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サイケデリック・モノクローム ~異能学園成り上がり計画~  作者: ポテトギア
第六章 サイバネティック・テセウス
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生命の拡張

 地下街を出た俺達は、『ゴーストタウン』のナビに従って取り壊し予定のビルへと逃げ込んだ。『レッドカーペット』は霊が足止めしてくれているらしいので、さっさと応急処置を済ませて遠くに離れなければ。


「クソ……ジャケットが買って数分で駄目になったよ」


 血でへばりつくジャケットとシャツを脱ぎ、医療知識も無いので何となくで手当をする。女の子の隣で上を脱ぐのは少し恥ずかしいが、アイナはさっきから俯いてずっと黙っているのであまり気にしないでおいた。いきなり戦いに巻き込まれて気が滅入っているのかもしれない。


 手当と言っても傷を修復してくれる医療ナノマシンや人工細胞の注射器なんて便利なものは、半自動化された昨今の解体現場には無い。今できる処置と言えば血を拭きとって鎮痛剤を塗り、包帯を巻くだけだ。こんな時、治癒能力まで打ち消してしまう自分の能力が恨めしい。


 右肩はまだいいが、左手はそれなりに重傷だ。サバイバルナイフほどはある刃が貫通し、意識が飛びそうなほどの激痛を感じた。出血量だって今まで見た事の無い量だ。今もなお痛みと共に血が流れ続けている。太い血管が裂けなかったのは奇跡だな。


 すぐに引き抜かなければ刺さった刃である程度の止血は出来そうだったが、あのままだと二秒後には光線の餌食だったんだししょうがない。俺の無効化能力が()()()()()()()光線にも有効かどうかなんて、あの土壇場で試す気にはならないしな。


「そう言えば、結局アイツの能力は何なんだ……機械らしき腕はうねるし飛ばした刃からも光線は撃つし。『ゴーストタウン』は何か知ってるか?」


 地面に置いたスマートバンドへ声を投げかけると、返事はすぐに返って来た。


『「レッドカーペット」については調査済みだよ。彼の能力は、君も見た通り指先と手のひらから光線を放つ光学系の能力。攻撃特化の危険な力だね』

「最初は俺もそう思ってたけど、さすがにそれじゃ説明しきれないだろ。変形した腕から三十発以上の光線を撃ったり、体から分離した刃からも撃って来た。思えば始めに、俺達を追って来たドローンが奴と同じ光線を撃って来たのもおかしな話だろ」

『それについても理由はある。彼の能力は指先と手のひらからの光線で間違いない。それ以上の不可解な芸当をやってのけたのは、イクテシアの改造によるものだ』


 改造……そう言えば、『レッドカーペット』はイクテシアのサイボーグ手術を受けた『カラーコード』とかいう改造能力者の一人だと言ってたな。


芹田(せりだ)流輝(るき)、イクテシアの研究コンセプトは覚えているかい?』

「特殊能力の拡張とか何とかだったな。『拡張』ってのがどういう意味なのか分からないけど」

『そのままの意味さ。人間が自分を「自分」と認識する範囲を拡張する事で、副次的に能力の出力領域を拡張しようという研究さ』

「……??」


 分かりにくい表現に、思わず包帯を巻く手が止まる。


「もう少し分かりやすく頼む」

『特殊能力には明確な効果範囲が存在するものが一定数ある。「腕を硬質化させる能力」だったり「口から火を吹く能力」だったりね。君の「変質させた能波を体に纏う能力」も、通常時は「自分の全身」という範囲が定められている。能力者の学園に通う君なら、他にもいろんな能力を見て来ただろう』

「そうだな。俺のクラスメイトにも『流体を拳に纏わせる』能力者がいる」


 ああいう能力の範囲は広くなったり狭くなったりするが、『拳に纏う』などの条件そのものは変わらない。星天学園生は定期試験の度に能力を測定しているが、変化があったとしてもミリ単位の変化でしかない。


『ここでひとつ考えてみてくれ。例えば「腕を硬質化させる」能力者がいたとしよう。もしも彼が事故で両腕を失ってしまい、肩から指先まで全部義手に取り換えた場合、能力は正常に発動すると思うかい?』

「……確かに、どうなるんだろう。義手も硬質化するのか?」

『正解だ。彼の能力の効果範囲である両腕は肉から機械になったものの、そこに腕がある限り能力の対象になる。では次だ。もしも更なるサイボーグ手術によって()()()()()()()()()()()()、硬質化はどこまで効果を及ぼすだろう』

「なんだそれ……随分変な例えだな――いや、待てよ」


 少し考えた所で、ピンと来た。思わず包帯を巻く手に力が入ってしまい左手が痛んだが、たどり着いた仮説の衝撃でそれどころじゃなかった。


「まさか、それがイクテシアの『能力の拡張』……!?」

『その通りさ。能力の効果範囲を無理矢理付け足す事でどこまで能力を大きくできるか。イクテシアはそれを研究しているんだ』


 サイボーグ手術による能力の強化。確かに、今こうやって順序立てて説明されれば、その研究が秘める可能性に気付く事が出来る。


『腕を変異させる能力者の「腕」はどこまで増やせるのか? 身体強化能力の「身体」はどこまで外付けできるのか? イクテシアの実験記録からはそんな改造実験が数多く見つかったよ』

「……」

『脳への薬物投与による自己意識の認識操作と、サイボーグ手術による物理的な身体の肥大化。それにより人間と機械の境界を曖昧にさせていった末に誕生したのが、イクテシアの「能力拡張技術」。そしてその最高傑作こそが「レッドカーペット」さ』


 想像しただけでもおぞましい。能力の事を知るために脳と体を無理やり弄くり回すなど、倫理に反する非道な研究の分かりやすい例じゃないか。


「『レッドカーペット』も能力を拡張している……本来手からしか放てない光線をいろんな所から撃てたのは、改造によって手の範囲を『拡張』していたから……?」

『ああ。彼の両腕は磁力で結合する無数のナノマシンと液体金属で構成されている。言わば金属のスライムだ。それによって本来固定されているはずの「指先」と「手のひら」の領域を自在に移動・分割する事ができるようになったんだ。三十発の光線は、手のひらや指先に位置する部分の金属を分割し再配置する事で光線の発射口を増やしていた。ドローンや刃など体と分離しているはずの物からも光線を撃てたのは、能力の発射口となる部分を予め結合させていたからだろう』

「なるほどな……そういうカラクリだったのか」


 つまり、飛ばして来た刃もあいつにとっては手の一部……感覚的には鋭い指を飛ばしてたようなものか。

 機械によって能力の起点となる箇所をずらしたり分裂したりする事で、光線の発射口を変える事ができるなんて。もはやあいつの両腕全てが指先であり手のひら。どこから攻撃されてもおかしくないという訳だ。


「まあ、仕掛けが分かった所で俺に能力は効かない。警戒するべきは奴の腕そのものだな」


 自由自在に伸縮する両腕や高速で射出される刃は十分脅威だ。けど能力ではなく普通の金属である以上、射程も無限じゃないし物理法則は無視できない。今まで以上に距離を取って逃げれば攻撃範囲からは逃れられるだろう。アイナに光線を向けられたとしても、俺が打ち消せば問題ない。


「つまりは、今まで通り全力で逃げればいいって事だな」


 応急処置を終えた俺は、キットを適当にまとめて服を着る。痛みは消えないが、簡単な手当だけでも走る事はできる。


「待たせたなアイナ、もう少し走れるか? ……アイナ?」


 俺が立ち上がっても、アイナは膝を抱えたまま動かない。


「もしかしてどこか怪我して――」

「芹田くん。ここからは一人で行くよ」

「え?」


 返って来たのは、予想外のそんな一言だった。


「今すぐ降参すれば、芹田くんだけでも助かるかもしれない。今ならまだ引き返せるはず」

「は……? 何言ってんだよ。どうしたいきなり」


 ようやく顔を上げたアイナは、悲しそうな目をして俺を見上げていた。


「最初に助けてくれた時は、芹田くんの事は何も分からなくて、脱走に協力してくれるならありがたく力を借りようと思ってたの。こっちの事情は全部知ってるみたいだし、巻き込んでも別にいいかなって思ったの。最低な考えなのは自覚してるよ」


 アイナは力なく笑い、キャップに付けられたバッジに手を添える。


「でも、私の決意はそんなに固いものじゃ無かった。たった二時間一緒にいただけの間柄だけど、私にはもう、芹田くんをただの他人だとは思えない。芹田くんにはこれ以上血を流して欲しくないよ。これ以上、私達のせいで誰かに傷付いて欲しくない。この件にあなたが命をかける理由なんて無いでしょ?」

「……なるほど、そう来たか。だから手を引いて欲しいって?」


 俺は再び、アイナの隣に腰を下ろした。


「悪いけど、俺はここで逃げないよ。なんと言われようとな」

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