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サイケデリック・モノクローム ~異能学園成り上がり計画~  作者: ポテトギア
第六章 サイバネティック・テセウス
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事件の裏で

 時は少し遡り、芹田(せりだ)とアイナが逃走を始めた頃。

 星天学園本校舎では、双狩(ふがり)永羅(えら)が帰省のための外泊申請を出すために職員室へ向かっていた。


「芹田も彩月(さいづき)もいないんじゃ暇ねー。私も同じ時期に帰っとくんだったわ」


 ぶつくさ言いながら職員室まで歩く双狩。しかし扉が開いた瞬間、出て来た人とぶつかりそうになり慌てて身を引いた。

 職員室から出て来た男性は知らない顔だった。プロテクターのような物を身に付けているのを見るに、ここの教員ではなく警備員か何かだろう。彼は一人の教員と話しながら足早に去って行く。


(警備員がうろつく高校ってのもウチぐらいでしょうねぇ)


 そう思いながら何気なく見送った双狩だが。


「その……本当なんですか? 芹田君が事件に巻き込まれたというのは」


 警備員の男性と共に歩く教員の口から出た言葉に、双狩は足を止めた。一瞬遅れて振り向くと、二人は既に廊下の先へ歩いていた。


(あいつが事件に……? どういう事!?)


 双狩は慌てて後を追う。普通に声をかければいいものを、いつも芹田の事を知るために後をつけている時の癖で、透明化までして尾行する形になってしまった。少しだけ離れているが、二人の会話は問題なく聞き取れる。


「能力を持つ黒い髪の高校生が事件現場にいると連絡がありましてね。しかし、その後行方が分からなくなってしまったみたいで」

「そんな事が……彼はこの前もテロ事件で攫われたというのに、大丈夫なのでしょうか……」


(全くよ。どんだけ災難に巻き込まれてんのよあいつは)


 心配する教員に、思わず心の中で便乗する双狩。


「ですので先生、芹田君に埋め込んだ発信機の位置情報を共有していただけないでしょうか。我々管理局の者が必ず彼を保護します」

「そういう事でしたら了解しました。まさか暫定的な対策として導入されたインプラントがこうも早く必要になるとは……」


 テロ事件で生徒を一人誘拐されてしまった学園側の対策として、外泊者には万が一の際に位置を特定できるようインプラントが埋め込まれる事になっている。そしてまさに今、事件に巻き込まれてしまったという学園生を救助するために効果を発揮する所のようだ。


(というかあの男の人、管理局の人なのね。管理局が出て来るって事は能力絡みの事件でしょうし、そうなると芹田は少し安全って事になるのかしら……? 何にせよもっと話を聞きたいけれど……)


 後をつけられているとも知らずに、二人は教員専用の部屋に入ってしまった。流石に入ってしまっていいものかと躊躇している内に扉が閉じてしまったので、中に入るのは諦める事にした。無断で忍び込むとなれば、バレたらこっぴどく叱られそうだ。


(あいつの事は心配だけど、管理局の人を信じるしかないか)


 知り合いが事件に巻き込まれていると聞いてしまえば無事が分かるまでモヤモヤするが、いち生徒が踏み込むには限度というものがある。

 諦めて職員室に戻ろうと、透明化を解いた時だった。頭の中でふと何かが引っかかった。


(あれ? 管理局の実働部隊って確か、みんなスーツを着てるって言ってなかったっけ)


 あれは確か、学園の警備として管理局から派遣された、実働部隊員の鎖垣(さがき)と芹田の会話に聞き耳を立てていた――もとい()()()()()()()()()()時の話。

 実働部隊員がいつも着ているサラリーマンのようなスーツは、実は戦闘にも使える特別製だと鎖垣本人から聞いたのだ。


(でも管理局を名乗ってたあの男の人は特殊部隊みたいなプロテクター付けてるし……そういう部隊もあるだけかしら。私の考え過ぎ?)


 このまま疑問を横に置いて職員室へ行く事もできず、しかしあの男性に直接聞くのも何となく怖い。双狩は廊下の真ん中で行ったり来たりしていた。


(今からでも鎖垣さんか穂道(ほみち)さん探して聞いてみる? でも本当に芹田が危ないならもう出動してたりするかな……)


 決断出来ず小さな円を描くようにその場でぐるぐる足踏みしていた双狩のスカートから、ひらりと何かが零れ落ちた。視線を落としていた双狩はそれに気付き、腰を屈めて拾う。


「あ、これって天刺(あまざし)さんの」


 それは文字が印刷された紙製のカード。昏睡した針鳴(じんみょう)八柳(やなぎ)のお見舞いに行った際に偶然出会って渡された、天刺亜紅(あく)の名刺だ。スカートのポケットに入れっぱなしになっていたようだ。


「……そうだ! 天刺さんって確か、実働部隊の隊長だったわよね」


 名刺には『特殊能力管理局実働部隊チーム・ダイアモンド隊長』と長々とした肩書がしっかり記されてあった。


「鎖垣さんもダイアモンドとか言ってた気がするし、きっと同じチームのはず。学園生が関係する事件なら天刺さんも知ってるかもしれない……!」


 紙の名刺など今どき学生はもちろん社会人ですらなかなか見かけないだろう物だが、こんな時に役に立つとは。昔の物を好む天刺の趣味に感謝しつつ、双狩は急いでスマートバンドを起動した。





     *     *     *





「はぁ、やっぱり駄目ね」


 一方、特殊能力管理局庁舎のラウンジにて、コーヒーの入った紙コップ片手に一人休憩中の天刺は大きなため息を吐いていた。


「『スターダスト・ネットワーク』の手がかりは深層機関の前身組織にあるかもしれないっていう(れい)さんの言う通り、『スターゲート』っていうのを調べてみたけど……驚くほど何も出てこない」


 周囲に誰もいないという事もあり、ついつい独り言が零れてしまう。

 机に置いたデバイスから浮かび上がるホログラムパネルを頬杖を付いて眺めながら、アイスコーヒーをちびちび啜る。


「深層機関なんて公的には存在しない組織だし、その前身組織となれば当然国家機密だろうし。いくら私でもアクセスできるはずないけど……犯罪調査を邪魔されてるみたいで何か釈然としない」


 水色のショートボブの上から頭を押さえ、ホログラムパネルに表示される『キーワード:スターゲート 該当事件数:0』の文字を半眼で見つめる。

 実働部隊隊長の権限なら、データバンクに眠っている過去の事件記録も大体は閲覧できる。しかし、『スターダスト』で調べると頭が痛くなるほど関連事件が出て来るのに、『スターゲート』でキーワード検索をかけると一つも出てこないのだ。

 他にも実働部隊の別チームの記録を確認したり調査部隊の事件調査を隅々まで調べてみても、手がかりらしきものは一向に見つからない。


 一応、名前が似ているものとして『星門(ほしかど)研究所事件』についても調べてみたが、六十五年前の事件だけあって、関連性は見当たらなかった。


「この分だと調査部隊の方もネットワークの特定は出来てなさそうね……かと言って、私が出張った所で収獲がある訳でも無い。今は『ゴーストタウン』事件に専念しろっていう神のお達しなのかしらねぇ」


『スターダスト』と『スターゲート』。似ているだけで、実際は関連性なんて無いのかもしれない。そもそも犯罪組織の捜査は実働部隊の役割から外れているものだし、ここは追加の情報を待つのが正解か。


「いいえ、繋がりがある以上無視は出来ないわ。『スターダスト・ネットワーク』の影響は広がり続けている。社会にとって十分な驚異よ」


 何度目かも分からないため息を零す前に、芽吹きそうだった弱音をコーヒーで流し込んだ。


 星天学園のテロ事件以前にも『スターダスト・ネットワーク』の名前が出て来る事はあった。しかし、ネットワークの関与がみられる事件は全て、テロリストや裏社会に染まり切った犯罪組織だけだった。

 だが今は違う。先日宝石店を襲った大学生らのように、少し前まではただの一般人でしかなかった人間にまでネットワークの影響が及んでいるのだ。


 まるで、身を潜めていた闇の底から、何か良くない物が這い上がっているかのような。そんな言い知れぬ不気味さを感じた。


「こうなったら、私以上に深層機関について知っている人に……局長に直接話を聞きに行くしかないか」


 机に広げていたホログラムパネルを消してデバイスを懐に仕舞うと、さっそく局長室へ向かおうと立ち上がった天刺。

 その行動力や事件に対する執念は他の局員も見習うべき点ではあるだろうが、過程をすっ飛ばしていきなり組織のトップへ話を聞きに行く豪胆さは、少し抑えた方がいいのかもしれない。


 そんな彼女の動きを止めたのは、登録していない番号からの着信だった。スマートバンドを起動し、ひとまず通話を繋げる。


「もしもし、天刺です」

『あの、双狩です。この前貰った名刺を見てかけたんですけど……今大丈夫ですか?』

「双狩ちゃん? ええ、大丈夫よ。ちょうど休憩中だし」


 椅子から浮いた腰を再び下ろしながら、天刺は明るく声をかけた。

 仕事が思うように進まなくて悩んでいる様子も、子供達の前では見せないように努める。


「学園はまだ夏休みよね。今日はどうしたの?」

『その、今校舎にいるんですけど、ちょっと不審に思った事がありまして』

「不審な事?」

『管理局の人が先生と話してたのを聞いたんです。芹田のやつが事件に巻き込まれてるって。天刺さんは何か聞いてますか?』

「……いいえ、報告は受けてないわ」


 天刺の声がワントーン下がる。スマートバンドを通話状態にしながら他の着信やメッセージが来ていないか確認するが、事件の報告は無い。

 チーム・ダイアモンドのメンバー、鎖垣と共に星天学園へ派遣された穂道や彼の属するチーム・ターコイズのメンバー、その他管理局の人間からも、何の通報も届いていない。


「何も来てないのはおかしいわね……その先生と話してた管理局員っていうのは鎖垣君?」

『いえ、知らない人です。「我々管理局の者が――」って言ってたんですけど、スーツじゃなくてプロテクターみたいな防具付けてたんですよ。だから少し不審に思って……私の考え過ぎだったらすみません』

「……そんなこと無いわ。教えてくれてありがとう」


 いつも気の強そうな双狩だが、今回は直接話した時よりも控えめな声色だった。友人が事件に巻き込まれていると聞き、しかもその人物が怪しく思えたと言うのだから、不安になるのも無理はない。


「もし本当に芹田君が事件に巻き込まれてたとしても、すぐに私達が駆け付ける。だから安心して。真っ先に連絡してくれたあなたの判断は正しいわ」

『はい……ありがとうございます、天刺さん』


 通話を終えると、局員室へ向かおうとしていた足はチーム・ダイアモンドの情報作戦室(オペレータールーム)へと向けられた。


(鎖垣君でも穂道さんでもなく、実働部隊の(スーツ)を着ていない……双狩ちゃんが見た人は間違いなく()()。管理局の名を借りて何をしようとしているのか知らないけど、何かの事件ならすぐに通報があるはず。ならいつでも出動できるように情報を集めましょう)

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