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サイケデリック・モノクローム ~異能学園成り上がり計画~  作者: ポテトギア
第六章 サイバネティック・テセウス
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正義の犯罪者

 地下街を出てからは一度も襲撃を受ける事無く、最初に苦戦したのが噓のように順調に進めた。だがそれでも、『ゴーストタウン』が言うには少しずつ距離を縮めているらしい。一筋縄ではいかないみたいだ。


 新たに呼んだ強力な霊による足止めが効いているのは確かだが、それ以上に、敵は俺達の位置を一度も見失わずに追跡している。やはり俺達の居場所を知る何らかの手段があるのだろう。そうなると、その手段をどうにかしない限り完全に振り切るのは不可能かもしれない。


 アイナ改め真季那(まきな)が言うには、発信機などはイクテシアを出る際に博士が入念に調べて全て除去してくれたらしい。なら位置がバレてるのは仲間の能力か。無いとは思うが、追われているのは俺の方だったりするか……?


芹田(せりだ)くん、もうすぐだよ!」


 周囲を警戒しつつ思考を巡らせながら走っていると、やがて目的地であるコンテナターミナルが目前に迫っていた。東京湾からの潮風が走り続けて汗だくの体を洗い流し、意識をハッキリとさせてくれる。

 海上コンテナを運ぶガントリークレーンや輸送車や警備まで、ほぼ全てが機械による自動化がなされている。警備さえ突破すれば、脱走者同士こっそり落ち合うにはもってこいの場所だろう。


「私一人じゃ警備を突破できないから、本当は侵入一歩手前で博士と合流してから潜り抜ける予定だったんだけど……今なら行けそうだね」

「今は少しでも追っ手から距離を離しておきたいからな。『ゴーストタウン』、いけるか?」

『もちろん。すぐに警備システムをハッキングする』


 能波汚染区域に入った時と同じように、霊の能力によって何事も無く警備をパスできた。

 後は隠れながら博士の到着を待つか、それとも。


『敵が霊の包囲を突破した。注意してくれ』

「やっぱ来るよな……」


『ゴーストタウン』からの警告から数秒と経たないうちに、背後から爆発音が響いた。警備ロボが破壊されたのだろう。国家の手先だからって派手にやりやがる。


「あと一回くらいは顔を見ると思ってたぜ……『レッドカーペット』」


 黒煙の向こうから、見覚えのある赤髪の男が姿を現した。左腕は既に黒く変色しており、剣のように鋭く変形していた。人間の腕以外の形をしていても光線能力は使えると知っているので、油断は出来ない。


「追いつかれると分かっていても、降伏しようとは思わないのか」

「当たり前だろ。ってか、今更俺が両手を上げた所で許されるとは思えないけどな」


 距離を離して睨み合う俺達。何故か、すぐに攻撃して来る素振りは無かった。


「貴様の事は調べたぞ、芹田流輝(るき)

「え……?」

「貴様が工作員の類ではなくただの学園生だという事もな。外部協力者をあぶり出そうと追跡の手を緩めていたのだが、もしも貴様が本当に()()()()()()()()()()だと言うのなら、命までは取らない」


 俺の事を調べただって……? 国家直属の機関ともなればそれくらい可能なのか。


「真季那を差し出せば俺だけは助かるってか。そんな話があるかよ」

「俺も好きで人を殺す訳じゃない。信じられないだろうが、周辺被害を考慮する必要は無いという上からの指令にも、いい気分では無いんだよ。ましてや任務のついでに、殺める必要も無かった者を殺めるのはどうも不条理に思うんだ。貴様は知らないだろうが、後ろにいる彼女はもう人間では――」

「うるせえ。その話し合いはさっき済ませたよ」


 これ以上、真季那の前で人間としての彼女を否定させたくなかった。男の言葉を遮った俺は、敵対心をむき出しにして睨み付ける。


「真季那は心のある人間だ。少なくとも人の命を材料としか思ってないような深層機関(おまえら)よりはよっぽどな」

「人間か機械かなどの話は不要か……だが、貴様は何故彼女を助ける? それが正義の行いだと勘違いしているのならすぐに手を引け。組織への敵対はこの国への反逆に他ならない。犯罪などというレベルではないのだ。引き際を誤れば、たとえただの子供だとしても容赦なく消されるぞ」

「祖国に逆らうな、とか戦争時代の話かよ。そのお国様が現在進行形で国民を道具にしてる所を見せつけておいて何言ってんだ」


 法の外に出た暴力によって行われる正義は正義と呼べるのか。

 ()()()、汚染区域の廃ビルで交わした議論を思い出す。議論と言うより喧嘩腰の口論みたいなものだったけど。


「『法を守れば法に守られると思ったら大間違い』か……その通りだな」


 能力者というだけで人生を台無しにされてる人が大勢いる。

 もはや手段を選んでいる場合では無く、理不尽は日頃の行いに関係なく牙を剥く。


 まるで俺が近いうちに思い知る事を予知していたかのような、ドンピシャな言葉だったな。関係者――いや、当事者になってようやく彼女の言いたい事が分かった。彼女の想いが、彼女の覚悟が伝わった。


「もう、穏便に済ませようと回り道を探すのはやめだ」


 真季那を庇うように前へ踏み出し、正目から『レッドカーペット』と対峙する。

 その辺で拾った長さ三十センチほどの鉄材を握りしめて、武器のように構えた。


「彼女は殺させない。国とか法とか関係ねぇよ。『俺達』は俺達の正義を貫く」

「……自ら道を踏み外し、罪を犯すと言うのだな」


 俺に光線が効かない事は相手も当然知っている。彼の構えは光線の掃射ではなく、変形させた腕による白兵戦の構えだった。それでも、俺はもう退かない。


「俺達は、深層機関から能力者達を助け出す」


 そう。いつかは、彩月(さいづき)だって――


 強く拳を握って、敵の突撃に備える。右肩と左手は未だ痛みを訴え続けている。どこまでやれるだろうか。


「そのためなら、犯罪者にだってなってやるよ!!」


 俺は咆え、『レッドカーペット』は一歩を踏み出した。その直後。


 巨大な海上コンテナが一つ、『レッドカーペット』を跳ね飛ばすコースで横合いから飛んで来た。


「……!?」


 急に突っ込んで来たコンテナは進路上にあった別のコンテナに轟音を立てて突撃し、半分ほどがひしゃげていた。

 コンテナがトラックのようなスピードで飛んで来たのも驚きだが、俺が注目しているのはその上。地を滑ったコンテナに乗っている人物だ。


「よく言ったな芹田! それでこそアタシらの仲間ってもんだ」


 相変わらずヘアピンやネックレスなどのアクセサリーをじゃらじゃらと特盛にしている少女が、派手なジャケットのポケットに手を入れたままこちらを見下ろしている。二メートル半は高さのあるコンテナから飛び降りた彼女の体は、地面に着く直前にふわりと静止し、あっさりと着地する。


「襲撃作戦に尻込みしてたヤツが随分見違えたじゃねぇの」

奇類(くるい)! 来てくれたのか!」


 奇類千穹(ちそら)。同じプリズム・ツリーのメンバーにして、人助けの為の襲撃について口論した相手だ。


「『ゴーストタウン』に呼ばれてな。機動部隊に妙な動きがねぇか監視する役目だったんだが、呼ばれて来てみりゃ衝突寸前じゃねぇかよ。さすがのアタシも焦ったぜ」


 その割には自信しか感じられない笑みを浮かべている。奇類はニヤニヤしながら俺を小突いて来た。


「それよか、さっきの聞いたぜ。『犯罪者にだってなってやる』だなんて、随分大きく啖呵を切ったじゃねぇか。えぇ?」

「う、うるさいな。復唱するなよ恥ずかしくなってくる」

「あの夜はあんなに迷ってたオマエも、ようやく考えを曲げる気になったってワケだ」

「曲げたんじゃない。ただ覚悟を決めただけだ」

「イイね。そっちのがアタシ好みだ」


 彼女の言葉に続くように、吹っ飛んだコンテナが内側から弾け飛んだ。分厚い鉄を易々と引き裂いたのは、幾本も伸びる真っ赤な光線。


「ま、あれで潰れてりゃ苦労はしねぇよな」


 コンテナへ向き直った奇類は、ガシガシと頭を掻きながら振り向く。


「オマエらは少し離れときな。アイツをぶっ飛ばしてくるからよ」

「奇類一人でか? あいつは手強いぞ」

「俺もいるぜ、ルッキー」


 背後から男の声がした。俺をそんな不思議なあだ名で呼ぶやつなど一人しか知らない。

 声の主――呼詠(こよみ)(ひびき)は、頼もしさを感じる笑みを浮かべて俺の肩を叩いた。ヤンキーにしか見えないので真季那はちょっと怖がっていたが、彼も仲間だ。


「俺とソラっちで組織の野郎をブッ倒す。ルッキーは離れてその子を守ってくれ」

「つっても離れ過ぎんなよ? アイツが急に方向転換したら追い付けねぇかもだからな」


 最後にそう言い残し、奇類は破れたコンテナの奥から姿を現した『レッドカーペット』へ改めて向き直る。


「アタシがプリズム・ツリー最強だって事を、そっからよく見とけ」


 最後に見せた彼女の笑みはどこまでも力強く、獣のように獰猛だった。

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