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サイケデリック・モノクローム ~異能学園成り上がり計画~  作者: ポテトギア
第七章 必要なもの、必要とされるもの
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燃料はやる気だけ

 考えてみれば、彩月(さいづき)が体育祭実行委員になった場合、夏休みが開けてから放課後の特訓は時間が変わったり無くなったりするだろう。放課後は委員会の集まりや仕事で忙しいだろうし。

 そうなれば俺は一人で特訓する事になり、結局トレーニングの時間が減るのは確定していたという事だ。


 なので結果的に、俺が実行委員会への所属を拒む理由は無くなった訳で。あんな強引な決め方にはなったものの、特に嫌になったりはしなかった。もちろん、四季野(しきの)辻村(つじむら)にはいつか借りを返すことに変わりはない。

 ただまあ、相方が彩月である以上、変な方向に暴走しないか心配なのは変わらないんだけど。


「ここか」


 そんなこんなで実行委員が決まったB組は解散し、俺と彩月は実行委員会の会議があるという部室棟二階の空き教室の前まで来ていた。ここが体育祭実行委員会の部屋となるらしい。


「やっと着いたよー。なんか遠くない?」

「一ヶ月間自由に使える部屋が本校舎には無かったんだろ。しょうがないさ」


 教室の中は、長机が穴の開いた四角形に並べられた、いわゆるな見た目の会議室って感じの内装だった。既に数人の生徒がまばらに着席している。特に寄る所も無かった俺達は教室から直行して来たので、開始時間より早めに着いてしまったらしい。とりあえず『二年B組』と記されたプレートのある席に座る。


「ここの体育祭、初めてだから楽しみだなー」

「面倒臭がるやつも多いのに、お前は誰よりも楽しみにしてるよな」

「まあね。体育祭なんて高校生活で三回しか出来ないんだよ? 全力で楽しまなきゃ損だよ」


 回るタイプの椅子に座ってぐるぐるしながら彩月は言う。

 こいつのこういう前向きな所は、俺を含め多くの高校生が見習うべき所なんだよな。


「しかも一番人気の能力者学校の体育祭だからね。やっぱり能力使いまくったりするの?」

「そこは競技によるって感じだな。リレー種目では転移系の能力は禁止だし、障害物競走では過激じゃなければ能力による妨害も障害物扱いでアリになってる」

「ほえー」

「そこら辺の細かいルールの見直しも、実行委員会の仕事らしい。もっといい案があれば変更もできるし、何なら新しい種目を追加する事だって可能みたいだぞ」

「じゃあ全校生徒でルール無用の大乱闘」

「言うと思ったよ! 却下に決まってるだろ」


 体育祭って言葉の意味を分かってるのかな?

 いくらランク戦という生徒同士の戦いを認める制度があるとは言え、どう考えてもガチンコバトルは『体育』じゃありませんよ。


「それに、少ないとはいえ外から見に来る人もいるんだぞ? あんまり過激な殴り合いは見せられないだろ」

「お客さん少ないの?」

「生徒の家族とか知り合いとかがほとんどで、それ以外は少ないな。一般公開されるって言っても高校の体育祭だし、見応えはまあまあって所だろ。有名校だし他の高校よりは多いかもしれないけど」

「えー、なんか勿体ないなあ。せっかくならもっと大規模なお祭り騒ぎにしたいのに」


 なんでも、近年の実行委員会が全体的に無難に進めたがっているとか、派手に暴れすぎると苦情が入るとか、理由も一つではないらしい。


「まあ文化祭でもないしな。あんまり外から人を呼ぶほどのモンでも無いだろ」

「そんな妥協が許されると思っているのか君は!」

「!?」


 いきなり後ろから大声を出され、思わず肩が跳ねた。振り返るとそこには、金色の前髪をフサァっと大袈裟に払う色白の美男子が立っていた。

 直接話した事はないけど、その顔と声には心当たりがある。彼の事を知らない二年生はいないだろう。一緒に振り返った彩月も、見知った顔を見て声を弾ませる。


「あっ! 4位君だ!」

「お前も実行委員になったのか、4位……」

鏡未(かがみ)佐九(さきゅう)だ。あまりに聞き慣れ過ぎた名前は逆に脳から零れ落ちてしまうのか……有名人の悲しき宿命だな」

「なんの逆だよ」


 有名人なのは事実だし否定しないけど。

 このナルシストお坊っちゃんはルックスも良いし二年ランク4位という実力もあるし、それにお金持ちだとかで有名だ。超大企業の御曹司とかいう話だけど、詳しくは知らない。

 これで自分の事が大好きな性格じゃなけりゃ、あの志那都(しなつ)に並ぶ人気者になっていたことだろう。まあどちらにしろ、悪い奴ではない、と思う。


「まさかこんな所で顔を合わせる事になるとはね、彩月夕神(ゆうか)君。五月のランク戦では惜しくも敗北を喫する事となったが、次は負けないぞ」

「いいねえ、再戦はいつでも待ってるよ」

「惜しくも……?」


 鏡未には申し訳ないが惨敗だった気がする。


「それに君もだ、芹田(せりだ)君」

「え、俺?」

「彩月君が育てているという君とも、いつか戦いたいと思ってるよ。第2位となかなかに渡り合ったと聞くしね」

「ははは……お手柔らかにお願いします」

「それに、髪の色が原因で『無能力者』と呼ばれていた君にはある種の親近感が湧いていてね」


 綺麗にセットして来たのであろう肩近くまで伸びるサラサラの金髪を指でつまみ、鏡未は苦笑した。


「旅行や留学で海を渡る度、僕も同じようなからかわれ方をされたものだ」

「あぁ、確かヨーロッパ辺りだと、お前みたいな金髪碧眼は昔から無能力者でも割といるんだってな」


 能力の影響か能波の影響か、能力者の髪や虹彩は突然変異のように無能力者とは異なる色になる。つまり、日本で金髪といえば能力者だが、元々金髪の血筋なら金色の髪でも無能力者の証になるという事。

 考えてみれば確かに、日本での俺みたいだな。そう言われると仲間を見つけたみたいでちょっと嬉しい。


「まあもちろん、この偉大なる僕を笑いものにした奴らは全員ズボンの中を砂漠にしてやったけどね」

「仕返しが全然偉大じゃない……」


 そんな事を話しながら鏡未と、それから彼と一緒に入って来た女子生徒も自分達C組の席に――つまり俺達B組の隣に座る。

 右に彩月、左に鏡未。オセロなら俺もおかしくなっちまう。


 世間話をしているうちに人が集まっていたようで、すぐに二十人弱の全実行委員が集まり、会議が始まった。


「皆さん、集まっていただきありがとうございます。実行委員長は生徒会の会計も担当している僕、(たちばな)が務めさせていただきます」


 どうやら橘先輩という真面目そうな男子生徒がこの実行委員会を指揮してくれるらしい。俺が知る限りでも二つの『未知数』が両隣にいる訳ですが、体育祭の終了まで無事に舵を切ってくれる事を祈ります。出来る限りサポートはしますんで。


「初めての方がほとんどだと思いますので、始めに大まかな仕事の説明と体育祭までの流れを――」

「はいセンパイ!」


 さっそく彩月が手を挙げた。まだ何も聞かれてないのに。

 有名すぎる彩月のことは橘先輩も知っているようで、いきなり話を遮られて驚いていた。


「え、えっと、二年B組の彩月さん、ですね。どうしましたか?」

「ボク委員長やりたい!」

「駄目に決まってんだろ!」


 両肩をがっしり掴んで強制着席。何の悪気も無くただの好奇心で進行役の席を奪おうとしたクラスメイトの代わりに俺が頭を下げた。


「すいません先輩。どうかお気になさらず」

「で、では、続けますよ……? まずは実行委員会の仕事の説明を」


 気を取り直して、先輩は手元のタブレット端末に視線を落とす。先輩の操作に反応して、それぞれの組につき一つ置かれていたデバイスがホログラムパネルを映し出した。書かれている内容は、俺達実行委員がやるべき仕事について。


「前日までの準備としては、まず競技種目の選定です。これは問題がなければ例年通りでも構いませんが――」

「問題ならあるだろう!」


 今度は左から。許可なき発言者は立ち上がり、いつも通り芝居がかった喋り方で橘先輩を指さした。


「去年の体育祭はあまりに普通すぎた! あれを今年も続けるだと? そんな事、この鏡未佐九が実行委員である以上、許す事はできないッ!」


 なんか彩月と似たようなことを言ってる。

 そう言えばついさっきも「妥協は許さない」とか何とか言ってたな……まさか鏡未がこれほど体育祭に情熱を抱くやつだったとは。意外だ。


「あんなどこでも見れるようなプログラムじゃあ、僕の華やかさをアピールできないじゃないか!!」


 違った。ただ自分が目立ちたいだけだった。


「そこでだ。ただ新しい競技を組み込むだけじゃなく、全ての競技ルールを今一度見直し、改定する! より多くの人に見てもらえるよう、広報活動も抜かりなく。競技で使用する道具類も全て派手に改良だ! 古くなった機材も一新してしまおう!」

「で、ですがそれだと予算が……」


 生徒会の会計役でもあるという橘先輩がお金の話になって苦い顔をする。が、お坊っちゃんは退かない。


「ふっ……僕を誰だと思っている。世界最大手ホログラムディスプレイ開発企業、ミラーズコーポレーションの御曹司にして次期社長候補、鏡未佐九だぞ? 金も伝手も腐るほどある。集客も機材の総入れ替えも朝飯前さ!」

「マジか。お前の実家ミラーズだったのかよ」


 知らなかった。大企業も大企業じゃねえか。そりゃ学年内で有名になるほどお金持ちなわけだ。


「この学園の機材のほとんどがミラーズ社製、しかも一部は旧型だ。そんなものを僕が在校する代で使っているとなるとミラーズ社の沽券に関わる問題だ! 学園の外からも人を集める以上、妥協は許されない。これが僕達の体育祭、ひいては星天学園全体のイメージにも繋がるのだから!」


 所々大袈裟ではあるけど、言ってる事は間違いでもない。

 ただの目立ちたがり屋だと思ってたけど、彼も体育祭を成功させるために一生懸命だったんだな。


「せっかくの体育祭だ。見る者全ての心に刻まれるような一日にしたい! 否、僕達にはそうする義務がある!」

「いいねその話! ボクも賛成!」


 選挙運動か何かみたいに拳を握って熱弁する鏡未。

 彼の声に一番に賛同したのは、このイベントに対して同じくらいの熱意を持つ白髪の少女だった。


「年に一度の体育祭なんだから、普通じゃつまんないよね! 去年のは見てないから分かんないけど、少なくとも今まで以上のものにしないと!」


 彩月も立ち上がり、ワクワクした顔でそう力強く告げた。これには鏡未もにっこり。

 当然、二人以外は全員困惑しているが、やる気に火が点いた当人たちは周りの様子など気にも留めていないらしい。


「目玉となる新競技は必須だろうな。とは言え、定番の競技を除外する訳にもいかない……時間的に考えて、午前の部と午後の部でそれぞれ一つずつ新競技を設けるのが現実的か」

「やっぱり星天学園と言えばランク戦じゃない? 能力者同士の戦いなんて、一般人はほとんど見る機会無いだろうし。普通の一対一はみんなやり慣れてるし見慣れてると思うから、いっそのこと複数人を交えた戦いとかどうかな」

「なるほど……エキシビションとしては十分見応えがありそうだ。採用!」


 二人ともやる気があるのはとても良い事だと思うよ? でも問題は、今は意見交換の時間じゃないって事かな。

 先輩の話を遮って他の実行委員を置いてけぼりにしながら、二人だけがもりもりとアイデアを出しまくってる現状はよろしくない。


「ちょっと彩月、一旦ステイしようか? そういうのは後から話し合おうぜ」

「むぅー」

「か、鏡未君も落ち着いて。会議進まないから……!」

「仕方ない。しばし温めておくか」


 C組のもう一人の実行委員さんも協力してくれたおかげで、どうにか先輩のお叱りを受ける前に暴走列車を止める事ができた。


 橘先輩によるその後の説明も、二人を押さえつけながらなんとか進めてもらった。実行委員会としての初めての集まりという事もあり、今日は今後の説明だけで解散。終わる頃には、俺とC組の二人目さんはぐったりだった。あと橘委員長も。


 彩月の制御に苦労するのはもはや予想通りだったが、まさか鏡未との相乗効果でより手を焼く羽目になるとは。

 この二人を並べる時は細心の注意を払うべきだな。

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