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サイケデリック・モノクローム ~異能学園成り上がり計画~  作者: ポテトギア
第七章 必要なもの、必要とされるもの
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そして、動き出す

 体育祭前日。

 星天学園の全敷地を会場とした設営準備は、全校生徒が分担しても半日を要するものとなるだろう。(たちばな)先輩曰く、例年の比ではない忙しさらしい。


 実行委員会でも特に中心にいた俺も他人事ではない。橘先輩が三年生の指揮を執っている間、俺は一年生と二年生の準備を監督する仕事を任されていた。


「一年生はテントの組み立てが終わったら図面通りに並べてくれ。慌てたら危ないから、調整は念動系の能力でゆっくりな。二年生は各グラウンドへの機器設置だ。第三グラウンドは特に使われるから、カメラの位置や角度は慎重に。分からない事があったら俺か各クラスの実行委員に聞いてくれ」


 集まる一、二年生達にタブレット端末片手に指示を出していく。実行委員には完成予定図も忘れずに送る。

 そうしているうちに、各々の仕事をしている生徒が集まって来た。


芹田(せりだ)。投影装置がいくつか壊れてるみたいなんだけど、予備とかあるか?」

「体育館裏の倉庫にあったはずだ。古いのと新しいので仕分けされてるから間違えるなよ」

「先輩! 電子部、放送席の機材設置が完了しました。他に何かありますか?」

「ありがとう。撮影用ドローンの自動化プログラムが上手くいってないらしいから、情報部の手伝いに行ってくれ」

「芹田来てくれ! 大至急!」

「はいよー」

「芹田君こっちも!」

「ちょっと待ってー」


 指示を出すだけなんてそう大変な仕事でもないと思っていたが、それは全面的に間違いだった。

 今年の実行委員会の中心的人物は四人。彩月(さいづき)鏡未(かがみ)、橘先輩、そして俺。

 本来ならばこの四人が他の実行委員を動かすはずだったのだが……彩月と鏡未は熱量が先走るあまり、ただジッとして指示を出すのが耐えられなかったらしい。結局現場に出て、言葉ではなく行動で皆を引っ張る形になった。


 なので、現場指揮者は実質的に俺と橘先輩の二人だけ。しかも先輩は生徒会役員としての仕事まであるので、俺が二学年を担当する事になったのだ。おまけに各部活との打ち合わせの仕事も前に引き受けた都合で、部活単位での作業監督もする事になった。この忙しさも仕方がない。

 と言っても、これが終われば仕事もひと段落つくはずなので、もう少しの辛抱だ。


「せんぱーい、大きい方のテントってどこにありま、す……?」

「ああ、予備がいくつか第一グラウンドに積まれ」

「第一グラウンドですねありがとうございます失礼します!!」

「あれ?」


 テントの場所を聞きに来たらしき一年生が、最後まで聞かずに猛スピードで走り去ってしまった。

 背を向ける直前、視線が俺の後ろへ向いてから急に顔色が変わった気がするけど……。


 ゆっくり振り向いてみるとそこには、泣く子も黙る笑顔の風紀委員長が。


「実行委員は忙しそうだね、芹田君」

「なんだ……岸華(きしばな)先輩でしたか。めっちゃ恐い顔の先生でもいるのかと思いましたよ」

「ここの生徒は、私がどんな顔をしていても同じ反応をするんだけどね」


 自分を見て後輩が逃げるように去って行った事を知りながらも、先輩はニコニコといつもの笑みでそう言った。

 さりげなく視線を巡らせてみると、さっきまで近くにいた生徒達は皆、ゆっくりだがハッキリと距離を取っていた。きっと委員長だけじゃなく他の風紀委員もこんな避けられ方をしているんだと考えると、何というか同情してしまう。


「怪我はもう大丈夫なのかな?」

「ええ、もう運動しても大丈夫だと。なんとか体育祭には間に合いましたよ」


 左手も右肩も、既に包帯は取れている。傷もほとんど残っていない。


「それは良かった。明日は君と彩月ちゃんにも巡回を頼もうと思ってたからね。怪我が残ったままだったら困る所だったよ」

「巡回と言うと……例の犯行予告の件ですか」


 風紀委員会への宣戦布告とも取れる大胆な犯行予告を送り付けた人物は、未だ怪しい動きを見せていない。少なくとも俺と彩月が知る中では、実行委員の誰もそれらしい被害を受けていないのだ。

 実行委員を襲う事で体育祭を成り立たなくさせるだろうと踏んで、俺達は身構えていた。しかし実際は、体育祭を明日に控えた今日までまるで異変が無い。俺達の狙いは外れたというワケだ。


「犯人が当日に動くとなると、一体何をしでかすか……より一層警戒する必要がありますね」

「実を言うと、私も少し焦っていてね。犯人が今日まで何もしてないならまだしも、水面下では準備を進めているのに私達が気付いていないだけだったとしたら、犯人に万全の体制で動かれる事になる」

「やっぱり、犯人を捜した方がいいんじゃないですか? 動いた所を狩るのが風紀委員会のやり方だとはいえ、今回の敵は動かなさすぎます」

「……そうだね。いつまでも悠長に構えていては、防げる事件も防げないか」


 考えるような少しの間が空いて、先輩の口から出たのはため息だった。


「しかしね。私達は今までこのやり方でみんなひっ捕らえて来たから、警察みたいな地道な調査は不得手なんだよねぇ」


 確かに、先輩の話はもっともだ。

 風紀委員会が風紀違反者を取り締まるのも、校内で見つけてその場で捕まえる事がほとんどだろう。今回のようにわざわざ予告してくるケースなんて珍しいはずだ。


「それなら、そういうのが得意そうな人に協力してもらうのはどうですか?」

「その口ぶりだと、誰か心当たりがありそうだね。信用できるのかな?」

「ええ。根拠はありませんけど。個人的に信頼できる奴がいます」


 根拠は無い、という所が不安かもしれないが、先輩は首を縦に振ってくれた。


「分かった。今は協力者を増やすとしようか。もしもその子が犯人と繋がってた場合は、君ごと処罰する形で責任を取ってもらうね」


 ……その言葉は少し怖いが、あいつならきっと大丈夫だろう。





     *     *     *





「――そういう訳で、お前の双肩には俺の首がかかってる。もう一度聞くけど、本当に心当たりは無いよな?」

「無いってば! そもそも体育祭が無くなったら困る側だからな俺は。情報部の副部長として」


 作業の合間を縫って呼び出しに応じてくれたケンは、心外だと言う風に両手を広げた。


「それなら良い。まあ、お前なら大丈夫だって信じてるからこうして呼んだんだけどな」

「そりゃ嬉しいけどよ……何でよりにもよって()()なんだ? 俺すげぇ緊張するんだけど」


 俺達がいるのは、学園生なら九割が入室を拒むとされている風紀委員会室。しかも風紀委員長と副委員長もセットだ。こっちには俺と彩月がいるとはいえ、ケンが硬くなるのも分かる。


「情報部の部室じゃ駄目なのか? こういった捜査は部長が大得意だと思うんだけど……」

「作戦の性質上、協力者を無闇に増やすのは憚られるのですよ。あなたをチームに入れるのも、委員長の判断でなければ反対してました」


 委員長席の隣という彼女だけの定位置に立っている七実酉(ななみどり)にじろりと目を向けられ、ケンの肩が小さく跳ねた。七実酉の仏頂面は感情が読めなくて初対面だと怖いからな。情報部として、風紀委員会の事も一般生徒より知っているであろうケンが怖がるのも無理はない。


「それに、そちらの部長さんも動くとなると、おのずと『学内情報部が何かやっている』という見方をされる事になります」

「な、なるほど……あんまり大きく動くと、犯人に気付かれちまうもんな……」

「だから君に頼みたいんだ、(かずら)君。学内情報部としてではなく、芹田君や彩月ちゃんみたいに『個人』としての協力者になってもらいたくてね」


 岸華先輩にそう言われ、ケンはさらに硬くなった。

 今の先輩には怖がるような含みも圧も乗っていないが、彼女の恐ろしさと強さを知っているケンからすれば、七実酉みたいなあからさまな棘よりも笑顔の方が得体の知れなさを感じるのだろう。


 今はガチガチに緊張して頼りない親友だが、やる時はやる男だ。本人は『部長には遠く及ばない』と謙遜するが、彼の情報収集能力も並ではない。

 今回の作戦では、全校生徒の中から犯人を絞り込むための情報を見つけたり、撮影用ドローンや固定カメラでの監視を行ってもらう事になっている。


「頼りにしてるぞ、ケン」

「おおおおう、まま任せとけ」


 不安になってきた。


「葛君の言う通り、大きく動きすぎると犯人に気付かれる恐れがある。だから私達、風紀委員会も大きな対策を取ることが出来ない。せいぜいいつも通りパトロールするくらいだね」

「あまりにも不審な奴は警備員や先生にも呼び止められると思いますし、警備の目に関しては十分だと思いますよ、先輩」


 今年の体育祭は某二人組の熱意に引っ張られる形で例年以上の規模になった。外から見に来る客もそれに比例して増えるだろうし、それが無くともこの前のテロ事件もある。警備は自然と強化されるだろう。

 そういった警備関係の打ち合わせは実行委員として俺も参加していた。だから監視の目の数にはそれほど不安はない。


「問題は、どうやって犯人候補を絞り込むかだな」

「送信元は情報室の十二番コンピューターの匿名通報システムで間違いないですし、送信履歴も確かに残ってました」

「けど、サイコメトリーには誰も映ってなかったんだよね……」


 彩月も難しい顔で顎に手を当てる。


「サイコメトリーって、物体の残留思念を読み取る能力だよな。それでも見えないなんて事あるのか?」

「無いとは言いきれないかなー」


 ケンの疑問をやんわりと否定する彩月。


「もしかしたら、サイコメトリーの逆タイプの能力が存在するかもしれないからね」

読み取り(サイコメトリー)の逆……残留思念を拭ったり上書きする、記憶の『書き込み』みたいな事か」

「そういうこと。人の記憶をいじくる能力も世の中にはあるんだし、物体の残留思念に対しても似たようなことが出来るかなーって思うんだ」

「なるほどな。精神系の能力者なら似たようなことが出来そうだ」

「とは言っても、サイコメトリーの対象は無生物だから、人や動物の記憶を読むタイプの精神系能力のセオリーに当てはめていいのか、イマイチ微妙だけどね」


 彩月は肩をすくめる。

 俺達より深いであろう彼女の知識をもってしても、ヒントが少ない現状ではここまで推測するのが精一杯って感じだった。


「記憶を書き込む能力か。まさにサイコメトリーを欺くためにある能力だな。聞いた事無いけど……部長なら知ってるかな」

「だから、情報部を使うのはナシですよ」

「ひぃ、分かってるからそんな睨まなくても」

「……別に睨んでないです」


 七実酉の視線に過剰反応するケンの言う通り、対サイコメトリーにのみ力を発揮する能力なら、その能力者単体の脅威度は低いと見ていい。けど、犯人が送り主ひとりだけとは限らないもんな。

 犯人の数も能力も分からない以上、満足に絞り込むこともできない。やっぱり俺達は、事が起こるまで何もできないのか?


「……」


 いや、後手に回る事がほとんど確定しているなら、準備をすればいいだけだ。事件が起きないよう警戒するだけじゃなく、何が起きてもいいように対策を練るんだ。

 その気付きを後押しするように、俺の頭にひとつのアイデアが浮かんだ。


「岸華先輩。それにみんなも。ひとつ提案というか、お願いがあるんだけど――」


 使わないに越したことはない最後の手段を、俺は皆に伝えた。


 体育祭は明日。

 成功させようとたくさんの人が力を合わせたこのイベントを、台無しになんてさせてたまるか。



【第七章 必要なもの、必要とされるもの 終】

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