婆様の判断と我が家の現状
「ふうん、中身が渡って来てしまったのかい」
藍色の衣を身にまとい、耳と首に大きな血赤珊瑚を飾った婆様が、私の顔をじっと見ながら言った。
その珊瑚は染めていないんだな、と思うと、
「珊瑚を染める?染める必要が何であるんだい?面白いことを考えるねぇ」
「白珊瑚を赤く染めて価値を出すんですよ」
「ボルフの所ではそうなのかい?」
そうらしい。日本でも現在はそうである。
ぺとっとした不自然に濃い色の付き方をしているので、見る人が見れば一発で分かってしまうけれど。
それよりも婆様には考えたことが分かってしまうのか。怖い。
「怖い?この婆はちょっと聞こえるだけさ。まあ、子どもはたくさんいる。瞳の色が変わってネルリコと見分けがつけやすくなって良かったと思えばいい」
よく言えばおおらか!
言い換えると雑!
それよりも、私はこのかわいいネルリコと同じ顔をしているらしい。
異世界転生よありがとう。
「三つ子だからね。それよりボルフ、普通の珊瑚はともかく、血赤珊瑚はこの島々の宝の一つだ。売ることはできないよ」
「分かりました、芭蕉布だけでも十分なのですよ」
「祈りの衣に手を出させることはできないけれどね」
「それが悔しいんだよなぁ」
……芭蕉布?
「そうそう、糸芭蕉を刈り取らなければ日を逃してしまうわ! 早く私たちの島に戻らなくちゃ!」
……私、また、染織職人になっちゃったの?
続けていけないと思って辞めた仕事だったのに。
異世界転生よどうしてくれる。
トルリコとネルリコに引きずられ、私は小さな手漕ぎの舟に乗せられて海に滑り出した。
「畑で突然倒れてしまったから、ボルフのいる大島に連れて行ったのよ」
「目が海の色なのはきれいだけれどなおるのかなぁ」
二人は口々に言いながらオールを漕いでいる。
まだ小学校に上がるかどうかという年頃のように見えるのに立派なものだ。
島は近かったらしく、すぐに浜辺に着いて、私は2人に導かれて草だらけの小路を歩いた。
「キャリコ、身体が辛いだろうけど糸芭蕉は刈り取らなきゃ。頑張ろうね」
昔、動画で見た糸芭蕉の刈り取り風景を思い出して、その大変さを想像してうんざりしながら歩いていくと、予想より小さな畑があった。
「……これで、どれだけ何が作れるの?」
と聞くと、逆に不思議そうな顔をされる。
「父さんとトルリコの祈りの衣が作れればいいから、これ以上は要らないよ」
「えっ、売らないのね?」
「身を清めて神に祈りを捧げながら作った衣を何で売るのさ。キャリコはおかしい!」
二人は怪訝そうな顔をしているけれど、私はまっとうなことを言っているよね?
「一体どうやってお金を稼いでいるの?」
「普段は父さんと俺が漁をして魚や貝を取って来るだろう?」
「あ、婆ちゃん達がいる! キャリコ、無事だったよ!」
畑にいる腰の曲がった小さな老婆と両親らしき男女に二人が手を振るので、つられて私も手を振った。
いや、それよりも、お金を稼がなくてもいい布作り。
そんなの理想すぎる。
異世界転生よありがとう。