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それはそれは素晴らしい布

朝早く目が覚めてしまった。

家族はまだみんな眠りの中である。

一人起き出した私は、工房に向かった。

シルカの糸をチェックし、整経台の前に立つ。

身体にはいまだに昨日の興奮が残っている。


(こういう時が作り時なのよね)


神経が冴えて、ミスも少ないだろう。

すいすいと手を動かす。

複雑な手順を踏むのに迷いがなく、計算も何もせず、勝手に糸が出来上がりたがっているようだ。


(そういえば、前世でもこんなに楽しんで染織をしていた時もあったわね)


昨日の不思議な海を思い出す。

調子に乗ってストール四本分の経糸を作ってしまった。


(ははは、私、何やってんだか)


来年の祈りの衣を作り出すまでにはまだしばらくある。

ここまできたら、調子に乗るだけ乗ろう。四台ある織機に一気に経糸をかけてしまう。

糸を一本一本扱う、おさ通しも綜絖通しもミスがない。自分でも怖いくらいの集中力だ。

夕方近く、家族がごそごそと動き出す気配を感じた。

ああ、みんなは疲れていたのかな?


「キャリコ、今日は儀式の次の日だから、ゆっくりして良かったのよ……」


と、言いながら工房に入ってきた母さんが目を見張って小さく叫ぶ。

叫び声を聞いた他の家族も工房へやって来て、何なのこれは、とつぶやく。

あら?まずかったかな?


「こんな経糸、見たことがない……!」

「素晴らしいわ……!」


えへへ、県の匠と認定された師匠直伝の技よ。

繊細かつ大胆な色のグラデーションと、極細から極太までの糸が織りなす絶妙な風合いが二つとないと絶賛されたのさ。

ヨーロッパの某有名博物館の館長夫人が師匠の工房に来た時、全ての展示品をかっさらって買っていったそうだ。

普段はつましい夫人の暴挙にガイドは驚いていたが、


「これは身に着ける美術品。私はこういう投資にはお金を惜しみません」


と言い切ったとか。

皇族も公私に渡って来ていらっしゃったのよ。

ある日普通に仕事場に行ったらローブデコルテを着た人がいたことはありますか。私はあります。間近で見るとすごいボリュームね。

ある日普通に仕事場に行ったら海外メディアが取材に来ていたことがありますか。私はあります。慣れない英語で苦戦したのよ。

まあ、そういう環境だったわけです。

考えてみれば私の作品は全て師匠の模倣品。

師匠は長年の探求を経て今の作風にたどり着き、私はそれを上からなぞった。

そのなぞったものをさらに師匠は取り入れただけだ。

今さらながら、師匠のありがたみが身に染みたのである。


「一体どういう経糸の作り方をしたの?」

「えーっと」


その言い訳は考えていなかった。


「捧げの儀式を成功させたから、経糸の作り方を神に与えてもらったの?」

「そう、それよ!」


リネリコは本当にいい妹だよ~。


「祈りの力までこもっているわ。今までキャリコは祈りの力が弱かったけれど、ずいぶん強くなったのね!」


そこら辺は分からない。

さすが異世界、ファンタジーなんだな。

あとは織るだけだ。などと考えている私をよそに、家族が口々に言う。


「これで祈りの衣を作ったらどうなるかしら?」

「色付きの衣を神は許さないだろう」

「でも、これには祈りがこもっているのよ!」


……なんだかもめてる?

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