表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/32

早朝散歩

「異例の早さだよ。芭蕉布とキャリコの布が認められたということだね!」


嬉しそうにボルフは言うが、私は緊張で一杯である。

大商人であるサリラ家ですらこの規模である。

そうか、メーユ王国の王宮は日本の皇居だと思えばいいか……いや、思えるかー!

というか、日本の一般人には皇居の中にいる自分を想像できないではないか。

王宮にいる自分、というワードが急に現実味を帯びる。


(プレッシャーで、眠れない……!)


前日、ほぼ徹夜で過ごしてしまったのである。

その次の日、謁見する日の早朝に、身支度を整えた私はそっとサリラ家を抜け出した。

庭は歩きつくしてしまったのだ。

サリラ家は王宮のごく近くにあるらしい。

「クエー」と遠くで聞こえるのは竜の鳴き声だろうか。

市場まで続く分かりやすい大きな道に出ようとして、小路から飛び出した男の子とぶつかった。私よりちょっと小柄だ。ぼさぼさの金色の髪に、ぱっちりとした紫色の目。


「すまぬ!」


……ずいぶんといい生地。でも、これは寝間着ね。


「いいえ、こちらこそごめんなさい」


ボソボソと話していると、私の姿を改めて見た男の子が目を見開いた。


「そなた、異国の者か?」

「ナワキ諸島のキャリコと言うわ。それより、あなたは何でそんな恰好をしているの?」

「今逃げないと、今日も一日中ずっと執務と公務なのだ」


男の子はふう、とため息をつく。


「キャリコは何故ここにいるのだ?」

「闘うために気合を入れているのよ」


闘う……とつぶやくと彼はしょんぼりする。


「みんな言うのだ。お前はやればできる、闘え、と」


反社畜派の私は思わず言った。


「逃げちゃっていいじゃないの。無理を重ねると潰れるわよ」

「……私にそのように言う者はいなかった」

「逃げるも闘うも自由よ。今日は私、闘うの」


まぶしいものでも見るように男の子は私を見た。

王都の建物の隙間から朝日が昇ってくるのが見える。

雲と建物の壁がオレンジ色に染まって、闇がうっすらと青空へと変わるグラデーション。


「ほら、きれいな空……これだけでもう、今日は最高じゃない?」

「そうだな……」


男の子は初めて朝焼けを見たかのように空を眺めた。


「そして、キャリコの髪も瞳も爪もドレスもマフラーも、心もきれいだ」

「まあ、ありがとう。あなたの髪も瞳も言葉も素敵よ」


小さくても紳士のようだ。どうぞそのままいい男に育っておくれ。


「私も、今日は少し闘ってみよう。私はイーホンと言う。覚えていてくれると嬉しい」

「忘れないわ。お互い頑張りましょうね、イーホン」


市場は見られなかったが、充分楽しかった。

二人で見つめあって笑い、それから手を振って別れたのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ