よくできました
織る時、理央の時代から調子のいい時は不思議とトランス状態になった。
調子に乗った学生時代、人生が狂った社畜時代、去って行った彼氏や友達、楽しかった、上手くいかなかった人生のあれこれ。
それを布にぶつけて、織っていくうちにきれいなものが出来上がる。
あんなおそろしいみだれたそらから
このうつくしい雪がきたのだ
そんな一片を思い出しながら、頭がからっぽになっていくのが快感だった。
暑いこのナワキには雪は降らないけれど、理央は転生してもう今はキャリコだけれど、その時その時の自分の思いを布にぶつけるのは変わらない。
頬を叩かれて目覚めた日。糸芭蕉の畑の香り。きつい労働。驚くべきトイレ。美しいが容赦ない森。死んでいく赤子や子ども。私たちの手拍子、歌う声。父さんとトルリコの舞う姿。かぷかぷと笑う声。頭の上を渡っていった魚。ゆるゆると通り過ぎたカブトガニ。青く溶けた衣。
全て全て、この布へ込めよう。
恐るべき集中力で、私は三日間で四本のストールを仕上げてしまったのである。
我が家に様子を見に来たボルフは出来上がったストールを見ると言葉を失って、
「サリラ様に連絡しなくては……!」
と、また通信の魔術具を持って飛び出して行った。
まあ、結構いい出来ですよ。
控え目に言っても、今の自分の最高傑作です。
これ以上は作れないわ。
ボルフに見せていたストールを、神をまつる棚に戻す。
「祈りが込められたものを売るのか……?」
父さんはまだ迷っている。
「婆ちゃんを医者に診せてあげたいわ」
母さんは腹をくくったようだ。
「言われたの」
昔、師匠が言ってくれた言葉を伝える。
「最高だ、手放したくないってものほど手放すべきだって」
だって、トイレを変えるにはお金がいるんだもん!




