手を引いて後ろへ下がらせ、最前線に立つ。鉄板をも貫けそうな太い氷の棘が俺の体に触れた途端、それは制御を失って粉々に砕けた。

 俺の能力が発動した。この凍結は科学技術によるものではなく、誰かの特殊能力だ。


「ルッキーが防いだって事は、マジで能力なのか!? あの中に能力者が乗ってるって事かよ!」

「いや、それは違う」


 驚愕のあまり目を剥く呼詠(こよみ)に否定を返したのは、両腕を失った『レッドカーペット』。彼は巨大機械を睨みながら後ずさる。


「能力者が乗っているんじゃない。アレは()()()()()()()だ」

「は? どういう意味――」


『レッドカーペット』の返答よりも先に、巨大機械が動いた。

 数多の触腕を空中で振るったかと思うと、周囲のコンテナが次々と浮かび上がった。そして、俺の能力がまた何かを打ち消した。


「ぐ、ああぁ……」

「クソ……体が(おめ)ぇ」


 後ろから苦しそうな声が聞こえる。振り向くと、俺以外の全員が地面に膝と手を突いていた。まるで不可視の重圧に耐えているかのようだ。まさか、これも別の能力?


 すぐに全員の体に触れると、奇類達を縛る重圧は消え去ったようだ。

 しかしのんびりしている暇は無い。クラゲのような巨大機械の周囲には、俺達を簡単に潰せてしまえるコンテナが沢山浮かんでいるのだから。


「みんな逃げろ!!」


 お次は念動系の能力だろうか。見えない力で浮かび上がったコンテナが次々と降り注ぐ。機動力のある奇類と呼詠に真季那(まきな)と『レッドカーペット』を任せ、俺達は一目散に走り出した。あれだけの質量、たとえ俺が能力で打ち消して勢いを殺したとしても押しつぶされてしまう。

 すぐ傍で響く轟音に足がすくみそうになるが、必死に体を動かしてコンテナの裏に隠れた。降り注ぐコンテナと重なって運良く死角になったおかげで追撃は来ない。


「なんだよアレは……! 氷結に念動力、アタシらが食らったのは増幅された重力か? 三つも能力を使いやがって……」

「あの野郎の事、お前は何か知ってるんだよな」

「……噂程度に、だがな」


 呼詠の言葉と共に全員の視線を浴びて、『レッドカーペット』は口を開いた。


「『デザインシリーズ』。俺のように能力に関わる部位だけを改造し『拡張』するのではなく、能力者の全身を改造して機械によって限界まで『拡張』させたものだ。そして、拡張された能力者を()()()()()()()()()()。そうして完成したのがあの巨大クラゲ、『デザイン:シーネットル』だ」

「能力者をひとつに……それって、あの中に少なくとも三人の能力者が一緒に入ってるって事か……?」

「言っただろう。入ってるのではなく、アレが能力者そのものだと。あの本体には骨格や神経細胞に至るまで、三人分の肉体と脳が継ぎ接ぎになって混在している。もはや人としての意識など無く、ただ能力を吐き出すだけの肉体。それに機械という外骨格を装備しているんだ」

「何だよそれ……」


 つまり、中身をほじくり出した人形をデタラメに縫い合わせたようなモノ……三人の能力者があの機械と同化していて、人としての意識すら存在しないって事か。

 能力だけは傷付けないよう改造しながら、人の体をいたずらに弄って繋ぎ合わせて。


「……どこまで人を冒涜すれば気が済むんだよ、イクテシアは」


 話を聞いただけでも怒りがこみ上げて来る。人を人だとも思ってない研究に、人としての尊厳を踏みにじるかのような所業に、気持ちが悪いほどの憤りを覚える。


「私みたいなアンドロイド・イデアとは違うアプローチで『能力を操る機械』を造り上げたって事だよね。私も初めて聞いたよ……」

「どっちも最低な方法である事に変わりはねぇよ。問題はどうやって切り抜けるかだ」


 コンテナが破壊される音が断続的に響く。俺達が隠れていそうな所をしらみつぶしに調べているのだろう。見つかるのも時間の問題だ。


「またアタシが突っ込んでぶっ飛ばせればいいんだが……あのデカさじゃ決定打にはならねぇかもな」

「そう言う事なら、最後は俺に任せてくれ」


 俺は震えそうになる右手を握りしめた。


「あんな質量をブレなく浮かせてるんだ。念動力か重力操作か知らないけど、能力で浮かせているはず。なら俺が触れるだけで落とせる」

「となると、ルッキーをあいつの所まで運ぶ手段が必要だな。つっても、俺やソラっちの能力で運ぼうにも打ち消しちまうだろ? どうすっかな……」


 無効化能力が決定打になりうるのに、その無効化能力のせいで味方の機動力が活かせない。我ながら難儀な能力だ。

 でも、待てよ。

 打ち消さずに能力で運ばれた事が、一度だけあった気がする。


「そうだ、確か黒影(くろかげ)に抱えられて大ジャンプした事がある。その時あいつは脚力だけを強化してたから、腕の中にいた俺の無効化が届かなかった、けど……今は現実的じゃないか」

「だなぁ。能力抜きでルッキーを運べるとなると俺ぐらいだが、俺の移動は自分をまるごと地面と並行に公転させる事で成り立ってる。下半身だけに能力をかけたら踏ん張り切れずに倒れるか、最悪足がもげちまう」

「そうか……」


 博士も真季那も絶対に逃がす。その為にまずは、あの巨大機械を無力化しないといけない。

 通信妨害でもされているのか、さっきから『ゴーストタウン』とは連絡が取れない。俺たちだけで切り抜けないと……。


「だったら、私が芹田(せりだ)くんを運ぶよ!」

「え?」


 俺達の話を聞いていた真季那が、拳をぐっと握って進言した。


「能力を使わずに、使うとしても上手い具合に調整しながら芹田くんをあのクラゲロボまで運べばいいんでしょ? なら私が適任だよ」

「適任って、どういう事だ?」

「私の全身が機械になってるのは知ってるでしょ? しかもそれはただの機械じゃなくて、より頑丈に、より速く動けるよう設計されてるの。()()()()()()()()()()()()()()()()。私はそれがなんでか分からなかったけど、私を次の『カラーコード』にしようとしてたって話を聞いた今ならそれも納得。つまりね、私はいろんな戦闘が難なくこなせる程度には力持ちだし、足腰も強いんだよ」


 今の真季那なら、浮遊する巨大機械のもとまで俺を抱えてジャンプできるって事か。


「それに私の能力があれば、無力化した後の機械にトドメを刺せるはず」

「お前、能力使えるのか?」

「私はプロジェクトA.I.唯一の成功例だもん。生身だった頃と比べたらいくらか弱まってるけど、能力自体は問題なく使えるよ」


 真季那はニッと力強い笑みを浮かべた。


「私の能力は電子操作系統、触れた機械に走る電気信号を自在に増幅できる能力なの。流輝くんがヤツの能力を無力化した後に、私が触れさえすれば」

「回路を焼き切って完全破壊、って事か」

「そう言うこと」


 ただ俺を運ぶだけじゃなく、能力を無効化した後のトドメまで担当すると彼女は言い切った。

 確かに、浮力を失って落下しただけで破壊出来るとは限らない。機械の回路を直接破壊できるという真季那の能力があれば、最小限のリスクであの巨体を始末できそうだ。

 守る対象である真季那を戦力として戦わせる事に抵抗が無いとは言えないが……。


「分かった。お前の力も貸してくれ」

「任せて! みんなでここを突破しよう!」


 明るく笑う彼女に勇気付けられ、俺達はすぐに動き出した。


 奇類と呼詠が敵の注意を引き付けている間に、俺達が裏から回り込んで懐に飛び込む。作戦と言うには大雑把なものだが、皆にはそれをこなせるだけの能力がある。そう信じている。


「何探してんだぁデカブツ! 捕まえてみやがれ!!」


 奇類がアクロバティックに駆け回りながら敵をかく乱している。隙を突いて呼詠が回転能力でコンテナをぶつけようとするも、念動力によって容易く受け止められていた。やっぱり単純な能力の強さじゃ敵に分があるようだ。ここは短期決戦で行くしかない。


 二人が派手に暴れている隙に、俺と真季那は浮遊する巨大機械の背後まで移動する。本体から垂れている十数本のアームの先端は、地面から二メートルほど浮いた位置にある。あそこに俺と真季那が触れるだけでチェックメイトだ。


「正体を知ったうえで見ると、改めてゾッとするな……」


 何人もの能力者を継ぎ接ぎにして作り替えられた巨大機械、『デザイン:シーネットル』。倫理に反する非人道的な研究の産物が、威圧的な外観でもって地上を睥睨している。

 犠牲になった人達の為にも、イクテシアに関わってしまった俺達の手でヤツを終わらせるんだ。


「よし、いくぞ!」

「うん!」


 隠れていたコンテナの影から、俺を抱えた真季那は飛び出した。自分と同年代の少女に横抱きにされるのは何とも不思議な感覚だが、今はそうも言ってられない。巨大機械の傍まで接近する事への緊張が勝っていた。


 視界が動く。機械の脚となった真季那のスピードは、俺を抱えているにも関わらず素早い。電気信号を操作する能力を使って、機械の体をより効率的に操作できるのかもしれない。この分だとアームまではひとっ飛びだろう。


「……っ!?」


 不意に、視界がぐるんと一回転する。

 全身に小さな痛みが走り、不安定なまま地面に投げ出されたと気付く。


「真季那、どうし――」


 起き上がりながらの言葉は、途中で喉に詰まってしまった。

 うっかり躓いて俺を手放してしまったのかと思ったが、そうじゃなかった。


 俺から少し離れた所で倒れていた真季那の右半身が、削り取られたように消滅していた。

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