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チートじゃないけど頑張る

シルカの実には、何種類か色がある。

家では白しか使わないから気づかなかったが、婆様の家に通うために大島に行くうちに気づいた。

白から薄い黄色、黄緑、緑、深緑から朱赤までのグラデーションで色が揃っている。

熟していくと色が変わるのだそうだ。

収穫時期をずらすことで何種類かの色を用意する。

また、気候が合っているのか、ジャパンブルーと元の世界では呼ばれる藍を作りやすい環境のようだった。

本当は繊細な温度や湿度の調整が必要なはずだが、婆ちゃんの熟練の手つきで切った藍の葉に酒と蜜を入れて混ぜると「藍花」ができて「すくも」という染められる状態になってしまうらしく、台所の勝手口にあると聞いて仰天した。

あの壺、でっかい梅干しの瓶かと思ってた。

白いシルカ糸を藍の青で何色か濃く淡く染める。

更にトルリコに色のついたシルカを取ってきてもらい、ネルリコと母さんに糸に紡いでもらって、慎重に組み合わせた。

職人魂が騒ぐわ!


左手に糸を巻き付ける用の糸枠を構えると、十二色ほどそれぞれ違う糸枠に巻かれたシルカの糸を右手でいっぺんに掴む。

丈夫なシルカの糸が、ピンと張った。

そのままスルスルとまとめた糸を糸枠に巻き付けてゆくと、青や深緑、薄い黄色と角度によって違う色に輝く太い糸になった。

それを使って数日。

繊細なグラデーションを織りなす、ボルフの手のひら大の小さな海の色の布、サンプルが出来上がった。

(使える織り機で良かった!)

でき上った布をボルフに持っていく。


「……美しいね!これは、いろんな国……特に装いが華やかになりつつある首都メーユで受けるだろう。サリラ様に連絡しなくては」


と、ボルフが感心したように言う。

編み物ではよく見かける、確か「引き揃え」という技法である。

やっぱりこの世界にはなかったらしい。

ネルリコたちには経糸の仕組みがすぐに分かってしまったらしく「面白い工夫ね」と言われた。


「実は簡単な技法だから、見破られてしまうかもしれないけれど、しばらくはボルフが大儲けできるはずよ」

「いや、僕は大儲けがしたいんじゃなくて……」


夢見るようにボルフは語りだす。


「原初的文化というか……土地に根差した、手仕事や歌がとにかく大好きなんだ。けれど、メーユ王国やハポン国の文化に押されて、原住民族やナワキ諸島のような文化が滅びつつあるだろう?今の代はいい。でも、その次は?そのまた次は?……僕はこの文化がずっと続く仕組みを整えたいんだよ」


なるほど、ただの商人ではないわけだ。奇特なお金持ちってところだろうか。

その割には身なりに構っていないけれど。


「じゃあ、なおさら祈りの衣に手を出してはだめよ。祈りの衣は私たちのナワキ諸島を守る衣らしいの。文化を壊すわ」


そう言うとボルフは不思議そうな顔をした。


「……前の世界で君は、いくつくらいだったんだい?」

「……三四歳よ」

「子どもは?」

「夫もいなかったのよ」


ボルフは「へー」という顔をした。

私は恥ずかしさでいっぱいだ。

実年齢三四歳の未婚のおばさんがしれっと六歳の美少女をやっているのである。

婆様にもバレているはずだ。

でも、こうなっちゃったものは仕方がないのよ!

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