メーユ王国、サリラ家
竜に乗ってからはあっという間で、なだらかな水平線を見ながら眠っているうちに王都メーユについてしまった。
メーユ王国は建国300年の歴史を誇る巨大国家。
前王が無理矢理行った領地拡大戦争を終えて代替わりしてからは、緊縮政策をとっていると聞いていた。
けれど、赤い瓦が連なってまばゆく光る、王都メーユはなんて華やかなんだろう。
早速国王にストールを献上する。
一緒に来てくれていたボルフは娘の家に泊まるのだと嬉しそうに言って去り、自分一人がサリラ家に泊まることになってしまった。
サリラ家、広くて豪華。
前世の友達の結婚式で行った椿山荘くらい広くて豪華。
通された部屋も、前世の私の家より大きくて、家具も豪華で、身の置き所がない。
(これはどんな罰ゲームだ?)
しかしご飯がねぇ、美味しくて仕方がない。
お菓子を転生してから初めて食べたよ。
クッキー!
クッキーがこちらにも存在してくれているなんて。異世界転生よなかなかやりよるな。
バターが多めでシンプルな、なんてことないクッキーなんだけど最高に嬉しかった。
お風呂があるのにもびっくりした。石鹸も、あったのよ!
ふと思いついてお酢と食用油をもらえないか聞いてみる。
すぐさま用意してくれた。
石鹸で髪を洗った後、お湯にお酢と食用油をちょっと混ぜて、髪をしっかり浸した後、お湯で丁寧に洗い流す。
前世では「リン酢」と呼ばれていた。
石鹸で洗っただけの髪はアルカリ性に傾きすぎて傷んでゴワゴワしてしまう。リン酢で酸性を足すことで中性に戻し、オイルで艶を出すのだ。
暇を持て余していないか、様子を一度見に来てくれたサリラが、私の髪を見てびっくりした。
「キャリコの髪はどうしてそんなにサラサラでツヤツヤなの?一体何をしたの」
「簡単な事なのです」
「ぜひやり方を教えてほしいわ!」
……これお金にならないかな?
「……金貨三枚ではどうでしょう?」
婆ちゃんを医者に診せるのに必要なお金だ。
島では帳簿につけても見たことはない。ハッキリ言って大金だ。
しかしサリラ様はポンと払ってくれた。
これで儲けるのだとホクホクしている。
「これからも何か思いついたら言ってね」
うーむ、大商人は気前が良くて頭が柔らかい。
それはともかく、美食を楽しみ、肌や髪を磨きながらとにかく国王からの返事を待つしかすることがない。
街は子どもには危ないと言われ、暇つぶしに散歩することもできない。
椿山荘のような見事な庭を歩き回るのはよいようだ。
ずうずうしく入っていい区画を聞いて、全制覇することにした。
その全制覇をした四日後に謁見を許されたと知らせが来た。