目覚めたらやっぱり染織職人だった
パンッ、パンッっと激しく顔をたたかれている。
痛い。
さらに激しく体をゆすぶられている。
「大丈夫? 目を覚まして、キャリコ!」
普通人が倒れた時は、じっと安静に寝せて救急車を呼ぶのである。
うちのアホな弟はそれも忘れてしまったのか。
ていうかキャリコって誰だ。
とにかくほっぺたが痛いよ。
「やめてちょうだい……」
ゆっくりと目を見開くと、不安そうに私をのぞき込む少年がいた。
良く日に焼けた、淡い珊瑚色の髪に金の瞳の将来が楽しみな精悍な男の子だ。
残念ながら知らん子だけれど。
「死んだかと思った……!」
いや、ええと。
ゆっくりと見回すと、ちょっと古い木造の部屋の縁側に中年の男が見えた。
厚手の紺色の綿の服には少し汗が染みている。
「こんな時ばかり利用してすまない、ボルフ」
「いいんだよ、トルリコ。僕がしたのはメーユ王国の薬を飲ませただけさ」
「急に倒れて。びっくりしたよ、キャリコ」
……これはもしかして、今流行りの異世界転生とかいうやつか。
「私、キャリコ? 理央じゃないの?」
確認すると「当たり前だろう」と少年はうなずき、中年の男は「エッ」と表情を変える。
「もしかして、君は……別の世界を知っているのかい?」
話が早くて助かる。
うなずくとボルフに確認した。
「この国では他にも同じような人がいるの?」
「メーユ王国の北部にいる原住民族の民にはいるけれど、メーユ王国やハポン国では見たことがない。まさかこのナワキ諸島にもいるなんて。神につながる土地だからかな」
どうやら、異世界転生は確定らしい。
しかし、神につながるっていかにも異世界っぽいけど、私は何の使命を帯びているのかね。
できるのは染織くらいしかないぞ。
「キャリコ、起きたのなら糸芭蕉の刈り取りを手伝ってってお母さんが言ってる……なに、その瞳!海の色なってる!」
「本当だ、ネルリコ!」
のれんのような布をくぐって飛び込んできた、トルリコと良く似た淡い珊瑚色の髪に金の瞳の美少女が、驚いて私のほっぺたをわしづかみにした。
トルリコとネルリコの髪と瞳はお揃いの淡い珊瑚色だ。
(いちいち荒っぽい異世界だな)と渋い顔をしている私をよそに、3人はわあわあ騒いでいる。
もっと詳しく言うと、ボルフがトルリコとネルリコに問い詰められている。
「あのメーユの薬は毒だったんじゃないのか?」
「キャリコを元に戻してよ!」
うーむ、かわいいお子さんたちよ、残念ながら違う。
君たちのキャリコは私、理央になってしまったのよ。
しかしこれを大っぴらにしていいのか。
ボルフを見ると、困ったように私を見返してきた。
「相談できる婆様がいればいいんだけれど……」
「この島にも婆様くらいいるわ!」
「今すぐ相談しに行こう!」
……倒れて起きたばかりの人をぐいぐい引っ張らないで!
えっ、手足が短くて歩きにくいよ?