ボルフの無茶ぶり
「何度来ても返事は一緒だよ!ボルフ!祈りの衣は渡せない!」
気の短い父さんの声が今日も神島中に響く。
人の良いボルフが漁師で荒っぽい父さんに追い払われそうになって困り切っている。
最初はびっくりしたけれど、今やおなじみの光景だ。
「いくらお金を積まれてもダメだ、神に捧げるためだけに作るっているんだ」
私は糸を染め、織り機に糸をかけて、織るだけならできるのである。
しかし、糸芭蕉を育て、手入れをして、刈り取るのはともかく、「うだき」や「うづみ」などをして糸にするのを、あきらめることにした。
芭蕉布やっぱり高いだけあるね!
しかも、我が家で作られる「祈りの衣」には、さらに工夫というか、特別な加工がある。
シルカという真っ白な木の実から、絹によく似たごく細い糸を紡ぎ出して芭蕉の糸と混ぜて織るのだ。
試しに着てみて怒られたが、その軽さと涼しさにびっくりした。
不思議な光沢があって、顔が明るく見える素晴らしい布なのだ。
これはボルフが欲しがるはずである。
ボルフが何をしている人かは知らないけれど。
「漁だけの稼ぎでなんとか暮らしているんだ、本当にお金は要らないよ」
「じゃあ」
ボルフの声が必死の抵抗をしている。
「キャリコの薬代分だけでもどうにかならないかな?」
うっ、と父さんが詰まるのが分かった。
ひらり、とボルフが請求書らしき紙を見せる。
「俺たちは文字も数も読めない。分からないから払えない」
「その理屈は通じないよ」
私はパッとボルフからその紙を奪った。
請求書には薬らしきものの名前と銀貨五枚と書いてあった。
おっ、今こそ活躍の時なんじゃないの?
私はボルフに言った。
「祈りの衣には敵わないけれど、私が新しい布を織って売るから、それでお代にしてくれない?」