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サイケデリック・モノクローム ~異能学園成り上がり計画~  作者: ポテトギア
第六章 サイバネティック・テセウス
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協力者たち

 ぐるりとフェンスで囲まれたとあるビルの建設予定地にて、二人は出会った。

 アイナと別れて逃走していた博士と、『ゴーストタウン』の連絡で彼のもとに駆け付けた黒影(くろかげ)だ。


「危ない所だった。助かったよ」

「あなたが黄晴(きはる)博士で間違いないか?」

「ああ。となると、君が黒影神夜(しんや)君だね」


 向かい合う二人の足元には、全身にプロテクターを着た人が三人倒れていた。その傍らには人数分の銃も見られる。

 彼らは博士を捕らえるためにイクテシアから出動した機動部隊であり、たった今黒影によって全員あっさり倒された所だ。


「それにしても、話に聞いていた通り本当に髪が黒いんだね。けれど能力はちゃんとあるみたいだし、むしろ機動部隊員をものの数秒で片付ける程の実力だ。彼女から少し()()()だとは聞いていたけど、不思議な子だね」

「……まあ、人と大きく違う事は事実だ。詳しくは話せないが」

「おっと。余計な詮索はしないであげて欲しいと言われてたんだった。気を悪くしたなら謝るよ」

「いや、別にそこまででは無い。話せる事は後で話すつもりだ」


 常に無表情なため感情が読みにくいが、悪い子ではないはずだ。博士は肩の力を抜くように柔らかい笑みを浮かべた。


「まあ容姿の事を話すなら、第一にその黒いコートが気になるけどね。熱中症になるよ?」

「俺は体温調節機能が人と違うようだし、特に問題はない。あなたの白衣も暑そうだが……」

「実はすーっごく暑い。脱いでしまいたいけど、ポケットに大事な物が入っててね」


 博士は手で顔を仰ぎながら、汗の一滴も流れていない黒影を不思議そうに見ていた。が、すぐに真面目な表情に切り替えた。


「それはそうと、どうして僕が機動部隊に捕まりそうになってた事が分かったんだい? 君とはコンテナターミナルで合流する予定だったはずだけど」

「実は俺と虹利(にじり)さんの他に、あなたに言っていない他の協力者がいるんだ。彼らも深層機関について知っていて、今回の脱走作戦に協力している。そしてその内の一人から、あなた達の脱走がイクテシアに気付かれていると連絡を受けたんだ」

「他の協力者……それは安全なのかな?」

「それについては俺が保証する。彼らは味方だ」

「そうか……虹利が信じろと言っていた君が認める人なら、ひとまず疑いは仕舞っておくよ」


 博士とアイナがイクテシアから脱走するにあたって、彼らは外部協力者として二人の人物を頼っていた。一人が、博士の知人であり今回安全な逃走先を用意してくれる虹利という女性。そしてもう一人が、案内役として二人を待つ予定だった黒影神夜だ。


 本来ならばアイナと博士が別々に逃走を開始し、コンテナターミナルで黒影と全員で合流するはずだったのだが、イクテシアの動きが想定より速かったばかりに、博士は機動部隊に、アイナは『レッドカーペット』に襲われてしまった。そしてそこに、『ゴーストタウン』の指示の下、プリズム・ツリーが助けに入る事となった。

 これが脱走開始から現在に至るまでの流れだ。


「深層機関の事を知った上で歯向かう者が他にもいるとは驚きだけど、今はありがたく力を借りるとしよう。そのプリズム・ツリーという人達が神夜君の仲間なら、今後も関わる事がありそうだしね」

「俺からは信じてくれと言う他無いが、そう言ってくれると助かる。微妙に流れは狂ったが、ここからは予定通りコンテナターミナルへ向かうので間違いないか?」

「いいや、その前にひとつやるべき事がある。神夜君には悪いけど、少し付き合ってもらえるかな」

「やるべき事……?」

「そう。僕の逃走よりも優先すべき、大事な事さ」


 博士は気を失っている機動部隊員の傍に屈み、彼らの所持品を手にとっては戻し、また手に取っては戻す。まるで何かを探しているかのように。


「今回イクテシアの追っ手から無事に逃げ切れたとして、この先ずっと隠れながら暮らす訳にもいかないだろう? 国外にでも逃げない限り深層機関の網からは逃れられない。かと言って、国家機密を握った僕達の渡航を許すほど上層部は甘くない」

「虹利さんは監視網から逃れられる隠れ家を用意したとは言っていたが、確かに()()()については何も言っていなかったな……何か考えがあるのか?」

「もちろん。そのために死体漁りをしてるんだよ」

「殺してはいない」

「お、これかな」


 黒影へ話しながら、博士は機動部隊員の懐から板状の端末を取り出した。


「それは?」

「ただの通信機だよ。深層機関は世間的には存在しないとされている組織。もちろんその機動部隊も、正規の資格をもって武装している訳じゃない。仮に何も知らない警察官に職質されても、追い返す正当な理由が無いんだよ」

「つまり違法って事か……?」

「まあそうだね。しかし見ての通り、この建設予定地は僕を追い詰めるために一時封鎖された。そして万が一にも警察や管理局などの治安当局が介入しないよう、上層部の命令によって情報的にも封鎖されているんだ。何が言いたいかというと、深層機関の機動部隊は警察や管理局と同等の権限を持ち、なおかつ彼らとの『繋がり』を持っているという事さ」


 博士が白衣のポケットに突っ込んだ手を再び出した時には、中から何かのコードが伸びていた。コードの先にあるプラグを機動部隊員の端末に差し込むと、機動部隊員の操作しか受け付けないはずの端末が博士にも使えるようになった。この即席のハッキングツールこそ、博士の言っていた『大事な物』なのだろうか。


「話は分かったが……管理局に通報した所で助けなんて来ないだろう。むしろ居場所を教えているような物じゃないか?」

「もちろん、ただ助けを乞うために通信するんじゃない。()()のためさ」


 博士は端末から顔を上げ、真剣な顔で黒影へ伝える。


「僕はイクテシアが行っている、上層部としても看過できないであろう『不正』の証拠を握っている。これを材料に、僕とアイナの安全を取引するんだ」





     *     *     *





「まともな服着たの久しぶりだなぁ」


 試着室から出て来たアイナは、着ている服を物珍しそうに見下ろしながら呟く。それから試着室の前で待機していた俺の方を向いて両手を広げた。


「どうかな、似合ってる?」


 白Tシャツにデニムのサロペットパンツを重ね、スニーカーやキャップも合わせてボーイッシュな感じにコーディネートしてみた。病衣だけよりも断然良いと思うし、印象もだいぶ違って見える。これなら変装としての役割も申し分ないはずだ。


「ああ。バッチリ似合ってる」

「じゃあコレにする!」


 外に出て初めての買い物がこんな形になってしまったが、アイナは楽しそうだった。

 服一式の購入となると学生の懐には大打撃だったが、この着替えは確実な逃走への助けになるはず。金で安全が買えるのなら安いものだろう。


「ねえ、これも買っていい?」


 例によって手に置いたままのスマートバンドで残高を確認していた俺へ、アイナは手のひらサイズのバッジを見せて来た。しかしそれが缶バッジやプラスチックの類ではなく精密機械だと言う事は、彼女がそれを取って来た棚を見るとすぐに分かった。


「ホログラムアクセサリーか」

「見ててね。これを帽子につけて、こうすると……」


 アイナは被っていたキャップを取ると、左側面にピンでバッジを取り付けた。そして被り直し、バッジの裏側にあるスイッチを押す。

 すると、バッジが小さな光を帯びた。光は一瞬で広がり、キャップに沿うように小さな桜模様が浮かび上がる。

 五枚の花弁は髪と同じピンク色。ホログラムで映し出される十センチほどの桜は、さっぱりとした服装にワンポイントの華やかさを加えていた。


「ほら! 綺麗でしょ? ミラーズ社の新商品なんだって」

「ほ、ほう……また上等な物に目を付けたようで……」


 ちらりと値札を見ると、思ってた値段の倍は書いてあった。ホロアクセって高いんだなぁ……。


「まあ、気に入ったんならそれも買うか」


 新発売のアクセサリーを付けるだけでも『普通の少女』としてのカモフラージュには向いているだろう。そんな算段を抜きにしても、彼女に似合っているのだし。

 何より、アクセサリーの一つも買ってあげられないなど男が廃る。今までおしゃれとは無縁の生活を強いられたアイナのささやかなお願いを、俺の小遣い事情如きで無下にする訳にはいかないしな。


 お金については忘れる事にしよう。これもアイナの命と未来がかかった大事な作戦に必要な出費なのだ。

 俺も変装用のジャケットを一枚購入し、着替えて店を出た。アイナの病衣は貰った紙袋に入れる。これで普通の買い物客に紛れ込めるはずだ。


「よし。気を取り直して、コンテナターミナルへ向かうぞ」

「うん! 靴も履いたからもう足も痛くないしね」

「ずっと裸足だったもんな。怪我とかしてないのか?」

「大丈夫大丈夫。こう見えて私強いから」


 ドヤ顔で筋肉をアピールするように腕を掲げるが、残念ながら細い腕はちっとも動かない。良くも悪くも肉が付いていなかった。今心配してるのは腕じゃなくて足なんだけどな。

 さっきまでも足を気にしていた様子も見られなかったし、本人が大丈夫だと言うのなら怪我はしてないのだろう。


「とりあえず真っ直ぐ進むか。イクテシアの追っ手は俺達が地下に潜った事は気付いてないだろうし――」

『二人とも、今すぐ走るんだ』


 突然、手元から『ゴーストタウン』の警告が飛ぶ。その声はいつもと違って焦りの色が見えた。


「どうした!?」

『後方十五メートル、「レッドカーペット」が追って来ている。君達に気付いている!』

「なにっ!?」


 俺とアイナは揃って足を速めた。首だけで振り返り、驚きのあまり息を吞んだ。


 目が合った。

 赤い髪を逆立たせた男性の視線が、人混みの向こうから真っ直ぐ俺たちを射抜いていた。

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